プレスリリース

「ウイルスをバイオセンサーで捉え、AIで読みとく」【堀口諭吉 非常勤講師】

公開日:2022.5.10
ウイルスをバイオセンサーで捉え、AIで読みとく
― 新しいウイルス計測技術開発に期待 ―

ポイント

  • ウイルスを捕捉するバイオセンサー表面をつくり、ウイルスを1つずつ検出可能な「ポア計測」を用いてこれを捕捉(相互作用)する様子を観測することに成功しました。
  • ウイルスの挙動をAIで解析することにより、その捕捉の情報を抽出することができました。
  • 従来よりも迅速かつ高感度なウイルス検出法開発等への応用が期待できます。
 東京医科歯科大学生体材料工学研究所の宮原裕二特任教授と堀口諭吉非常勤講師の研究グループは、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の山岡昇司教授、武内寛明准教授の研究グループ、アイポア株式会社(革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)発ベンチャー企業)の直野典彦CEOと坂本修CTOの研究グループとの共同研究で、ウイルスを捕捉するバイオセンサー界面の開発を実施し、ウイルスを1つずつ検出可能な「ポア計測」と呼ばれる技術を用いて、その様子を観測することに成功しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに革新的研究開発推進プログラム、および旭硝子財団の支援のもとで行われたもので、その研究成果は、米国化学会誌ACS Applied Materials & Interfacesに、2022年4月21日午後4時(米国東部時間)にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 インフルエンザ等を始めとした呼吸器感染性のウイルスは、我々の健康・生命を脅かすだけでなく、社会経済などへも深刻な影響をもたらします。こうしたリスクは、新型コロナウイルスの登場によってその危険性について世界規模で認知されています。一方でこれらは目に見えないため、迅速に発見し対策を投じることが難しく、パンデミックを防げないケースが目立つ結果となっています。このような現状を解決するためには、従来の手法とは異なる新しいウイルス検出システムを開発していく必要があります。

研究成果の概要

 抵抗パルスセンシング(RPS、ポア計測)※1と呼ばれる微粒子計測手法は、検出対象を1つ1つ計測することが可能です。そのため、迅速かつ高精度なウイルス検出技術への応用が期待できます。本研究成果では、ウイルスを計測するために使用するナノ-マイクロサイズの非常に小さな孔の表面上にインフルエンザウイルスを捕捉するバイオセンサーを設け、インフルエンザウイルスが孔を通過する際にそのセンサー表面上に一時的に捕捉される様子を計測することに成功しました。また、得られたデータの解析にAIを活用したところ、ウイルスをターゲットとしない表面で計測を実施した場合のデータとの違いを顕著に見分けることができました(図1)。

図1 相互作用により現れるウイルスの挙動の違いを、計測データからAIで識別

研究成果の意義

 ポア計測そのものは、検出した粒子がウイルスかどうかを判断することが難しいです。本研究成果では、作製したバイオセンサー表面が有効に機能し、相互作用したウイルスの挙動をAIによって情報として抽出することに成功しました。本技術は、将来的にはウイルス等を検出・識別する有効な手段となりえます。また、ポア計測に関する研究は広く行われていますが、細孔膜に用いられている材質は様々で、バイオセンサー表面を作製するには設計の過程で多くの制約があります。本研究成果では、膜の材質に依らないバイオセンサー表面を作製する手法を提案しており、生体相互作用を付与したポア計測の研究が広がることが期待できます。

用語解説

※1抵抗パルスセンシング(RPS、ポア計測)はコールターカウンターとしても知られている手法で、2つの電解液相の間にナノ-マイクロサイズの小さな孔が空いた膜を設けた構造をしている(図2左)。各電解液相に電極をつなぎ電圧をかけることで細孔をイオンが通過する(イオン電流)。このイオン電流は微粒子が通過した際に遮られるため、一時的に減少した電流値波形(パルス、図2右)を解析することで、粒子を計数するだけでなく、粒子の情報を読み解くことが可能である。

図2 ポア計測の模式図

論文情報

掲載誌: ACS Applied Materials & Interfaces

論文タイトル: Methodology to Detect Biological Particles Using a Biosensing Surface Integrated in Resistive Pulse Sensing

DOIhttps://doi.org/10.1021/acsami.1c25006

研究者プロフィール

堀口 諭吉 (ホリグチ ユキチ) Horiguchi Yukichi
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
バイオエレクトロニクス分野 非常勤講師
産業技術総合研究所 エレクトロニクス・製造領域
センシングシステム研究センター バイオ物質センシング研究チーム 主任研究員
・研究領域
ナノテクノロジー
バイオセンサー
表面化学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
バイオエレクトロニクス分野 堀口諭吉(ホリグチユキチ)
E-mail:horiguchi.bsr[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

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