プレスリリース

JSTの共創の場形成支援プログラム (COI-NEXT) に採択が決まる

公開日:2022.10.25
 
JSTの共創の場形成支援プログラム (COI-NEXT) に採択が決まる
~医工看共創が先導するレジリエント健康長寿社会の実現を目指して~
  • 公益財団法人川崎市産業振興財団(KIIP)が代表機関となり、同財団が運営するナノ医療イノベーションセンター(iCONM)を中核機関として提案した「レジリエント健康長寿社会の実現を先導するグローバルエコシステム形成拠点」が、本年度の「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT) 共創分野・本格型」(文部科学省/JST)に採択された。
  • 「医工看共創が先導するレジリエント健康長寿社会」を拠点ビジョンに掲げ、4つのターゲットとそれらに基づく5つの研究開発課題を提案したもの。(研究開発課題2:東京医科歯科大学生体材料工学研究所バイオエレクトロニクス分野  松元 亮 研究教授)
  • 今後さらに膨らむ在宅医療での看護ニーズにフォーカスし、医師や看護師でなくても家庭で誰もが手軽に扱える医療製品の研究開発とケアリテラシーの醸成を実践する。

 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は、「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)共創分野・本格型」に令和4年度採択された拠点を発表しました。
共創の場形成支援プログラム|国立研究開発法人 科学技術振興機構 (jst.go.jp)
 公益財団法人川崎市産業振興財団 (KIIP) が代表機関となり、同財団が殿町キングスカイフロントで運営するナノ医療イノベーションセンター (iCONM) が中核機関として活動する「レジリエント健康長寿社会の実現を先導するグローバルエコシステム形成拠点」もそのひとつとして選ばれ、一木隆範プロジェクトリーダー(iCONM研究統括・東京大学大学院工学系研究科教授)を中心とした今後10年間に渡る活動が始まりました。

 少子高齢化の進展に伴い、日本における就労人口ひとりあたりの要介護者数は年々増加の一途を辿っており、このままの推移が続けば2040年には現在の1.5倍の負担となることが統計学的に予想されています。この上昇傾向を鈍化させるためには、老化の進行を遅らせ自律的な生活を営むことができる期間、すなわち健康寿命を延伸させることが必要だと以前より言われてきました。しかしながら効果的な解決策は未だないというのが現実です。そこで、私たちは様々な領域の方々とヒアリングの場を持ち、健康寿命を延伸させるために効果的なものをリサーチして来ました。その結果、在宅医療における看護の現場が、これまであまり手が付けられていないものとして浮かび上がりました。「病院では、看護師が24時間患者に寄り添い適切なケアを施すが、在宅ではそれができない。24時間患者に寄り添うのは家族であり、患者を取り巻く環境は一軒一軒異なる。健康寿命を延伸するにはケアの質を向上させることが必要なので、市民のケアリテラシー向上と誰でも手軽に家で使える看護の道具が必要。医師と看護師でなければ使えない道具では困る」という声が訪問看護師や地域中核病院の医師から寄せられ、理工系研究者が進むべき新たな方向性が見出されました。「医工看共創が先導するレジリエント健康長寿社会」を目指すべき拠点ビジョンとして掲げ、4つのターゲットと5つの研究開発課題を策定しました(図1&2)。ここで「レジリエント」とは、病に対して「しなやかな復元力」を有する状態と定義し、年齢を重ねるごとに進む体調の変化を日常生活の中で体系的に捉え、必要に応じて復元させる技術の開発を目指します。
 この度採択された提案は、市民のケアリテラシーを高めるとともに家族など医療の専門家でない方でも自宅にいながら看護ができる道具や仕組みを創出しようとするものです。また、2045年に実現を目指す体内病院*の構想において研究が進むスマートナノマシンを老化のスローダウンに応用する研究も始めます。これまで看護は、その活字が意味するように「手と目で護る」ことを基本としてきたため理工学的なイノベーションが他領域と比べて遅れており、新産業の創出に繋がる可能性が高い領域といえます。
*体内病院:プロジェクトCOINS参照 202105_COINS_NK.indd (kawasaki-net.ne.jp)
 

