プレスリリース

「新たな変異を有するオミクロン系統株を含むBA.1.1系統株の流行拡大、 およびBA.2系統株への置き換わりに影響をおよぼす可能性」

公開日:2022.2.25

「新たな変異を有するオミクロン系統株を含むBA.1.1系統株の流行拡大、
およびBA.2系統株への置き換わりに影響をおよぼす可能性」

― 医科歯科大 新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクト 第12報 ―

ポイント

  • 2021年12月末から2022年2月中旬までのCOVID-19患者40名から検出したSARS-CoV-2は、その大多数がオミクロン系統株:BA.1.1であることがわかりました。
  • 当該患者に海外渡航歴はなく、市中感染事例であることがわかりました。
  • BA.1.1系統株には、変異部位の異なる5種類のBA.1.1系統株が存在していることがわかりました。
  • またBA.2系統株には、変異部位の異なる3種類のBA.2系統株が存在していることがわかりました。
  • BA.1.1系統株はBA.1系統株よりも感染伝播性が高い可能性が指摘されています。実際、BA.1系統が主流である地域(デンマーク、フィリピン等)で起こったBA.2系統への急激な置き換わりと比較して、BA.1.1系統が主流である地域(日本、アメリカ等)でのBA.2への置き換わりは緩やかである傾向が示唆されています。

     東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の武内寛明准教授・東京医科歯科大学病院病院長補佐、難治疾患研究所ゲノム解析室の谷本幸介助教、リサーチコアセンターの田中ゆきえ助教、ウイルス制御学分野の北村春樹大学院生および多賀佳大学院生らによる本学入院患者由来SARS-CoV-2全ゲノム解析プロジェクトチームは、統合臨床感染症学分野の具芳明教授、木村彰方理事・副学長・特任教授および京都府立医科大学大学院分子病態感染制御・検査医学分野の貫井陽子教授(前医学部附属病院感染制御部部長)との共同解析により、2021年末から2022年2月中旬までのCOVID-19患者40名分の検体を用いた全ゲノム解析を行ったところ、その大多数がオミクロン系統株:BA.1.1の市中感染事例であることがわかりました。さらには、新たな変異を有するBA.1.1およびBA.2系統株の市中感染事例を確認しました。

背景

 2021年11月下旬以降、日本でも空港検疫にてオミクロン株への感染事例が確認され、その後国内に流入したオミクロン系統株と国内デルタ系統株による第6波としての市中感染再拡大に見舞われているのが現状です。第6波初期(2021年12月1日~2021年12月31日)には、オミクロン系統株:BA.1およびBA.1.1の両系統株が混在していましたが、第6波中期(2022年1月~2022年2月中旬)には、BA.1.1系統株が国内主流系統株となっています(図1)。ところが、海外においてBA.1系統株よりも感染伝播性の更なる増大が懸念されるオミクロン系統株:BA.2の感染拡大の兆候が新たに認められてきており、本邦においても、BA.2系統株の市中感染事例が徐々に増えつつあります(図1)。BA.2系統株の市中感染拡大を抑えるためにも、さらに強固な感染拡大防止対策を講じると同時に社会経済活動維持とのバランスを取る必要に迫られているのが現状です。

概要

 2021年12月末から2022年2月中旬までに東京医科歯科大学病院に入院または通院歴のあるCOVID-19患者由来検体を用いて全ゲノム解析を行った結果、9割以上の患者がオミクロン系統株への市中感染であったことがわかりました(図2、左側)。オミクロン系統株への感染事例内訳は、その7割以上がBA.1.1系統株への感染事例となります(図2、右側)。その中には、BA.1.1系統株の特徴変異の有無が異なるBA.1.1系統株が5種類存在していることがわかり、市中流行BA.1.1系統株の多様化が進んでいることが示唆されました(図3)。一方、BA.1およびBA.2系統への感染事例は双方1割程度でありますが、BA.2系統株においても特徴変異の有無が異なるものが3種類存在していることがわかりました(図4)。またオミクロン系統株に感染した患者の重症化リスクについては、系統株間において有意な差異は認められませんでした。
図3 東京医科歯科大学病院にかかった患者由来検体から得られたオミクロン系統株(BA.1/BA.11
図4 東京医科歯科大学病院にかかった患者由来検体から得られたオミクロン系統株(BA.2

本知見の意義

 第6波における本学病院にかかったオミクロン系統株感染者は、海外渡航歴がなく市中感染事例である可能性が極めて高いものと考えられます。また本邦において、BA.1.1 系統株は、BA.1 とBA1.1 両系統株の混在状態から主たる市中流行株になり得た系統株であることが示されています(図1)。BA.1.1系統株は、BA.1 に新たな変異【R346K 変異:レセプター結合領域】が加わった系統株であり、この変異はウイルス増殖速度が早まる可能性や感染伝播性が高まる可能性も指摘されています。本邦でのBA.2への置き換わりが比較的緩やかである可能性の一つとして、BA.1 系統株よりも感染伝播性が高い可能性を有するBA.1.1 系統株が市中流行株の大部分を占めていることが考えられます。このことを示唆する事例として、BA.2 系統株への急激な遷移を示した国(デンマークおよびフィリピン)では、BA.1 系統株が主流であったのに対し、そのような兆候を示していない国(日本およびアメリカ)ではBA.1.1 系統株が主流であることが挙げられます(図5)。いずれにしてもBA.2 系統株への置き換わりが進むと第6波の長期化に繋がる可能性が十分考えられることから、引き続き効果的な感染拡大防止策を継続すると同時に市中感染株の推移をモニタリングし、SARS-CoV-2 流行実態を把握することが公衆衛生上の意思決定に重要であると考えます。

用語解説

・系統とは?
新型コロナウイルスに関して世界共通の系統分類方法であるPangolin(COVID-19 Lineage Assigner Phylogenetic Assignment of Named Global Outbreak LINeages, 
https://cov-lineages.org/lineages.html)による分類系統IDによる分類系統名です。

・患者由来検体とは?
東京医科歯科大学病院の入院・外来においてCOVID-19患者の鼻咽腔ぬぐい液から採取されたウイルス(SARS-CoV-2)のことを指します。

・全ゲノム解析とは?
コロナ遺伝子検査として幅広く用いられているPCR検査は、ウイルスゲノムの限られた遺伝子領域(200塩基前後)のみ検出するのに対し、全ゲノム配列解析はコロナウイルスゲノム(約30,000塩基)を全て解読し、ウイルス配列全体の特徴を調べる方法のことを指します。

・医科歯科大 新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクトとは?
2020年7月以降に東京医科歯科大学病院に入院歴のあるCOVID-19患者検体に含まれるSARS-CoV-2の全長ゲノム配列を解析し、(1)ウイルス学的特徴、(2)COVID-19疫学データ、および(3)臨床的特徴を紐付けすることによりCOVID-19病態解明および公衆衛生上の意思決定への貢献を目的として解析を進めています。
 

参考資料

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第1報
http://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210129-1.pdf 

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第2報
https://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210218-1.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第3報
https://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210315-1.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第4報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54630_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第5報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54774_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第6報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54951_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第7報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55606_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第8報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55788_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第9報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55835_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第10報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/56730_ext_04_6.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第11報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/56854_ext_04_6.pdf

問い合わせ先

<内容に関すること>
国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 
ウイルス制御学分野 武内 寛明(たけうち ひろあき)
E-mail:htake.molv[@]tmd.ac.jp
    
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

プレス通知資料PDF

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