プレスリリース

「本邦の原発性免疫異常症に対する同種造血細胞移植の後方視解析」【今井耕輔 寄附講座准教授】

公開日:2022.3.09
「本邦の原発性免疫異常症に対する同種造血細胞移植の後方視解析」
43年間、700例以上の治療成績のまとめ

ポイント

  • 原発性免疫異常症に対する同種造血細胞移植※1の国内全症例(43年間、747例)に対し、後方視解析を初めて実施し、2本の論文にまとめました。
  • 重症複合免疫不全症(SCID)※2におけるHLA※3一致臍帯血移植の有効性を示しました。また、早期 (生後4か月未満)の移植や移植時に感染症がないことで成績は向上し、本症に対する新生児スクリーニング※4の重要性を裏づけました。
  • SCID以外の原発性免疫異常症においては、非血縁骨髄移植の有用性や、臍帯血移植における再移植のリスクを示しました。また、強度減弱前処置※5の有効性についても明らかにしました。
 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 発生発達病態学分野の宮本智史大学院生と森尾友宏教授、茨城県小児・周産期地域医療学講座の今井耕輔准教授との研究グループは、日本造血・免疫細胞療法学会 遺伝性疾患ワーキンググループ、日本造血細胞移植データセンターとの共同研究で、原発性免疫異常症に対する国内移植全症例を対象とする後方視解析を実施しました。この研究は厚生労働科学研究費補助金ならびに国立研究開発法人日本医療研究開発機構の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌The Journal of Clinical Immunologyに2021年8月27日、ならびに2022年1月4日にオンライン発表されました。

研究の背景

 原発性免疫異常症(Inborn errors of immunity; IEI)は、遺伝子の異常により先天的に免疫の異常をきたす疾患の総称です。症状は広範にわたり、重症感染症や日和見感染症だけでなく、自己免疫性疾患、自己炎症性疾患、アレルギー性疾患、悪性腫瘍など様々な異常をきたします。
 IEIの中でも重度の細胞性免疫の障害を示す疾患において、造血細胞移植は根治療法として国内外を問わず実施されています。日本では1974年にはじめて重症複合免疫不全症(SCID)に対して実施され、2016年までに747例が造血細胞移植を受けました。今回、日本造血・免疫細胞治療学会の遺伝性疾患ワーキンググループ事業(https://www.jstct.or.jp/modules/about/index.php?content_id=26)の一環として、日本造血細胞移植データセンターの「造血細胞移植および細胞治療の全国調査」に基づく移植登録一元管理プログラム(TRUMP)のデータを用い、43年間にわたる日本でのIEIに対する造血細胞移植症例の後方視解析を初めて実施しました。
 

研究成果の概要

 SCID 181例に対する解析では、最も成績がよいとされるHLA一致同胞からの移植成績(10年生存率:91%)と比較して、HLA一致臍帯血移植はほぼ同等(10年生存率:91%)であることを明らかにしました。欧米で成績が劣るとされる臍帯血移植ですが、本邦においてはHLA一致同胞が不在の場合の代替として有用であることを示しました。また、移植時期が遅く(生後4か月以上)や移植時に感染症が合併していると成績が不良であることが明らかになり、早期に診断し感染がない状態で移植することの重要性が示されました。
 また、SCID以外のIEI 566例において、非血縁骨髄移植はHLA一致同胞からの移植に次いで有用であることを示しました(10年生存率:79% vs 81%)。日本において多く実施されている臍帯血移植では、再移植が多いという実態も明らかにしました。また、より副作用が少ない強度減弱前処置による移植成績の有用性も示しました。

研究成果の意義

 今回、国内で実施されたIEIに対する造血細胞移植の全症例解析を初めて行い、日本での治療実態を明らかにしました。この中で、早期診断・早期治療のためのSCIDに対する新生児スクリーニングの重要性が本研究により再確認され、日本全国での拡充が望まれます。またIEIは希少疾患であり、本研究を通して多数例の後方視解析をしたことで得られた知見は、今後の治療戦略を構築する上で非常に重要です。このような良質な知見を日本から世界に向けて発信できたことも大変意義があります。

用語解説

※1 同種造血細胞移植
 患者本人以外のドナーからの提供を受け、血液の元となる造血細胞を患者に移植する治療。原発性免疫異常症を含む血液疾患や悪性疾患などに対する根治療法として実施される。
※2重症複合免疫不全症 (Severe combined immunodeficiency; SCID)
 原発性免疫異常症の中でも、生後早期より重度の免疫不全をきたす疾患群。多くの場合、治療を受けなければ生後1年以内に感染症のため死亡する。
※3 HLA: ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen)
 赤血球を除くほぼ全ての細胞に存在し、複数の抗原によって構成され数万通りの組み合せに及ぶ。自己と非自己の識別に関わり、不一致の程度が多いほど、移植後の拒絶反応や移植片対宿主病が強くなる。
※4 新生児スクリーニング
 新生児に対し、早期診断・早期治療を要する疾患に対し行われているスクリーニング検査。少量の採血で実施可能であり、現在複数の代謝性疾患などに対して国内で実施されているが、SCIDは一部の地域にのみ限定されている。
※5 前処置
 複数の抗がん剤や放射線照射を組み合わせた治療で、造血細胞移植の直前に行われる。腫瘍細胞の減量や造血細胞の生着担保のため行われるが、強度に応じて副作用も強くなる。
 

論文情報

掲載誌:The Journal of Clinical Immunology

論文タイトル:
①Hematopoietic Cell Transplantation for Severe Combined Immunodeficiency Patients: A Japanese Retrospective Study
②Hematopoietic Cell Transplantation for Inborn Errors of Immunity Other than Severe Combined Immunodeficiency in Japan: Retrospective Analysis for 1985-2016

DOI:
① https://doi.org/10.1007/s10875-021-01112-5
② https://doi.org/10.1007/s10875-021-01199-w



研究者プロフィール

今井耕輔 (イマイ コウスケ) Imai Kohsuke
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
茨城県小児・周産期地域医療学講座 准教授
・研究領域
原発性免疫不全症
造血細胞移植
宮本智史(ミヤモト サトシ) Miyamoto Satoshi
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 大学院生
・研究領域
原発性免疫不全症
造血細胞移植
森尾 友宏 (モリオ トモヒロ) Morio Tomohiro
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 教授
・研究領域
原発性免疫不全症・再生医療

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
茨城県小児・周産期地域医療学講座
氏名 今井 耕輔 (イマイ コウスケ)
E-mail:kimai.ped[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

プレス通知資料PDF

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