図1:ビジョン達成のために定めた4つのターゲット

図2:4つのターゲットに向けた研究開発課題と各リーダー

 4つのターゲットとそれらに基づく5つの研究開発課題の1つ、研究開発課題2「生体I/Oデバイスによる優しい医療介入技術の開発」では、東京医科歯科大学生体材料工学研究所バイオエレクトロニクス分野の松元亮研究教授が開発リーダーを務めます。「血管が悪くて、点滴に苦労した」は、高齢者、生活習慣病患者に対応する医療現場の切実な悩みです。点滴や注射は、看護の負担や医療事故の原因となるだけでなく、何度も針を刺すことで患者にも苦痛を強いるほか、入院、通院から在宅医療へシフトする上でも障害となります。在宅の現状に目を向けると、複数の生活習慣病に罹患した患者が多数の薬剤を服用するポリファーマシー(注1)が課題であり、それに伴う服薬アドヒアランス(注1)の低下が、生活習慣病をさらに悪化させます。さらに、認知症を発症すると、誤服用による過剰投与による薬物有害事象も発生します。このように、処方された薬剤を、誰でも正確かつ簡便に、苦痛なく服用する過程に大きなアンメットニーズが存在します。本課題では、マイクロニードル(以下MN)を用いた多剤服薬管理技術や注射を用いないmRNAナノマシン(注2)投薬技術の開発を目指します。MNは多数の微細針をシート状に配置した“疼痛のない注射”であり、いくつかの低分子薬剤やワクチンの送達法として開発が進められていますが、長期間、精密に薬剤分布を制御する技術は確立されていません。本課題では、材料学的アプローチに加えて、ICTを活用し、ポリファーマシー管理を含めた在宅医療を支えるプラットフォーム技術の開発を目指します。また、mRNA医薬は、生活習慣病、再生医療等の分野で開発が進み、画期的な成果が得られているものの、簡便な投薬技術がなく、さらに副作用の課題があります。本課題の技術開発により、安心して在宅で服薬できる汎用性のある医薬品モダリティへと進化させます。

注1
ポリファーマシー/服薬アドヒアランス
複数の生活習慣病を罹患することで、一人が多くの薬剤を服用し、その影響で有害事象が生じることをポリファーマシーと呼ぶ。服薬アドヒアランスは、患者がどの程度処方通りに服薬しているかを意味するが、多剤服薬による服薬アドヒアランスの低下は、生活習慣病の予後に大きく影響する。

注2
mRNAナノマシン
mRNAを薬剤として用いる際、生体内でのmRNAの酵素分解を防ぎ、狙った組織に送り届ける機能が必要である。さらに、mRNAは炎症反応を惹起し、副作用の原因になるほか、治療に悪影響を与える可能性があるので、投与に伴う炎症反応を抑える機能も必要である。mRNAナノマシンは、これら2つの機能を併せ持ち、mRNAを安全かつ効率的に生体に送達することができる。
 

 

各研究開発課題の概略
  • 研究開発課題1(リーダー:東京大学大学院工学系研究科 内田 建 教授):
    現在、血液検査をはじめ、医療機関に出向かなくてはできない検査は少なくありません。研究開発課題1では、そういった検査をできる限り在宅でできるようダウンサイジングや非侵襲的手法(例えば採血に代わる生化学的検査など)について研究を進めます。さらには家庭で普通に日常生活を過ごす間に、居室に設置されたセンサーが健康状態をチェックできる仕組みを開発します。
  • 研究開発課題2(リーダー:東京医科歯科大学 松元 亮 研究教授):
    患者の病状にあわせた投薬管理は臨床薬学上重要ですが、在宅においてそれを行うことは容易でありません。体液中にある特定のバイオマーカーを測定すると同時に、その値に応じた適切な量で薬剤を自動投与できる貼付式の薬剤血中濃度管理装置を開発することで、在宅における投薬管理の適正化を図ります。また吸入や貼付で投薬可能なバイオ医薬品製剤を開発し、医療機関に出向かなくても在宅医療で使用できるようにします。
  • 研究開発課題3(リーダー:東京工業大学科学技術創成研究院 西山伸宏 教授):
    老化の予兆に関する研究が近年活発に行われており、そのメカニズムが次第に解明されつつあります。これらの知見を基に、体内でのそのような予兆を早期に発見する診断法を開発します。また、体内に発生した老化細胞をターゲットとした治療技術やワクチンを開発し、老化の進行を遅らせることで健康寿命の延伸に繋げます。
  • 研究開発課題4(リーダー:東京大学大学院医学系研究科・グローバルナーシングリサーチセンター 五十嵐 歩 准教授):
    病院とは異なり、在宅医療では看護師が24時間患者に寄り添うことはできません。看護師に代わり家族を含む一般市民が看護に携わるための知識と理解力(ケアリテラシー)の醸成を行う学習ツールやシステムを開発し、本拠点の研究推進機構との連携の下、それを実践します。また、本拠点の研究室で創出された研究成果を実社会で実証する場の構築を、川崎市看護協会や川崎市立看護大学、総合川崎臨港病院の協力のもとで行います。
  • 研究開発課題5(リーダー:東京工業大学環境・社会理工学院 仙石慎太郎 教授):
    イノベーションが創出されても、それが今の制度や倫理感とそぐわないことが多々あります。本拠点プログラムで実施される研究の成果がスムーズに社会実装されるためには、それらを見越した制度改革と倫理的側面からの考察を識者とともに検討し、リフレクションペーパーとしてまとめておくことが必要となります。研究課題5では、社会科学的な観点からプログラム全体を俯瞰し、将来的に必要となるアイテムを国立医薬品食品衛生研究所など Transrational Research に経験豊富な機関と連携して準備する役割を担います。
研究推進機構(ナノ医療イノベーションセンター)
 研究活動が研究者のみの視点で進められると、長い年月をかけて得られた学術成果であっても市民ニーズとのギャップが大きくて社会実装が困難なものとなりかねません。そのような事態に陥ることがないように、研究の進捗度合いにあわせて研究成果を社会に発表し、将来の消費者の声に耳を傾ける機会としての「共感・実証フィールド」を設けます。研究推進機構では、製薬企業のシニアディレクター経験者を積極的に雇用し、若手研究者やジュニアスタッフの育成に努めるとともに、研究成果のライセンシングなど社会実装の効率化を図っています。また、本拠点プログラムには多種多様な機関が参画しており、海外との連携も少なくありません。そのダイバーシティのマネジメントと戦略的な化学反応を起こさせるためのインナーコミュニケーションプログラムを企画実践します。

共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)について
 大学等が中心となって 未来のあるべき社会像(拠点ビジョン)を策定し、その実現に向けた研究開発を推進するとともに、プロジェクト終了後も、持続的に成果を創出する自立した産学官共創拠点の形成を目指す産学連携プログラム。JSTの既存の拠点形成型プログラムの1つである、センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムがコンセプトとして掲げる「ビジョン主導・バックキャスト型研究開発」を基軸とした制度設計を行ったことから、本プログラムの愛称を「COI-NEXT」ともいいます。知と人材の集積拠点である大学等のイノベーション創造への役割が増している中、これまでの改革により、大学等のガバナンスとイノベーション創出力の強化が図られてきました。今後、「ウィズ/ポストコロナ」の社会像を世界中が模索する中、我が国が、現在そして将来直面する課題を解決し、世界に伍して競争を行うためには、将来の不確実性や知識集約型社会に対応したイノベーション・エコシステムを「組織」対「組織」の産学官の共創(産学官共創)により構築することが必要となります。
https://www.jst.go.jp/pf/platform/outline.html

川崎市産業振興財団について
 産業の空洞化と需要構造の変化に対処する目的で、川崎市の100%出捐により昭和63年に設立されました。市場開拓、研究開発型企業への脱皮、それを支える技術力の養成、人材の育成、市場ニーズの把握等をより高次に実現するため、川崎市産業振興会館の機能を活用し、地域産業情報の交流促進、研究開発機構の創設による技術の高度化と企業交流、研修会等による創造性豊かな人材の育成、展示事業による販路拡大等の事業を推進し、地域経済の活性化に寄与しています。
https://www.kawasaki-net.ne.jp/


ナノ医療イノベーションセンターについて
 ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は、キングスカイフロントにおけるライフサイエンス分野の拠点形成の核となる先導的な施設として、川崎市の依頼により、公益財団法人川崎市産業振興財団が、事業者兼提案者として国の施策を活用し、平成27年4月より運営を開始しました。有機合成・微細加工から前臨床試験までの研究開発を一気通貫で行うことが可能な最先端の設備と 実験機器を備え、産学官・医工連携によるオープンイノベーションを推進することを目的に設計された、世界でも類を見ない非常にユニークな研究施設です。
 https://iconm.kawasaki-net.ne.jp/
 

<問い合わせ先>

<本件に関するお問い合わせ>
公益財団法人川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター
イノベーション推進チーム 担当:島﨑、山本
Email:  iconm-pr[@]kawasaki-net.ne.jp

【報道に関する事】
国立大学法人東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp


※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。

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