プレスリリース

肥満・NASH・肝がんの予防・治療に新展開!【世界初】植物由来タキシフォリンの新規作用を発見

公開日:2023.1.20
肥満・NASH・肝がんの予防・治療に新展開!
【世界初】植物由来タキシフォリンの新規作用を発見

 国立病院機構京都医療センター・臨床研究センター・浅原哲子研究部長・加藤久詞研究員は、東海国立大学機構 名古屋大学環境医学研究所・菅波孝祥教授・田中都講師、東京医科歯科大学・先端血液検査学分野・西尾美和子准教授を中心とする研究チームと共同で、高脂肪食負荷肥満モデルマウスやNASHモデルマウスであるメラノコルチン4型受容体欠損マウスなどを用い、植物に含まれる機能性分子・タキシフォリンが、肥満および重大な肥満合併症である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対する予防・治療効果があること、さらにNASHから肝がんへの進展を予防できる可能性があることを、世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、欧州の栄養学分野のオンライン科学誌「Nutrients」に掲載されました(2023年1月10日付)。
 

背景

 近年、日本においても肥満の増加に伴い、非アルコール性脂肪性肝疾患・NAFLDの有病者が、健診の約3割、2,500万人と急増しており、最新の報告ではその約25%が非アルコール性脂肪肝炎・NASHに進行し、その約25%が肝硬変に、更に25%が10年で肝がんを発症すると推定されています。ウイルス性肝炎が治療出来る時代となった現在、近い将来、NASHが肝移植の最大要因になると予想されており、NASH の予防・治療対策が喫緊の課題です。しかし、現在NASHに対する標準的治療は一般療法としての食事・運動療法による生活習慣改善であり、NASHの治療を主目的とする確立された治療薬はありません。
 タキシフォリンは、シベリアに自生するダフリアカラマツや野草アザミなどの植物に含まれるポリフェノールの一種で、ヒトが摂取する上での安全性も報告されています。研究チームは、これまで、認知症モデルとして脳アミロイド血管症モデルマウスを用い、タキシフォリンを摂取することにより、脳内血流量の改善や炎症性物質、活性酸素の抑制に伴い脳内アミロイドβ量が減少し、さらに認知機能低下が抑制されることを、世界に先駆けて報告してきました(参考文献1、2)。

研究成果

 今回、高脂肪食負荷肥満モデルマウスやNASHモデルマウスであるメラノコルチン4型受容体欠損(Mc4r-KO)マウスなどを用い、タキシフォリンの肥満・NASH・肝がんの予防・治療に及ぼす効果を詳細に検討しました。その結果、タキシフォリン摂取によって、肥満・NASHに対する予防・治療効果、さらにNASHから肝がんへの進展を抑制することを世界で初めて明らかにしました。
 高脂肪食負荷肥満モデルマウスを対象にタキシフォリンを摂取させた結果、著明な体重・体脂肪量の減少や糖・脂質代謝の改善など、抗肥満効果が認められ、さらに、肝臓内の脂肪量、炎症指標、線維化指標の改善など、脂肪肝の抑制効果も認められました(図1)。また、タキシフォリン摂取群では、直腸温の顕著な上昇や褐色脂肪組織(BAT)における熱産生の亢進を認め、その際、エネルギー代謝亢進作用を有するホルモン、FGF-21の増加が関与していることを明らかにしました。さらに、ヒトiPS細胞から作製した褐色脂肪細胞を用いた検討においても、タキシフォリン投与によって褐色脂肪細胞の活性化やFGF-21の顕著な発現増加が認められました(図2)。以上の知見により、特許出願しております(特願2019-11729)。
 また、菅波らが確立したMc4r-KO マウスを用いたNASH およびNASH関連肝がんモデルマウスを対象にタキシフォリンを摂取させた結果、NAFLD activity scoreの改善など、NASH病態の進展における予防・治療効果を認めました。さらに、肝がんへの進展を検討したところ、タキシフォリン摂取によって肝腫瘍数及び肝がん様病変面積の著明な減少が認められ、タキシフォリンがNASHから肝がんへの進展を抑制する効果があることを初めて見出しました(図3)。
 以上の知見から、タキシフォリンは全身への多面的作用を発揮することにより、肥満・NASHに対する予防・治療効果、さらにNASHから肝がんへの進展を抑制すると考えられます(図4)。

今後の展望と課題

 本研究成果は、肥満・NASH・肝がんの新規予防・治療薬としてのタキシフォリンの可能性を示すもので、特に肥満・NASH・肝がんの効果的予防法や新規治療戦略の開発に多大な貢献が期待されます。現在、ヒトへ投与できる医薬品としての開発を目指し、臨床研究の準備にも取り組んでいます。タキシフォリンのヒトでの効果・臨床的意義を解明することで、肥満→NASH→肝がんに対する効果的な予防法・治療戦略が提唱可能となり、健康寿命延伸や医療費抑制など医療と福祉への多大な貢献が期待できると考えられます。

参考文献

  1. Saito S, Yamamoto Y, Maki T, Hattori Y, Ito H, Mizuno K, Harada-Shiba M, Kalaria RN, Fukushima M, Takahashi R, Ihara M. Taxifolin inhibits amyloid-β oligomer formation and fully restores vascular integrity and memory in cerebral amyloid angiopathy. Acta Neuropathol Commun 2017 5:26. doi: 10.1186/s40478-017-0429-5. 
  2. Inoue T, Saito S, Tanaka M, Yamakage H, Kusakabe T, Shimatsu A, Ihara M, Satoh-Asahara N. Pleiotropic neuroprotective effects of taxifolin in cerebral amyloid angiopathy. Proc Natl Acad Sci USA 2019 116:10031-10038. doi: 10.1073/pnas.1901659116.

【研究助成】

 本研究は次に助成を受けて行われました:文部科学省科学研究費補助金 [18H02737, 18K19769, 19K07905, 20H03447, 21H02835, 21K08526, 22H04806, 22K11720, 22K19524, and 22K19723]、日本医療研究開発機構(AMED)[CREST(JP22gm1210009s0104)、肝炎等克服実用化研究事業(JP22fk0210082s0102, 22fk0210094s0202), 難治性疾患実用化研究事業(JP22ek0109488)]、公益財団法人 住友電工グループ社会貢献基金、公益財団法人 小野医学研究財団、公益財団法人 コーセーコスメトロジー研究財団、公益財団法人 喫煙科学研究財団、公益財団法人 大幸財団、公益財団法人 小林財団、公益財団法人 武田科学振興財団、公益財団法人 痛風・尿酸財団、公益財団法人 テルモ生命科学振興財団。

論文情報

掲載雑誌(栄養学分野の学術誌): Nutrients, https://www.mdpi.com/journal/nutrients 

論文タイトル:Novel Therapeutic Potentials of Taxifolin for Obesity-Induced Hepatic Steatosis, Fibrogenesis, and Tumorigenesis

DOI:https://doi.org/10.3390/nu15020350

問い合わせ先

<研究に関すること>
国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター
内分泌代謝高血圧研究部 部長
浅原 哲子

東海国立大学機構 名古屋大学環境医学研究所 分子代謝医学分野 講師
田中 都

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
先端血液検査学分野 准教授
西尾 美和子

<報道に関すること>
国立病院機構京都医療センター 管理課
和田 佳奈子

東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。

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