「 経時的RNA定量解析による新規エンハンサー候補領域同定法の開発 」【鹿島田健一 講師】
公開日:2022.2.8
「 経時的RNA定量解析による新規エンハンサー候補領域同定法の開発 」
― 新規エンハンサー候補領域同定法を用いた卵巣特異的エンハンサー候補の同定、および同領域の卵巣機能不全患者希少多型の発見 ―
― 新規エンハンサー候補領域同定法を用いた卵巣特異的エンハンサー候補の同定、および同領域の卵巣機能不全患者希少多型の発見 ―
ポイント
- 遺伝子転写制御機構の解明で最も困難な、エンハンサー※1候補領域を同定する方法を開発しました。
- 本法を用い、原因不明の卵巣機能不全患者より希少な遺伝子多型を同定することに成功しました。
- 同様の方法を用い、多くの遺伝子のエンハンサー候補領域の同定が可能になる可能性があります。
- 今後、様々な遺伝性疾患や腫瘍発生など、遺伝子転写制御に係る病態の解明に貢献することができます。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科発生発達病態学分野の森尾友宏教授、鹿島田健一講師、中川竜一(大学院生)の研究グループは、理化学研究所、国立成育医療研究センター、クイーンズランド大学、メルボルン大学、慶應義塾大学との共同研究で、新規エンハンサー候補領域同定法を用いて卵巣特異的エンハンサー候補を同定し、さらに同領域の卵巣機能不全患者希少多型を発見しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Human Molecular Genetics (ヒューマン モルキュラー ジェネティクス)に、2022年2月3日にオンライン版で発表されました。
研究の背景
遺伝子は、しかるべき量が転写されその機能を発揮すること(=発現制御)で細胞の正常な機能を維持します。遺伝子発現制御の異常は、様々な疾患の発症に結びつき、その解明は多くの遺伝性希少疾患や悪性疾患の病態解明において重要な役割を果たすと考えられています。遺伝子発現制御は、エンハンサーと呼ばれる遺伝子間に位置する領域が大きな役割を果たしますが、そのエンハンサーを見つけることは、従来大変困難とされています。一つの遺伝子に複数のエンハンサーが相互的に作用すること、標的となる遺伝子から大きく離れている場所に位置することが多いこと、組織や細胞分化の時期でエンハンサーが変化すること、標識となるものが明らかでないこと、などがその理由です。エンハンサーを効率よく同定する技術を開発することは、遺伝性希少疾患や悪性疾患の病態解明の解明に大きく貢献するとされています。
近年、活性をもつエンハンサー領域からは微量のエンハンサーRNA(eRNA)と呼ばれるRNAが転写されることがわかってきました。 eRNAの機能については諸説ありますが、多くのエンハンサーではeRNA量とエンハンサー活性には一定の相関があることが示されています。そこで本研究では、このeRNAに注目し、eRNAの転写活性と、標的遺伝子の転写活性の関係を見ることで、新規エンハンサー候補領域を同定する手法の開発を試みました。
本研究のモデル疾患として、卵巣の発生障害により生じる46,XX性分化疾患 (DSD)や早発卵巣機能不全 (POI)を選びました。これらの疾患は、遺伝学的原因が同定されない事が多く、疾患に関わる多型の多くはエンハンサーなどの非翻訳領域に存在すると考えられているためです。
近年、活性をもつエンハンサー領域からは微量のエンハンサーRNA(eRNA)と呼ばれるRNAが転写されることがわかってきました。 eRNAの機能については諸説ありますが、多くのエンハンサーではeRNA量とエンハンサー活性には一定の相関があることが示されています。そこで本研究では、このeRNAに注目し、eRNAの転写活性と、標的遺伝子の転写活性の関係を見ることで、新規エンハンサー候補領域を同定する手法の開発を試みました。
本研究のモデル疾患として、卵巣の発生障害により生じる46,XX性分化疾患 (DSD)や早発卵巣機能不全 (POI)を選びました。これらの疾患は、遺伝学的原因が同定されない事が多く、疾患に関わる多型の多くはエンハンサーなどの非翻訳領域に存在すると考えられているためです。
研究成果の概要
1:今回、研究グループは活性をもつエンハンサー領域からはエンハンサーRNAと呼ばれるRNAが転写されることに注目し、その発現量と標的遺伝子の発現量の変化を経時的にみることで、エンハンサー候補領域を同定する方法を開発しました(図①②③)。
2:この方法を用い、卵巣発生に重要な遺伝子、Wnt4とRspo1上流にそれぞれエンハンサー候補領域を同定しました(図④)。
3:同定されたエンハンサー候補についてヒトでの相同領域を調べたところ、46,XX性分化疾患 (DSD)や早発卵巣機能不全 (POI)患者のDNA配列で希少な遺伝学的多型をみつけました(図⑤)。
4:本研究で網羅的RNA解析に用いたCAGE法※2は、eRNAの同定に有用な解析方法として知られていましたが、解析に必要とするRNA量が多く、微量の生体内組織や有る特定の細胞を用いた解析が困難でした。我々は理化学研究所と共同でPCR法を用い微量のRNA試料を増幅する方法を開発し、微量のRNA試料から効果的にeRNA解析を行う方法を確立しました(図②)。この技術は、理化学研究所(林崎良英プロジェクトリーダー)、およびダナフォーム社との共同研究により開発しました。
2:この方法を用い、卵巣発生に重要な遺伝子、Wnt4とRspo1上流にそれぞれエンハンサー候補領域を同定しました(図④)。
3:同定されたエンハンサー候補についてヒトでの相同領域を調べたところ、46,XX性分化疾患 (DSD)や早発卵巣機能不全 (POI)患者のDNA配列で希少な遺伝学的多型をみつけました(図⑤)。
