「糖尿病性末梢神経障害におけるノンコーディングRNA MALAT1の役割」【横田隆徳 教授】
―ヘテロ核酸による糖尿病合併症の新たな治療法開発へ期待―
研究成果のポイント
- 研究グループが開発した新たな核酸医薬「DNA/RNA ヘテロ2本鎖核酸 (HDO)」の全身投与によって後根神経節(DRG)内にある感覚神経細胞の遺伝子の効率的な制御に成功し、このHDOが糖尿病の高頻度な合併症である神経障害(糖尿病性末梢神経障害)の治療法開発に有用であることがわかりました。
- 糖尿病性末梢神経障害マウスモデル※1において、長鎖ノンコーディングRNA※2の一つであるMALAT1※3をノックダウンすることにより、感覚神経細胞内の遺伝子転写に必要な核内構造体(核スペックル※4)が失われ、神経変性がより悪化することがわかり、MALAT1が末梢神経障害の進行抑制に不可欠な神経保護作用をもっている可能性をつきとめました。
- HDOは、後根神経節のさまざまな遺伝子をターゲットとすることができる実験系の確立によって、がんに伴った難治性疼痛など「痛み」の病態解明及び新規治療法開発に今後さらに役立つ成果をもたらすと期待できます。
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 脳神経病態学分野 (脳神経内科)横田隆徳教授、永田哲也プロジェクト准教授、小林正樹非常勤講師、宮下彰子大学院生は、糖尿病マウスにヘテロ核酸を投与することで糖尿病性末梢神経障害における後根神経節のノンコーディングRNAを制御できることを示し、神経障害の表現型が増悪することを発見しました。この結果は、MALAT1が糖尿病性末梢神経障害において神経保護の重要な役割を果たしていることを示唆しています。また、本研究の結果は、今後糖尿病性末梢神経障害の治療の標的として有望な後根神経節の遺伝子制御といった治療法の開発を促進する可能性があります。この研究は日本医療研究開発機構(AMED)の革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業(課題名「第3世代ヘテロ核酸の開発」)、慢性の痛み解明研究事業(課題名「慢性疼痛に対する画期的核酸医薬の開発」)、先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業(課題名「次世代血液脳関門通過性ヘテロ核酸の開発による脳神経細胞種特異的分子標的治療とブレインイメージング」 、いずれも研究代表者:横田 隆徳)などの支援のもとで行われたもので、その研究成果は、国際科学誌、Diabetes誌に、2022年5月20日にオンライン版で発表されました。
研究の背景
研究成果の概要
研究成果の意義
用語解説
※1糖尿病性末梢神経障害モデルマウス
健常マウスの腹腔内に、膵毒性のあるストレプトゾトシンを注射し、持続的な高血糖を4ヶ月以上引き起こした。これを慢性期の糖尿病モデルマウスとして本研究で使用した。ストレプトゾトシン投与によりインスリン欠乏、高血糖、多飲、多尿を呈し、これらはすべてヒトの1型糖尿病に特徴的なものである。
※2ノンコーディングRNA
タンパク質へ翻訳されずに機能するRNAの総称である。人のゲノムにおいてタンパク質をコードする遺伝子は2%に満たず、98%以上がノンコーディング領域となる。大きくは200塩基以下の小分子RNAと200塩基以上の長さの長鎖ノンコーディングRNAに分類される。その機能は転写、翻訳、エピジェネティクスなど生体内の多様である。
※3 MALAT1(metastasis associated in lung adenocarcinoma transcript-1)
長鎖ノンコーディングRNAの1つであり、転写や選択的スプライシングを制御している。多くの疾患、特に肺癌をはじめとして多くの癌と関連することが知られており、腫瘍細胞の増殖、移動、浸潤、アポトーシスに影響を及ぼすことが明らかにされている。
※4核スペックル
核内の構造体で1細胞あたり25~50個程度存在し,主としてスプライシング因子群の貯蔵・会合・修飾の場と考えられている。
論文情報
掲載誌:Diabetes
論文タイトル:The role of long non-coding RNA MALAT1 in diabetic polyneuropathy and the impact of its silencing in the dorsal root ganglion by a DNA/RNA heteroduplex oligonucleotide
DOI:https://doi.org/10.2337/db21-0918
研究者プロフィール
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
脳神経病態学分野(脳神経内科) 教授
・研究領域:神経内科学、核酸医薬
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
脳神経病態学分野(脳神経内科) プロジェクト准教授
・研究領域:神経内科学、核酸医薬
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
脳神経病態学分野(脳神経内科) 非常勤講師
・研究領域:神経内科学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
脳神経病態学分野(脳神経内科) 大学院生
問い合わせ先
<研究に関すること>
横田 隆徳 (ヨコタ タカノリ)
TEL:03-5803- 5234 FAX:03-5803- 0169
E-mail: tak-yokota.nuro[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
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日本医療研究開発機構(AMED)
創薬事業部 医薬品研究開発課 先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業担当
E-mail:sentan-bio[@]amed.go.jp
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