「デルタ株の特徴に類似した変異が追加された 国内由来BA.2系統の市中感染事例をさらに確認」
「デルタ株の特徴に類似した変異が追加された
国内由来BA.2系統の市中感染事例をさらに確認」
~第6波の下げ止まりから感染再拡大(第7波)への懸念~
― 医科歯科大 新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクト 第14報 ―
ポイント
- 5月上旬のオミクロン株BA.2系統から、デルタ株の特徴変異部位:L452に新たな変異(L452M変異)を有する国内由来BA.2系統の市中感染事例をさらに確認しました。
- 4月上旬に確認したL452M変異を有する国内由来BA.2系統(本学プレスリリース第13報)とは異なる国内由来BA.2系統に、新たにL452M変異が追加された新規変異株であることがわかりました。
- 当該変異株への感染が確認された患者は4名であり、そのうち3名はワクチン追加接種済でした。
- 当該患者は、基礎疾患の有無や年齢層には依存せず軽症でした。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の武内寛明准教授・東京医科歯科大学病院病院長補佐、リサーチコアセンターの谷本幸介助教、分子病原体検査分野の田中ゆきえ准教授、ウイルス制御学分野の北村春樹大学院生および多賀佳大学院生らによる本学病院患者由来SARS-CoV-2全ゲノム解析プロジェクトチームは、統合臨床感染症学分野の具芳明教授、木村彰方副学長・特任教授および京都府立医科大学大学院分子病態感染制御・検査医学分野の貫井陽子教授(前東京医科歯科大学病院 感染制御部部長)との共同解析により、2022年4月中旬~2022年5月中旬までに東京医科歯科大学病院に入院または通院歴のあるCOVID-19患者の全ゲノム解析を行いました。
その結果、4月上旬に引き続き5月上旬において、デルタ株の感染伝播性および免疫逃避に関わる特徴変異部位(スパイクタンパク領域のL452部位)にL452M変異が新たに追加された国内由来BA.2系統の市中感染事例をさらに確認しました。このL452M変異が追加された国内由来BA.2系統は、4月上旬に確認されたL452M変異追加型国内由来BA.2系統(本学プレスリリース第13報)とは異なる国内由来BA.2系統であることから、国内由来BA.2系統の市中感染が持続することでL452M変異を獲得したBA.2系統が複数発生していることが考えられます。
背景
概要
本知見に基づいた考察
南アフリカ共和国ではL452R変異を有するオミクロン株BA.4/BA.5系統の感染拡大が認められ(図1:右上図)、アメリカ都市部やイギリスで感染者再増加の要因となっているのは、L452Q変異を有するBA.2.12.1亜系統の感染拡大がその要因の一つであることが示唆されています(図2:左上および右下図)。また、イギリスやデンマークでは、L452M変異を有するBA.2.9.1亜系統が確認され(図2:右下図)、ベルギーやオランダではL452M変異を有するBA.2.13系統が確認されており(図2:左下図)、L452部位に新たな変異が生じた多様なオミクロン株による感染事例が欧米諸国において増加傾向にあります。
日本では、4月上旬に東京医科歯科大学病院においてL452M変異を有する国内由来BA.2系統の市中感染事例を確認しましたが、それから1ヶ月後の5月上旬【ゴールデンウイーク(GW)中およびGW後】に、同様の特徴を有する国内由来BA.2系統の市中感染事例をさらに確認しました。全ゲノム配列の詳細な解析結果より、4月上旬の当該系統株と5月上旬のものは、異なる国内由来BA.2系統にL452M変異が別々に生じた可能性が極めて高いことがわかりました。
また4月下旬から5月上旬にかけて、オミクロン株BA.2.12.1系統およびBA.5系統の本邦市中感染事例が確認されています(東京都iCDC報道発表資料3238報、2022年5月24日付)。そのため、現時点ではL452部位に様々な変異を有するオミクロン株が市中に混在しており(図3)、BA.2系統の支配的な市中感染状況が継続している日本国内において、欧米各国と同様の感染再拡大が生じる可能性が考えられます。引き続き効果的な感染拡大防止策を継続すると同時に市中感染株の推移をモニタリングし、SARS-CoV-2流行実態を把握することが公衆衛生上の意思決定に重要であると考えます。
用語解説
新型コロナウイルスに関して世界共通の系統分類方法であるPangolin(COVID-19 Lineage Assigner Phylogenetic Assignment of Named Global Outbreak LINeages,
https://cov-lineages.org/lineages.html)による分類系統IDによる分類系統名です。
・患者由来検体とは?
東京医科歯科大学病院の入院・外来においてCOVID-19患者の鼻咽腔ぬぐい液から採取されたウイルス(SARS-CoV-2)のことを指します。
・全ゲノム解析とは?
コロナ遺伝子検査として幅広く用いられているPCR検査は、ウイルスゲノムの限られた遺伝子領域(200塩基前後)のみ検出するのに対し、全ゲノム配列解析はコロナウイルスゲノム(約30,000塩基)を全て解読し、ウイルス配列全体の特徴を調べる方法のことを指します。
・医科歯科大 新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクトとは?
2020年7月以降に東京医科歯科大学病院に入院歴のあるCOVID-19患者検体に含まれるSARS-CoV-2の全長ゲノム配列を解析し、(1)ウイルス学的特徴、(2)COVID-19疫学データ、および(3)臨床的特徴を紐付けすることによりCOVID-19病態解明および公衆衛生上の意思決定への貢献を目的として解析を進めています。
参考資料
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第1報
http://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210129-1.pdf
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第2報
https://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210218-1.pdf
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第3報
https://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210315-1.pdf
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第4報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54630_ext_04_2.pdf
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第5報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54774_ext_04_2.pdf
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第6報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54951_ext_04_2.pdf
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第7報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55606_ext_04_2.pdf
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第8報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55788_ext_04_2.pdf
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第9報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55835_ext_04_2.pdf
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第10報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/56730_ext_04_6.pdf
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第11報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/56854_ext_04_6.pdf
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第12報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/57081_ext_04_6.pdf
東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第13報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/57457_ext_04_6.pdf
問い合わせ先
<内容に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
ウイルス制御学分野 武内 寛明(たけうち ひろあき)
E-mail:htake.molv[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。