プレスリリース

「SARS-CoV-2のメインプロテアーゼに対する高活性かつ生体内安定型阻害剤の創製」【玉村啓和 教授】

公開日:2022.11.2
 
「SARS-CoV-2のメインプロテアーゼに対する高活性かつ生体内安定型阻害剤の創製」
― 新型コロナウイルスに対する新たな阻害剤 ―

ポイント

  • 新型コロナウイルスSARS-CoV-2※1の種々の変異株に対して有効な新規メインプロテアーゼ阻害剤※2を創製しました。
  • 本阻害剤は、現在臨床で使用されているファイザー社のNirmatrelvir※3よりも高い抗ウイルス活性を有し、小動物における体内動態も優れていました。
  • 新型コロナウイルス感染症COVID-19の有望な治療薬開発への応用が期待できます。

     東京医科歯科大学生体材料工学研究所メディシナルケミストリー分野の玉村啓和教授の研究グループは、国際医療研究センター研究所難治性ウイルス感染症研究部の満屋裕明所長グループ、東北大学災害科学国際研究所災害感染症分野の林宏典助教、NCI/NIH Experimental Retrovirology sectionの満屋裕明ヘッドグループ、熊本大学生命科学研究部の三隅将吾教授グループおよび猿渡淳二教授、国際医療研究センター研究所動物実験施設の岡村匡史室長グループとの共同研究で、現在臨床で使用されているファイザー社の阻害剤Nirmatrelvirよりも高い抗SARS-CoV-2活性と優れた体内動態を有する、新規メインプロテアーゼ阻害剤を創出しました。この研究は日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「新規SARS-CoV-2 Mpro/PLpro阻害剤の研究・開発と臨床応用」ならびに文部科学省科学研究費補助金、AMED創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌iScienceに、2022年11月1日(米国東部夏時間)にオンライン版で発表されました。

図. SARS-CoV-2のライフサイクルとそのメインプロテアーゼを標的とした化合物による感染阻害

研究の背景

 2019年末に中国・武漢で発生したCOVID-19は、世界中に甚大な災禍をもたらし、2年半以上経った今もなお、感染拡大が続いています。現在、COVID-19の治療薬は、別用途で使用されていた既存の医薬品以外に、SARS-CoV-2のRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤(Molnupiravir)やメインプロテアーゼ(Mpro)阻害剤(Nirmatrelvir)等が開発され、臨床で使用されています。一方で、既存薬は薬効や体内動態面等において必ずしも優れているわけではなく、さらに効果的な治療薬の開発が望まれているのが現状です。
 

研究成果の概要

 本研究グループは当初から、Nirmatrelvirと同じターゲットであるMproに着目しています。Mproはウイルス RNA より翻訳された巨大なタンパク質から構成タンパク質に切断する酵素です。この酵素を阻害できればウイルスの複製を防ぐことができることから、Mpro は COVID-19 に対して有望な創薬ターゲットとなっています。本研究では、先に共同発表者の満屋裕明所長らがSARS-CoVの Mpro 阻害剤から見出したリード化合物に対して、有機合成によって化合物分子構造を種々変換し、活性評価と X 線結晶構造解析を通じて、より有用なSARS-CoV-2の Mpro阻害剤を創製しました。結果として、Nirmatrelvirよりも高い抗ウイルス活性を有する阻害剤が創出され、X 線結晶構造解析の結果、Mproの活性中心のポケットと複数の水素結合や疎水性相互作用により、効果的に相互作用することも示唆されました。また、小動物での薬物動態も優れており、もとのリード化合物の欠点でありました短い体内半減期も大幅に改善されました。さらに、今回創出したMpro阻害剤は、SARS-CoV-2の種々の変異株にも有効であることが確認されました。
 

研究成果の意義

 玉村研究グループが創出したSARS-CoV-2の Mpro阻害剤は、現在臨床で使用されているCOVID-19治療薬であるファイザー社のMpro阻害剤Nirmatrelvirと比べ、高い抗SARS-CoV-2活性を有し、小動物での体内動態も優れており、COVID-19治療薬として応用できる可能性が示されました。また、今回得られた知見を基に、さらに化合物の薬効、体内動態面等のプロファイルが向上した阻害剤を創出できる可能性があります。

用語解説

※1新型コロナウイルスSARS-CoV-2: 現在世界中でパンデミックをもたらしている「新型コロナウイルス感染症」COVID-19という疾病を引き起こす病原体の名称がSARS-CoV-2であり、一般には、「新型コロナウイルス」と呼ばれている。SARS-CoV-2は2019年11月に中国武漢市で発見され、瞬く間に世界中に感染拡大した。2022年9月までに世界で6億1千万人が感染、650万人が死亡しており、以前の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS)や中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS)とは伝播性と病原性において明らかに異なるウイルスである。

※2メインプロテアーゼ阻害剤: コロナウイルスは一本鎖RNAをゲノムとして有し、宿主の細胞に感染するとRNAから前駆体タンパク質が翻訳される。この前駆体タンパク質が切断されると、構造タンパク質や酵素が生成し、ウイルスの複製に機能する。この前駆体タンパク質を切断する酵素が、メインプロテアーゼ(Mpro)(別名: 3CLプロテアーゼ)およびパパイン様プロテアーゼである。Mproの切断活性を阻害すれば、ウイルスの増殖を抑制できると考えられ、COVID-19の原因ウイルスSARS-CoV-2が同定されると、世界中でMpro阻害剤の探索研究が進められた。ファイザー社のMpro阻害剤Nirmatrelvirは、現在臨床で使用されているCOVID-19治療薬である。

※3 Nirmatrelvir: ファイザー社が開発したMpro阻害剤であり、現在COVID-19治療薬として臨床で使用されている。商品名はPaxlovidである。日本では2022年2月に特例承認された。

論文情報

掲載誌:iScience

論文タイトル: Potent and Biostable Inhibitors of the Main Protease of SARS-CoV-2

DOI:https://doi.org/10.1016/j.isci.2022.105365

研究者プロフィール

玉村 啓和 (タマムラ ヒロカズ) Tamamura, Hirokazu
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
メディシナルケミストリー分野 教授
・研究領域
創薬化学、ペプチド化学、ケミカルバイオロジー、有機化学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
メディシナルケミストリー分野 玉村啓和(タマムラヒロカズ)
E-mail:tamamura.mr[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。
 

関連リンク

プレス通知資料PDF

  • 「SARS-CoV-2のメインプロテアーゼに対する高活性かつ生体内安定型阻害剤の創製」