「気温30℃なら、糖尿病合併症で入院するリスク1・6倍に増加」【藤原武男 教授】
公開日:2022.7.29
「気温30℃なら、糖尿病合併症で入院するリスク1・6倍に増加」
―糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧症候群、低血糖への影響を初めて解明―
―糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧症候群、低血糖への影響を初めて解明―
ポイント
- 地球温暖化に伴い高温環境への曝露による疾病発症への影響が懸念されています。
- 糖尿病患者においては、高温曝露により全死因死亡や入院リスクが上昇することが報告されてきましたが、具体的な疾病への影響は明らかではありませんでした。
- 本研究では糖尿病患者の高温環境への曝露が、糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群、低血糖といった致死的な病態による入院リスクと関連することを世界で初めて明らかにしました。
- 高温環境に留意した介入が、糖尿病患者における致死的な高血糖及び低血糖への予防対策として有用となる可能性が示唆されました。
- アジア等では糖尿病患者が激増しており、しかも高い気温の地域が多いため、日本発の本研究がそうした海外の医療介入に貢献することが期待されます。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男教授、医療政策情報学分野の伏見清秀教授、宮村慧太朗大学院生らの研究グループは、糖尿病患者が高温環境に曝露されることが糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群、低血糖による緊急入院のリスクと関連することを明らかにしました。その研究成果は、国際科学誌Environment International(エンバイロンメント インターナショナル)に、2022年7月13日にオンライン版で発表されました。
研究の背景
地球温暖化に伴い猛暑日が増加し最高気温が上昇するなど高温環境に曝露される日が増加しており、高温曝露による疾病リスクの上昇が懸念されています。糖尿病患者における高温曝露による影響として、全死因死亡や入院リスクの上昇が報告されてきましたが、具体的な疾病発症のリスクについては明らかにされていませんでした。そこで本研究は、高温曝露と、糖尿病患者の致死的な合併症である糖尿病性ケトアシドーシス※1、高血糖高浸透圧症候群※2、低血糖による入院リスクとの関連を明らかにすることを目的としました。
研究成果の概要
本研究では、以下のように、気温上昇に伴い入院のリスク比の上昇が明らかになりました。
【90パーセンタイルの気温(26.7℃)の場合】
高血糖緊急症による入院のリスク比→1.27 (95%信頼区間: 1.16-1.39)
低血糖による入院のリスク比→1.33 (95%信頼区間: 1.17-1.52)
【99パーセンタイルの気温(29.9℃)の場合】
高血糖緊急症による入院のリスク比→1.64 (95%信頼区間: 1.38-1.93)
低血糖による入院のリスク比→1.65 (95%信頼区間: 1.29-2.10)
※いずれも全国日平均気温の75パーセンタイルの気温(22.6℃)を基準
また、高血糖緊急症のタイプ(糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群)、糖尿病病型(1型糖尿病、2型糖尿病、その他の糖尿病)、年齢群(15歳未満、15歳~64歳、65歳以上)、地域によるサブグループ解析においても概ね同様に高血糖緊急症および低血糖による入院リスクが上昇していました。
これらのデータは、2012年から2019年の全国Diagnosis Procedure Combination (DPC)データから高血糖緊急症(糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群)、低血糖による緊急入院時のデータを抽出、気象庁の全国日平均気温データと統合し、気温と入院との関連を3日間のラグ効果※3を考慮した上で分析しました。
【90パーセンタイルの気温(26.7℃)の場合】
高血糖緊急症による入院のリスク比→1.27 (95%信頼区間: 1.16-1.39)
低血糖による入院のリスク比→1.33 (95%信頼区間: 1.17-1.52)
【99パーセンタイルの気温(29.9℃)の場合】
高血糖緊急症による入院のリスク比→1.64 (95%信頼区間: 1.38-1.93)
低血糖による入院のリスク比→1.65 (95%信頼区間: 1.29-2.10)
※いずれも全国日平均気温の75パーセンタイルの気温(22.6℃)を基準
また、高血糖緊急症のタイプ(糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群)、糖尿病病型(1型糖尿病、2型糖尿病、その他の糖尿病)、年齢群(15歳未満、15歳~64歳、65歳以上)、地域によるサブグループ解析においても概ね同様に高血糖緊急症および低血糖による入院リスクが上昇していました。
これらのデータは、2012年から2019年の全国Diagnosis Procedure Combination (DPC)データから高血糖緊急症(糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群)、低血糖による緊急入院時のデータを抽出、気象庁の全国日平均気温データと統合し、気温と入院との関連を3日間のラグ効果※3を考慮した上で分析しました。

研究成果の意義
本研究は高温環境への曝露が糖尿病患者の致死的な疾病である糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群、低血糖による緊急入院のリスクと関連することを明らかにしました。この研究結果により、高温環境に留意した介入が高血糖及び低血糖入院の予防対策として重要である可能性が示唆されました。高血糖緊急症のリスクが高いコントロール不良の糖尿病患者や、HbA1cが低くインスリンを使用しているような糖尿病患者においては、高温環境による血糖への影響を事前に調べ共有し、薬剤を調整するなどの治療介入を積極的に行うことが、致死的な高血糖、低血糖による入院を予防するために有用となる可能性があります。
用語解説
※1糖尿病性ケトアシドーシス
インスリン作用の絶対的、または相対的な不足により脂肪分解が亢進しケトン体が増加することで血液が酸性に傾く(ケトアシド-シス)、高血糖による急性合併症の1つ。
※2高血糖高浸透圧症候群
インスリンの相対的不足と極度の脱水により著名な高血糖に至り意識障害を引き起こす、高血糖による急性合併症の1つ。
※3ラグ効果
過度の高温の健康への影響は同日に留まらず一定期間持続することが知られ、その遷延性をラグ効果と呼ぶ。
インスリン作用の絶対的、または相対的な不足により脂肪分解が亢進しケトン体が増加することで血液が酸性に傾く(ケトアシド-シス)、高血糖による急性合併症の1つ。
※2高血糖高浸透圧症候群
インスリンの相対的不足と極度の脱水により著名な高血糖に至り意識障害を引き起こす、高血糖による急性合併症の1つ。
※3ラグ効果
過度の高温の健康への影響は同日に留まらず一定期間持続することが知られ、その遷延性をラグ効果と呼ぶ。
論文情報
掲載誌:Environment International
論文タイトル: Association between heat exposure and hospitalization for diabetic ketoacidosis, hyperosmolar hyperglycemic state, and hypoglycemia in Japan
DOI:https://doi.org/10.1016/j.envint.2022.107410
研究者プロフィール

藤原 武男 (フジワラ タケオ) Fujiwara Takeo
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
国際健康推進医学分野 教授
・研究領域
公衆衛生学、疫学 (社会疫学、ライフコース疫学)
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
国際健康推進医学分野 教授
・研究領域
公衆衛生学、疫学 (社会疫学、ライフコース疫学)
宮村 慧太朗 (ミヤムラ ケイタロウ) Miyamura Keitaro
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
国際健康推進医学分野 大学院生
東京医科歯科大学 糖尿病・内分泌・代謝内科
・研究領域
公衆衛生学、糖尿病内分泌代謝
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
国際健康推進医学分野 大学院生
東京医科歯科大学 糖尿病・内分泌・代謝内科
・研究領域
公衆衛生学、糖尿病内分泌代謝
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
国際健康推進医学分野 氏名 藤原 武男(フジワラ タケオ)
E-mail:fujiwara.hlth[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。