4:本研究で網羅的RNA解析に用いたCAGE法※2は、eRNAの同定に有用な解析方法として知られていましたが、解析に必要とするRNA量が多く、微量の生体内組織や有る特定の細胞を用いた解析が困難でした。我々は理化学研究所と共同でPCR法を用い微量のRNA試料を増幅する方法を開発し、微量のRNA試料から効果的にeRNA解析を行う方法を確立しました(図②)。この技術は、理化学研究所(林崎良英プロジェクトリーダー)、およびダナフォーム社との共同研究により開発しました。
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研究成果の意義
本研究の意義は以下の3つです。
1: 比較的簡便に遺伝子のエンハンサーを同定する方法を開発したことにより、今後、さらに遺伝子発現制御の理解が進み、様々な遺伝学的疾患や悪性疾患など遺伝子発現制御機構の破綻で生じると考えられる疾患の病態解明を深め、将来的な治療法、予防法の開発に寄与します。
2: 卵巣の発生障害により生じる46,XX性分化疾患 (DSD)や早発卵巣機能不全 (POI)の発症機構の一端の理解を深めました。
3: 少量のRNA試料で解析可能なCAGE法を開発したことで、今後CAGE法を用いた解析の汎用性をさらに進めることができます。
1: 比較的簡便に遺伝子のエンハンサーを同定する方法を開発したことにより、今後、さらに遺伝子発現制御の理解が進み、様々な遺伝学的疾患や悪性疾患など遺伝子発現制御機構の破綻で生じると考えられる疾患の病態解明を深め、将来的な治療法、予防法の開発に寄与します。
2: 卵巣の発生障害により生じる46,XX性分化疾患 (DSD)や早発卵巣機能不全 (POI)の発症機構の一端の理解を深めました。
3: 少量のRNA試料で解析可能なCAGE法を開発したことで、今後CAGE法を用いた解析の汎用性をさらに進めることができます。
用語解説
※1 エンハンサー: 遺伝子の転写量を増加させる作用をもつタンパクをコードしないゲノム領域を指す。 プロモーターからの距離や位置、方向に関係なく働き、遺伝子の発現調節で重要な役割を果たす。
エンハンサーRNA (eRNA): エンハンサーから転写されるタンパクをコードしないRNA。エンハンサー活性の制御に関与していると考えられているが、精確な機能は不明である。その特徴の一つとして5’と3’の2方向に産生される。
※2 CAGE法: 網羅的RNA解析を行う方法の一つ。理化学研究所が開発した。通常の網羅的RNA解析に比べ転写開始点と転写方向が精確にわかることが特徴であり、2方向への転写が特徴的なeRNAの検出に優れている。
エンハンサーRNA (eRNA): エンハンサーから転写されるタンパクをコードしないRNA。エンハンサー活性の制御に関与していると考えられているが、精確な機能は不明である。その特徴の一つとして5’と3’の2方向に産生される。
※2 CAGE法: 網羅的RNA解析を行う方法の一つ。理化学研究所が開発した。通常の網羅的RNA解析に比べ転写開始点と転写方向が精確にわかることが特徴であり、2方向への転写が特徴的なeRNAの検出に優れている。
論文情報
掲載誌: Human Molecular Genetics
論文タイトル: Two ovarian candidate enhancers, identified by time series enhancer RNA analyses, harbor rare genetic variations identified in ovarian insufficiency
DOI: https://doi.org/10.1093/hmg/ddac023
研究者プロフィール
![](/files/topics/56906_ext_05_2.jpg)
森尾 友宏 (モリオ トモヒロ) Tomohiro Morio
東京医科歯科大学 医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 教授
・研究領域
小児科学、免疫学、再生医学、遺伝学
東京医科歯科大学 医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 教授
・研究領域
小児科学、免疫学、再生医学、遺伝学
![](/files/topics/56906_ext_05_3.jpg)
鹿島田 健一(カシマダ ケンイチ) Kenichi Kashimada
東京医科歯科大学 医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 講師
・研究領域
小児科学、内分泌学、再生医学、遺伝学
東京医科歯科大学 医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 講師
・研究領域
小児科学、内分泌学、再生医学、遺伝学
![](/files/topics/56906_ext_05_28.jpg)
中川 竜一 (ナカガワ リュウイチ) Ryuichi Nakagawa
東京医科歯科大学 医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 大学院生
・研究領域
小児科学、内分泌学
東京医科歯科大学 医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 大学院生
・研究領域
小児科学、内分泌学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
発生発達病態学分野 氏名 鹿島田 健一 (カシマダ ケンイチ)
E-mail:kkashimada.ped[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp