プレスリリース

「抗体産生不全を呈する免疫不全症での内在性機能回復の仕組みの発見」【鍔田武志 教授】

公開日:2022.3.02
 抗体産生不全を呈する免疫不全症での内在性機能回復の仕組みの発見 
― 免疫不全症の病態の解明と新規治療標的の発見 ―

ポイント

  • 抗体産生不全を呈する免疫不全症において、免疫細胞が成熟する過程で部分的な機能回復がおこることを明らかにし、その仕組みを解明しました。
  • 免疫不全症の病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます。
 東京医科歯科大学難治疾患研究所免疫疾患分野の鍔田武志教授と赤津ちづる助教らの研究グループは、岐阜大学、藤田医科大学、デューク学、エアランゲン大学のグループとの共同研究により、抗体産生不全を呈する免疫不全症では、抗体産生に関わるBリンパ球が成熟する際に、部分的な機能回復がおこることを明らかにし、その仕組みを解明しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌でサイエンス誌の姉妹誌であるScience Signaling(サイエンスシグナリング)誌に、2022年3月1日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 無または低ガンマグロブリン血症は抗体産生不全を呈する免疫不全症で、抗体産生を担当するBリンパ球の活性化に関わる遺伝子異常により、抗体産生が低下する稀な疾患です。感染症にかかりやすくなり、治療法としては主に対症療法が行われています。これまで、免疫不全Bリンパ球の機能を回復させるような仕組みがあるかには明らかではありませんでした。

研究成果の概要

 Tリンパ球およびBリンパ球の表面には抗原受容体※1が存在し、抗原に結合すると細胞内にシグナルを伝達し、リンパ球を活性化します。CD45※2はリンパ球の表面に存在する分子で、抗原受容体を介するシグナル伝達で重要な働きをします。しかし、CD45欠損症やそのマウスモデルであるCD45欠損マウスでは抗体の産生は比較的保たれています。本研究グループは、CD45欠損マウスでは、個々の抗原受容体の機能は低下していても、Bリンパ球が成熟する過程で細胞表面の抗原受容体の量を増加させることで、シグナル伝達機能を回復することを明らかにしました。また、Bリンパ球は抑制性の受容体CD22※3を発現します。本研究グループは、CD22がB細胞の抗原受容体の糖鎖を認識することで、抗原受容体の機能を制御すること、さらに、CD45欠損マウスでは、CD22による抗原受容体の機能の制御により、抗原受容体発現量が増加したBリンパ球が選択的に成熟し、その結果、細胞表面の抗原受容体の量が増加することを明らかにしました。

研究成果の意義

 免疫不全Bリンパ球に機能回復の仕組みが存在することが明らかになりました。CD45欠損症以外の免疫不全症でも、抗原受容体が増加する場合がありますので、他の免疫不全でも機能回復が起こっていると想定されます。この仕組みを利用した新規治療戦略の開発が期待されます。

用語解説

※1抗原受容体  Tリンパ球およびBリンパ球の細胞表面に存在する抗原を認識する受容体で、個々のリンパ球は特定の抗原にのみ結合する抗原受容体を発現する。抗原受容体が抗原に反応すると活性化シグナルを伝達し、リンパ球は活性化する。Bリンパ球では膜型免疫グロブリンが抗原受容体として機能する。
※2CD45  受容体型のチロシンホスファターゼで、抗原受容体を介するシグナル伝達で必須の分子を活性化することが知られている。
※3CD22  抑制性の受容体で、抗原受容体を介するシグナル伝達を抑制する働きがある。同じ細胞表面上の分子のシアル酸と呼ばれる糖鎖に結合することで、同じ細胞表面上の分子と相互作用する。
 

論文情報

掲載誌:Science Signaling (サイエンスシグナリング)

論文タイトル: Inhibitory co-receptor CD22 restores B cell signaling by developmentally regulating Cd45-/- immunodeficient B cells

研究者プロフィール

鍔田武志(ツバタタケシ) Tsubata Takeshi
東京医科歯科大学難治疾患研究所
免疫疾患分野 教授
・研究領域
免疫学、生化学
 

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学難治疾患研究所
免疫疾患分野 鍔田武志(ツバタタケシ)
E-mail:tsubata.imm[@]mri.tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

プレス通知資料PDF

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