「 東京2020 夏季オリンピック出場選手における肉離れの発生率とその成績 」【古賀英之 教授】

古賀 英之(こが ひでゆき) 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 運動器外科学分野 教授(左)
片桐 洋樹(かたぎり ひろき) 獨協医科大学埼玉医療センター 整形外科 講師(右)
公開日:2022.12.27
「 東京2020 夏季オリンピック出場選手における肉離れの発生率とその成績 」
― 筋損傷が腱実質部に至るか至らないかが競技結果に影響する ―
― 筋損傷が腱実質部に至るか至らないかが競技結果に影響する ―
ポイント
- 東京2020 夏季オリンピックの出場選手に59件のMRIで診断された肉離れが発生していました。
- 筋損傷が腱実質部に至らない選手と比較して、腱実質部に至った選手では競技を最後まで完遂出来ない割合が高いことが分かりました。
- 本研究結果は肉離れが発生した際にその選手が大会期間中に復帰出来るかの判断基準の助けになります。
研究の背景
オリンピックは、200カ国以上から多様な競技に1万人を超える選手が参加する世界最大のスポーツイベントです。オリンピックの開催を担当する国際オリンピック委員会はアスリートの健康を促進する事を使命としています。そのため、2012年ロンドン大会以降、 オリンピックにおけるスポーツ外傷の発生率を継続的に発表しています。
スポーツ外傷には多様な種類がありますが、特に肉離れは最も多くみられる外傷で、選手のパフォーマンスを低下させ、スポーツ活動を休止させます。一方、肉離れに関するデータがロンドン大会以降、報告されてきましたが、発生率を統計学的に検討することや、筋損傷の程度と競技結果の関係を調べることは今まで行われてきませんでした。これらを調べることは選手並びに医療スタッフが傷害予防を考える際や肉離れ後の競技復帰を進める際の助けとなります。
そこで、研究グループは、東京2020夏季オリンピックに参加した選手における、磁気共鳴画像法(MRI)で検出された肉離れの発生率、競技別ならびに損傷部位の詳細な情報、および肉離れの程度と競技結果の関係を明らかにすることを目的に研究を行いました。
スポーツ外傷には多様な種類がありますが、特に肉離れは最も多くみられる外傷で、選手のパフォーマンスを低下させ、スポーツ活動を休止させます。一方、肉離れに関するデータがロンドン大会以降、報告されてきましたが、発生率を統計学的に検討することや、筋損傷の程度と競技結果の関係を調べることは今まで行われてきませんでした。これらを調べることは選手並びに医療スタッフが傷害予防を考える際や肉離れ後の競技復帰を進める際の助けとなります。
そこで、研究グループは、東京2020夏季オリンピックに参加した選手における、磁気共鳴画像法(MRI)で検出された肉離れの発生率、競技別ならびに損傷部位の詳細な情報、および肉離れの程度と競技結果の関係を明らかにすることを目的に研究を行いました。
研究成果の概要
東京2020夏季オリンピックに参加した11,315名の選手のうち59名(0.52%)がMRIで肉離れと診断されました。そのうち男性が40名(0.68%)、女性が19名(0.35%)で、男性の発生率の方が高かったことが分かりました。競技別では陸上が30名と最多で、フィールドホッケー6名、ハンドボール、フットボール各3名と続いておりました。肉離れ発生部位は、大腿二頭筋が最も多く24例で、半膜様筋7例、大腿直筋5例となっておりました。特に短距離走者では17例、全てが下肢ハムストリング・膝屈曲筋に発生しておりました。
肉離れの程度については英国陸上競技筋肉損傷分類(British Athletics Muscle Injury Classification)※1に基づいて評価を行ないました。Type a 筋膜型が21例、Type b 筋腱移行部型が14例、Type c 腱実質部を含むものが24例でした。Type a損傷を負った選手のうち、76%にあたる16名の選手は最後まで競技に出続けました。5名は棄権などで競技を最後まで行えませんでした。Type b 筋腱移行部型損傷を負った選手では1名を除く13名(93%)が最後まで競技を行いました。腱実質部を含む損傷を負った選手では最後まで競技を行えたのは25%にあたる、6名で75%の選手は棄権などで競技に不参加或いは途中で止めることとなりました。競技を棄権あるいは途中で止めるリスクは腱実質部に至る損傷を受けた選手で有意に高いことが分かりました。
肉離れの程度については英国陸上競技筋肉損傷分類(British Athletics Muscle Injury Classification)※1に基づいて評価を行ないました。Type a 筋膜型が21例、Type b 筋腱移行部型が14例、Type c 腱実質部を含むものが24例でした。Type a損傷を負った選手のうち、76%にあたる16名の選手は最後まで競技に出続けました。5名は棄権などで競技を最後まで行えませんでした。Type b 筋腱移行部型損傷を負った選手では1名を除く13名(93%)が最後まで競技を行いました。腱実質部を含む損傷を負った選手では最後まで競技を行えたのは25%にあたる、6名で75%の選手は棄権などで競技に不参加或いは途中で止めることとなりました。競技を棄権あるいは途中で止めるリスクは腱実質部に至る損傷を受けた選手で有意に高いことが分かりました。


研究成果の意義
今回、肉離れの発生頻度が男性の方が高い事や発生部位や競技の特性が分かったことは、選手並びに医療スタッフが肉離れの発生を予防するための対策を考える際の助けになります。また、大会期間中あるいは大会直前に肉離れが発生してしまった際には、今回の結果より肉離れの程度を評価することにより、大会期間中に復帰出来るか或いは治療に専念するべきか判断する助けになります。
用語解説
※1英国陸上競技筋肉損傷分類British Athletics Muscle Injury Classification:英国陸上競技メディカルチームが作成した肉離れの分類である。損傷型は筋膜、筋腱移行部、腱実質部を含む損傷に分類され、筋損傷が腱実質部に及ぶと競技復帰に時間がかかる事が報告されている。
論文情報
掲載誌:British Journal of Sports Medicine
論文タイトル: Epidemiology of MRI-detected muscle injury in athletes participating in the Tokyo 2020 Olympic Games
DOI:http://dx.doi.org/10.1136/bjsports-2022-105827
研究者プロフィール

古賀英之 (コガ ヒデユキ) Koga Hideyuki
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
運動器外科学分野 教授
・研究領域
運動器外科学
スポーツ医学

片桐洋樹 (カタギリ ヒロキ) Katagiri Hiroki
獨協医科大学埼玉医療センター
整形外科 講師
・研究領域
スポーツ医学
変形性膝関節症
獨協医科大学埼玉医療センター
整形外科 講師
・研究領域
スポーツ医学
変形性膝関節症
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
運動器外科学分野 古賀英之 (コガ ヒデユキ)
E-mail:koga.orj[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。