プレスリリース

「遺伝性の神経障害を引き起こすWNK1/HSN2変異体の機能解明」【澁谷浩司 教授、清水幹容 助教】

公開日:2022.9.26
 
「遺伝性の神経障害を引き起こすWNK1/HSN2変異体の機能解明」
― 遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型の発症機構解明に寄与 ―

ポイント

  • 遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型は痛み・温度・触覚などの感覚が失われる神経障害で、WNK1/HSN2※1遺伝子の変異が原因であることが知られています。
  • WNK1/HSN2の変異体が正常なWNK1/HSN2やGSK3β※2と優先的に結合し、その機能を阻害することで神経分化を抑制することを発見しました。
  • 遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型の発症機構の解明に寄与すると共に、新規治療薬開発の一助となることが期待されます。
 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 分子細胞生物学分野の澁谷浩司教授と清水幹容助教の研究グループは、遺伝性運動感覚ニューロパチーⅡ型の原因とされる患者由来WNK1/HSN2変異体が、正常なWNK1/HSN2やGSK3βと結合することでその機能を阻害し、下流のシグナル伝達経路を抑えることで、神経分化を阻止することを明らかにした。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reportsに、2022年9月23日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型は痛み、温度、触覚などの感覚が失われる常染色体潜性遺伝の遺伝性神経障害であり、大部分の患者が手足の関節が変形する症状を発症します。また、感覚の喪失から傷の痛みを感じることができないため、早期の治療を行わないことが原因で潰瘍を伴うことも知られています。本疾患はWNK1/HSN2遺伝子の変異が原因とされ、多くのWNK1/HSN2変異体が報告されているにも関わらず、その疾患発症への関与については全く分かっていません。そのため、遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型の発症機構を明らかにし、治療法を確立するためにも、患者由来WNK1/HSN2変異体の機能の解明が急務となっています。

研究成果の概要

 研究グループはWNK1/HSN2変異体の機能を解明するため、遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型患者で報告されている変異体をマウス神経細胞に発現させたところ、神経突起の伸長や神経分化が抑制されることを突き止めました。このとき、WNK1/HSN2変異体は正常なWNK1/HSN2に優先的に結合することでその機能を阻害し、神経分化を抑制することを明らかにしました。また、我々研究グループの先行研究によりGSK3βがWNK1と共に神経分化を促進することを報告しました(Sato & Shibuya., PLoS One, 2018)。WNK1/HSN2変異体はGSK3βにも結合し、その機能を阻害することで神経分化を抑制することを発見しました。したがって、WNK1/HSN2変異体はドミナントネガティブ変異体として、神経分化における正常なWNK1/HSN2-GSK3βシグナルの機能を阻害していることが分かりました(図)。

研究成果の意義

 これまで遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型の原因となるWNK1/HSN2変異体による分子制御機構は全く知られていませんでした。本研究では、実際の患者で報告されているWNK1/HSN2変異体が、ドミナントネガティブ変異体として機能することで正常な神経分化を抑制することを見出しました。WNK1/HSN2変異体の機能が明らかとなったことで、遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型の発症機構の解明に寄与すると期待されます。

用語解説

※1 WNK1/HSN2 : 神経特異的に発現するWNK1遺伝子で、遺伝性感覚自律ニューロパチーⅡ型の原因遺伝子。WNK1遺伝子の変異は偽性低アルドステロン症Ⅱ型の原因遺伝子としても知られている。

※2 GSK3β : 多様な疾患に関与するWntシグナルを制御する調節因子。研究グループでは、WNK1と共に神経分化を促進することを報告している。

論文情報

掲載誌:Scientific Reports

論文タイトル:WNK1/HSN2 mediates neurite outgrowth and differentiation via a OSR1/GSK3β-LHX8 pathway

DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-022-20271-y

研究者プロフィール

清水 幹容 (シミズ マサヒロ) Shimizu Masahiro
東京医科歯科大学 難治疾患研究所
分子細胞生物学分野 助教
・研究領域
分子細胞生物学 腫瘍生物学

澁谷 浩司 (シブヤ ヒロシ) Shibuya Hiroshi
東京医科歯科大学 難治疾患研究所
分子細胞生物学分野 教授
・研究領域
分子細胞生物学

問い合わせ先

東京医科歯科大学 難治疾患研究所
分子細胞生物学分野 澁谷 浩司 (シブヤヒロシ)
TEL/FAX:03-5803-4901
E-mail: shibuya.mcb[@]mri.tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
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プレス通知資料PDF

  • 「遺伝性の神経障害を引き起こすWNK1HSN2変異体の機能解明」