プレスリリース

「オミクロン系統株:BA.2の新たな市中感染、および本邦において長期間存続しているデルタ系統株へのさらなる市中感染事例を確認」

公開日:2022.1.31

オミクロン系統株:BA.2の新たな市中感染、および本邦において長期間存続しているデルタ系統株へのさらなる市中感染事例を確認
~医科歯科大 新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクト 第11報~

ポイント

  • 2022年1月中旬のCOVID-19患者から検出したSAR-CoV-2は、オミクロン系統株:BA.2であることがわかりました。
  • 当該患者に渡航歴および濃厚接触者歴はなく、市中感染事例であることがわかりました。
  • 2022年1月中旬のCOVID-19患者から検出されたデルタ系統株:AY29は、2021年8月の第5波から今日に至るまで本邦市中に長期間存続しているAY.29系統株であり、本邦デルタ系統株のわずか1%以下の割合で存続していることがわかりました。
  • 当該AY.29系統株は、2021年12月以降の第6波で確認されている本邦デルタ系統株感染者の約半数(48%)を占めていることがわかりました。
 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の武内寛明准教授・東京医科歯科大学病院病院長補佐、難治疾患研究所ゲノム解析室の谷本幸介助教、リサーチコアセンターの田中ゆきえ助教、ウイルス制御学分野の北村春樹大学院生および多賀佳大学院生らによる本学入院患者由来SARS-CoV-2全ゲノム解析プロジェクトチームは、統合臨床感染症学分野の具芳明教授、木村彰方理事・副学長・特任教授および京都府立医科大学大学院分子病態感染制御・検査医学分野の貫井陽子教授(前医学部附属病院感染制御部部長)との共同解析により、2022年1月中旬のCOVID-19患者から、オミクロン系統株:BA.2の新たな市中感染事例、および本邦において長期間存続しているデルタ系統株:AY.29へのさらなる感染事例(本学2例目)を確認しました。

背景

 デルタ系統株による第5波の感染収束が見られた2021年9月末から11月下旬まで、本邦におけるCOVID-19患者は極めて少ない状況が維持されていました。ところが、11月初旬に南アフリカ地域で確認された新たな変異系統株(オミクロン株)が世界各地で感染急拡大するのに伴い、11月下旬以降、日本でも空港検疫にてオミクロン株への感染事例が確認されるようになりました。その後国内に流入したオミクロン系統株:BA.1による急激な感染拡大に見舞わられているのが現状です。ところが、海外においてBA.1系統株よりも感染伝播性の更なる増大が懸念されるオミクロン系統株:BA.2の感染拡大の兆候が新たに認められてきており、本邦においても、空港検疫でBA.2系統株が検出されると共に当該系統株の市中感染の可能性が懸念されていることから、さらに強固な感染拡大防止対策を講じると同時に社会経済活動維持とのバランスを取る必要に迫られているのが現状です。

概要

 2022年1月中旬において東京医科歯科大学病院に入院または通院歴のあるCOVID-19患者由来検体を用いて全ゲノム解析を行った結果、オミクロン系統株:BA.2への新たな感染事例を確認しました。当該株は1例の患者に認められ、渡航歴および濃厚接触者歴はなく感染経路不明であることから、BA.2の市中感染事例であると考えられます。
 また、今回全ゲノム解析で確認されたデルタ系統株は、本学プレスリリース第10報(https://www.tmd.ac.jp/files/topics/56730_ext_04_6.pdf)で報告したデルタ系統株と同一のものであることを確認しました。当該デルタ系統株は、2021年8月の第5波から今日に至るまで本邦市中に長期間存続しているデルタ系統株の中で、わずか1%以下の割合で存続しているデルタ系統株となります。ところが、当該株はGISAID(SARS-CoV-2全ゲノム情報データベース)に登録されている2021年12月以降の第6波で確認されている本邦デルタ系統株の約半数(48%)を占めていることがわかり、第6波における主流デルタ系統株になりつつあることが示唆されます。
 

本知見の意義

 今回確認したオミクロン系統株(BA.2系統)感染者は、海外渡航や濃厚接触者へのリンクがなく感染経路も不明であることから、市中感染事例である可能性が極めて高いものと考えられます。また本邦デルタ系統株集団において、小群で長期間存続しているデルタ系統株への市中感染事例が複数確認され、当該株は第6波における本邦の主流デルタ系統株になりつつあることが考えられます。このように、第6波は複数のオミクロン系統株(BA.1、BA.1.1、BA.2)とデルタ系統株(AY.29)とが市中に共存している状態であり、全ての系統株において一定程度の重症化リスクを有する可能性が考えられることから、従来の感染予防対策を継続すると同時に、市中流行系統株の遷移(置き換わり)をモニタリングし、市中流行株の実態を把握することが公衆衛生上の意思決定に重要であると考えます。

用語解説

・系統とは?
新型コロナウイルスに関して世界共通の系統分類方法であるPangolin(COVID-19 Lineage Assigner Phylogenetic Assignment of Named Global Outbreak LINeages, 
https://cov-lineages.org/lineages.html)による分類系統IDによる分類系統名である。

・患者由来検体とは?
東京医科歯科大学病院の入院・外来においてCOVID-19患者の鼻咽腔ぬぐい液から採取されたウイルス(SARS-CoV-2)のことを指します。

・全ゲノム解析とは?
コロナ遺伝子検査として幅広く用いられているPCR検査は、ウイルスゲノムの限られた遺伝子領域(200塩基前後)のみ検出するのに対し、全ゲノム配列解析はコロナウイルスゲノム(約30,000塩基)を全て解読し、ウイルス配列全体の特徴を調べる方法のことを指します。

・医科歯科大 新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクトとは?
2020年7月以降に東京医科歯科大学病院に入院歴のあるCOVID-19患者検体に含まれるSARS-CoV-2の全長ゲノム配列を解析し、(1)ウイルス学的特徴、(2)COVID-19疫学データ、および(3)臨床的特徴を紐付けすることによりCOVID-19病態解明および公衆衛生上の意思決定への貢献を目的として解析を進めています。
 

参考資料

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第1報
http://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210129-1.pdf 

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第2報
https://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210218-1.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第3報
https://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210315-1.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第4報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54630_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第5報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54774_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第6報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54951_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第7報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55606_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第8報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55788_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第9報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55835_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第10報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/56730_ext_04_6.pdf

問い合わせ先

<内容に関すること>
国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 
ウイルス制御学分野 武内 寛明(たけうち ひろあき)
E-mail:htake.molv[@]tmd.ac.jp
    
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

プレス通知資料PDF

  • 「オミクロン系統株:BA.2の新たな市中感染、および本邦において長期間存続しているデルタ系統株へのさらなる市中感染事例を確認」