「新たな遺伝的性質をもつカルバペネム耐性菌」【齋藤良一 教授】
― 環境における薬剤耐性菌拡散の原因解明に期待 ―
ポイント
- 世界的脅威となるカルバペネム分解酵素産生腸内細菌目細菌(CPE)は自然環境に拡散し続けていますが、医療施設環境での実態は十分に把握されていませんでした。
- 研究グループが病院環境から分離したCPEは、blaKPC-2を搭載したIncP-6/IncF複合プラスミドを持ち、より幅広い細菌宿主に薬剤耐性因子を伝播できる遺伝的性質を保有していました。
- 本研究の成果は、環境で拡散する薬剤耐性菌の原因解明に繋がるほか、医療施設における薬剤耐性菌の伝播防止に関わるリスク評価への応用が期待できます。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子病原体検査学分野の齋藤良一教授、太田悠介助教と京都府立医科大学大学院医学研究科分子病態感染制御・検査医学分野(東京医科歯科大学病院感染制御部)の貫井陽子教授らの研究グループは、医療施設環境からこれまでに報告のない遺伝的性質を示すKPC-2型カルバペネム分解酵素産生腸内細菌目細菌(CPE)※1を同定しました。この研究は日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症研究基盤創生事業「海外拠点研究領域」の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Applied and Environmental Microbiologyに、2022年4月5日にオンライン版で発表されました。
研究の背景
研究成果の概要

図1. 今回同定されたプラスミド(p5_CFTMDU、p3_KVTMDU)を含むKPC-2遺伝子を搭載したプラスミドの解析
研究成果の意義
用語解説
※1カルバペネム分解酵素産生腸内細菌目細菌(CPE): カルバペネム系抗菌薬を分解する酵素(カルバペネマーゼ)を持つ大腸菌などの腸内細菌目に属する細菌。KPC型を含め様々なタイプが同定されており、染色体またはプラスミド上にそれらをコードする遺伝子が存在する。CPEは、キノロン系などの複数の抗菌薬にも同時に耐性を示すことが多く、多剤耐性傾向が強い。
※2プラスミド: 染色体とは独立して自立的に複製し、安定的に娘細胞に受け渡されるDNAで、抗菌薬等の耐性遺伝子や毒素遺伝子を有するものがある。線毛を介して他の細菌細胞へ移動するものもあり、薬剤耐性が拡散する要因の一つとしても知られている。
※3トランスポゾン: 細菌細胞内DNA上の別の位置に転移可能な可動性因子であり、その転移が薬剤耐性遺伝子などの特定の遺伝子の発現に影響を及ぼすことがある。
※4持続可能な開発目標(SDGs)の目標3: 「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」 のテーマのもと、水質汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させるなどの達成目標が設定されている。
論文情報
掲載誌:Applied and Environmental Microbiology
論文タイトル:blaKPC-2-encoding IncP-6 plasmids in Citrobacter freundii and Klebsiella variicola strains from hospital sewage in Japan
DOI:https://doi.org/10.1128/aem.00019-22
研究者プロフィール

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
分子病原体検査学分野 教授
・研究領域
細菌学、感染症学、薬剤耐性

京都府立医科大学大学院
分子病態感染制御・検査医学分野 教授
(東京医科歯科大学病院 感染制御部)
・研究領域
感染症内科学、薬剤耐性、新興・再興感染症

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
分子病原体検査学分野 助教
・研究領域
細菌学、感染症学、薬剤耐性
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
分子病原体検査学分野 齋藤 良一 (サイトウ リョウイチ)、太田 悠介 (オオタ ユウスケ)
E-mail:r-saito.mi[@]tmd.ac.jp, y-ota.micr[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
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E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
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