「 キサンタンガム系とろみ調整食品が食後血糖の上昇を抑制 」【片桐さやか 准教授、中川量晴 准教授】
公開日:2022.11.18
「 キサンタンガム系とろみ調整食品が食後血糖の上昇を抑制 」
― 腸管の糖・脂質代謝関連遺伝子発現や腸内細菌叢を変化させることが明らかに ―
― 腸管の糖・脂質代謝関連遺伝子発現や腸内細菌叢を変化させることが明らかに ―
ポイント
- 誤嚥※1防止に用いられるキサンタンガム系とろみ調整食品が、食後血糖の上昇を抑制することを動物モデルで明らかにしました。
- 長期摂取により、回腸において糖尿病治療薬の標的になっているGlp1を含む糖・脂質代謝関連遺伝子の発現量、腸内細菌叢の変化が起こることを、次世代シークエンシング※2を用いて証明しました。
- 腸内細菌におけるErysipelotrichales目やChristensenellaceae科の存在比率が、回腸におけるGlp1やGlp1rの遺伝子発現と相関を示しました。
- キサンタンガム系とろみ調整食品の摂取は糖・脂質代謝を改善する可能性があります。
研究の背景
高齢者や嚥下障害者が、誤嚥を防止するために日常的にキサンタンガム系とろみ調整食品を摂取することは少なくありません。キサンタンガム系とろみ調整食品には水溶性食物繊維であるキサンタンガムが含まれています。過去の研究から、水溶性食物繊維が、食後血糖の上昇を抑制させることが明らかになっています。しかしながら、キサンタンガム系とろみ調整食品の食後血糖への影響、長期的な摂取が、腸管や腸内細菌叢にどのような影響を及ぼすかはこれまで明らかにされてきませんでした(図1)。
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研究成果の概要
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本研究グループは、キサンタンガム系とろみ調整食品を長期摂取した後の食後血糖への影響、腸管での遺伝子発現や腸内細菌叢の変化について評価するため、粉末状のキサンタンガム系とろみ調整食品を生理食塩水に溶解し、ラットに5週間摂取させました。摂取開始から4週後に、血糖値への影響を調べるため、経口グルコース負荷試験を行いました。その結果、キサンタンガム系とろみ調整食品を摂取させたラットの血糖値の上昇は抑制されることがわかりました(図2 A)。
また、5週後に胃、十二指腸、空腸、回腸の各消化管を採取し、糖尿病治療のターゲットにもなっており、インスリン分泌に重要であるGlp1の遺伝子発現量を、qPCR法※3を用いて解析したところ、とろみ調整食品の摂取が回腸のGlp1遺伝子発現を増加させることが明らかになりました(図2 B)。
次に、次世代シークエンシングを用いて回腸の遺伝子発現と腸内細菌叢の網羅的な解析を行いました。回腸の発現変動遺伝子は25個検出され、その中でキサンタンガム系とろみ調整食品を摂取したラットではGlp1rの遺伝子発現量が上昇していることが示されました(図2 C)。
また、5週後に胃、十二指腸、空腸、回腸の各消化管を採取し、糖尿病治療のターゲットにもなっており、インスリン分泌に重要であるGlp1の遺伝子発現量を、qPCR法※3を用いて解析したところ、とろみ調整食品の摂取が回腸のGlp1遺伝子発現を増加させることが明らかになりました(図2 B)。
次に、次世代シークエンシングを用いて回腸の遺伝子発現と腸内細菌叢の網羅的な解析を行いました。回腸の発現変動遺伝子は25個検出され、その中でキサンタンガム系とろみ調整食品を摂取したラットではGlp1rの遺伝子発現量が上昇していることが示されました(図2 C)。
さらに、キサンタンガム系とろみ調整食品の摂取によって、腸内細菌叢にも変化が見られ、このうちErysipelotrichales目とChristensenellaceae科は、回腸のGlp1およびGlp1rの遺伝子発現と強い正の相関があることが明らかになりました(図2 D)。
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研究成果の意義
誤嚥防止に用いられる、キサンタンガム系とろみ調整食品が食後血糖の上昇を抑制することを動物モデルで明らかにしました。長期摂取により、回腸の糖・脂質代謝関連遺伝子発現量、腸内細菌叢の変化が起こることを、次世代シークエンシングの網羅的解析を用いて証明しました。得られた知見から、キサンタンガム系とろみ調整食品の摂取が糖・脂質代謝を改善する可能性が示唆され、今後の臨床応用が期待されます(図3)。
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用語解説
※1 誤嚥
唾液や飲食物が気管に入ること。
※2 次世代シークエンシング
DNA配列を高速かつ大量に解読する装置で、遺伝子発現量や微生物由来のDNA量などを網羅的に解析できる手法。
※3 qPCR法
酵素を利用して目的の遺伝子を増幅し、遺伝子発現を定量する方法。
唾液や飲食物が気管に入ること。
※2 次世代シークエンシング
DNA配列を高速かつ大量に解読する装置で、遺伝子発現量や微生物由来のDNA量などを網羅的に解析できる手法。
※3 qPCR法
酵素を利用して目的の遺伝子を増幅し、遺伝子発現を定量する方法。
論文情報
掲載誌:Journal of Functional Foods
論文タイトル: Xanthan gum-based fluid thickener decreases postprandial blood glucose associated with increase of Glp1 and Glp1r expression in ileum and alteration of gut microbiome
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jff.2022.105321
研究者プロフィール
![](/files/topics/58461_ext_05_24.jpg)
片桐 さやか (カタギリ サヤカ) Katagiri Sayaka
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
歯周病学分野 准教授
・研究領域
歯周治療系歯学、口腔科学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
歯周病学分野 准教授
・研究領域
歯周治療系歯学、口腔科学
![](/files/topics/58461_ext_05_28.jpg)
中川 量晴 (ナカガワ カズハル) Nakagawa Kazuharu
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 准教授
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 准教授
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
![](/files/topics/58461_ext_05_2.jpg)
長澤 祐季 (ナガサワ ユウキ) Nagasawa Yuki
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 大学院生
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 大学院生
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
![](/files/topics/58461_ext_05_44.jpg)
戸原 玄 (トハラ ハルカ) Tohara Haruka
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
歯周病学分野 片桐 さやか (カタギリ サヤカ)
E-mail:katagiri.peri[@]tmd.ac.jp
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 中川 量晴 (ナカガワ カズハル)
E-mail:k.nakagawa.swal[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。