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「デルタ株の特徴が追加された国内由来オミクロン株BA.2系統の市中感染事例を初めて確認」

公開日:2022.5.2

「デルタ株の特徴が追加された国内由来オミクロン株BA.2系統の市中感染事例を初めて確認」
~第6波長期化への懸念~

― 医科歯科大 新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクト 第13報 ―

ポイント

  • 2022年1月初旬から2022年4月中旬までのCOVID-19患者116名由来SARS-CoV-2全ゲノム解析の結果、本邦第6波の主体であるオミクロン株(BA.1.1系統)は、4月初旬からBA.2系統への置き換わりが進んでいることがわかりました。
  • 4月中旬のオミクロン株BA.2系統から、デルタ株の特徴変異部位:L452に新たな変異(L452M変異)を有する国内由来BA.2系統の市中感染事例を確認しました。
  • 当該患者に海外渡航歴はなく、市中感染事例であることがわかりました。
  • また、当該患者はワクチン追加接種(3回目接種)済であり、軽症例でした。
 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の武内寛明准教授・東京医科歯科大学病院病院長補佐、リサーチコアセンターの谷本幸介助教、分子病原体検査分野の田中ゆきえ准教授、ウイルス制御学分野の北村春樹大学院生および多賀佳大学院生らによる本学病院患者由来SARS-CoV-2全ゲノム解析プロジェクトチームは、統合臨床感染症学分野の具芳明教授、木村彰方副学長・特任教授および京都府立医科大学大学院分子病態感染制御・検査医学分野の貫井陽子教授(前医学部附属病院感染制御部部長)との共同解析により、2022年1月初旬~2022年4月中旬までに東京医科歯科大学病院に入院または通院歴のあるCOVID-19患者116人の全ゲノム解析を行いました。
 その結果、4月上旬からオミクロン株BA.1.1系統からBA.2系統への置き換わりが顕著になっていることが判明しました。さらには、デルタ株の特徴変異部位(スパイクタンパク領域のL452部位)にL452M変異が新たに追加された国内由来BA.2系統の市中感染事例を確認しました。

背景

 2022年1月以降、オミクロン株を主体とした第6波に見舞われておりその収束が見えないのが現状です。2022年3月中旬までは、多様なオミクロン株BA.1.1系統が市中流行株の主体でしたが(本学プレスリリース第12報)、BA1.1系統から感染伝播性が更に高いBA.2系統への置き換わりが徐々に進み、4月上旬からはその置き換わりが顕著になってきています。さらには、イギリスで確認されているBA.1/BA.2組み換え株(X系統)が、BA.2系統存在下で増加しつつあることから、新たなオミクロン変異系統の市中感染による第6波の長期化が懸念されています。BA.2系統を主体とした市中感染再拡大を抑えつつ、社会経済活動再開と維持に向けたバランスを取る必要に迫られているのが現状です。

概要

 2022年1月初旬~2022年4月中旬までに東京医科歯科大学病院に入院または通院歴のあるCOVID-19患者116人の由来検体を用いて全ゲノム解析を行った結果、多様なオミクロン株BA1.1およびBA.2系統が存在していることがわかり、4月上旬以降は、BA.2系統への感染事例が急増していることから、市中においてBA1.1系統からBA.2系統への置き換わりが顕著であることがわかりました。さらには、4月中旬の患者由来検体からデルタ株の特徴変異部位(スパイクタンパク領域のL452部位)にL452M変異が新たに追加された国内由来BA.2系統の市中感染事例を確認しました。

本知見の意義

 現在、BA.2系統が主流となっている状況下において、SARS-CoV-2組み換え株(X系統)の中でもBA.1/BA.2組み換え株の一つであるXE系統の感染伝播性が、BA.2系統よりも10%以上高い可能性が指摘されています。XE系統は、現時点においては、イギリスで増加傾向が認められていますが、その他の国での感染拡大は現時点において認められていません(図1:右下図)。また、南アフリカ共和国ではスパイクタンパク領域内のL452変異(S:L452R変異でありデルタ株の感染伝播性増大に関わるメインドライバー変異)が新たに追加されたオミクロン株BA.4/BA.5系統(図2)の感染拡大が認められていますが、これらも他国での感染拡大は現時点において認められていません(図1:右上図)。
 一方で、BA.2系統にS:L452部位への変異が新たに追加されたさまざまなBA.2亜系統の感染拡大が懸念される状況になりつつあります。具体的には、アメリカ都市部で感染者再増加の要因となっているのは、BA.2亜系統(BA.2.12系統)にS:L452Q変異が追加されたBA.2.12.1亜系統(図2)の感染拡大がその要因の一つであることが示唆されています(図1:左上図)。また、イギリスやデンマークでは、BA.2亜系統(BA.2.9系統)にS:L452M変異が追加されたBA.2.9.1亜系統(図2)が確認され(図1:下図)、ベルギーやオランダではS:L452M変異が追加されたBA.2.13系統(図2)が確認されており、デルタ株の特徴が追加された新たなBA.2亜系統による感染事例が欧米諸国において増加傾向にあります。
 日本国内においては、XE変異株は空港検疫で1件確認された状況で、市中感染は確認されていません。また、BA.2.12.1亜系統およびBA.2.9.1亜系統についても、共に日本国内での市中感染は確認されていません。ところが、東京医科歯科大学病院の患者由来BA.2検体において、S:L452M変異が追加された国内由来BA.2系統の市中感染事例が確認されました(図2)。当該変異株のスパイクタンパク領域変異(非同義置換)は、BA.2.9.1亜系統と同一ですが、その他の領域における変異パターンが異なることからBA.2.9.1亜系統そのものではなく、国内変異系統株である可能性が極めて高いものと考えられます。
 オミクロン株BA.2系統を主体とした市中感染状況下において、XE変異株を含めたBA.1/BA.2組み換え株だけでなく、S:L452R/L452Q/L452Mが新たに追加されたBA.2変異系統株(図2)への置き換わりが進んだ場合、市中感染再拡大による第6波の長期化への懸念が考えられます。引き続き効果的な感染拡大防止策を継続すると同時に市中感染株の推移をモニタリングし、SARS-CoV-2流行実態を把握することが公衆衛生上の意思決定に重要であると考えます。
 

用語解説

・系統とは?
新型コロナウイルスに関して世界共通の系統分類方法であるPangolin(COVID-19 Lineage Assigner Phylogenetic Assignment of Named Global Outbreak LINeages, 
https://cov-lineages.org/lineages.html)による分類系統IDによる分類系統名です。

・患者由来検体とは?
東京医科歯科大学病院の入院・外来においてCOVID-19患者の鼻咽腔ぬぐい液から採取されたウイルス(SARS-CoV-2)のことを指します。

・全ゲノム解析とは?
コロナ遺伝子検査として幅広く用いられているPCR検査は、ウイルスゲノムの限られた遺伝子領域(200塩基前後)のみ検出するのに対し、全ゲノム配列解析はコロナウイルスゲノム(約30,000塩基)を全て解読し、ウイルス配列全体の特徴を調べる方法のことを指します。

・医科歯科大 新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクトとは?
2020年7月以降に東京医科歯科大学病院に入院歴のあるCOVID-19患者検体に含まれるSARS-CoV-2の全長ゲノム配列を解析し、(1)ウイルス学的特徴、(2)COVID-19疫学データ、および(3)臨床的特徴を紐付けすることによりCOVID-19病態解明および公衆衛生上の意思決定への貢献を目的として解析を進めています。
 

参考資料

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第1報
http://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210129-1.pdf 

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第2報
https://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210218-1.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第3報
https://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210315-1.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第4報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54630_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第5報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54774_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第6報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54951_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第7報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55606_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第8報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55788_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第9報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55835_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第10報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/56730_ext_04_6.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第11報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/56854_ext_04_6.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第12報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/57081_ext_04_6.pdf

問い合わせ先

<内容に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 
ウイルス制御学分野 武内 寛明(たけうち ひろあき)
E-mail:htake.molv[@]tmd.ac.jp
    
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

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