「新型コロナウイルス感染症スーパースプレッダーの特徴」【藤原武男 教授】
公開日:2022.1.17
「 新型コロナウイルス感染症スーパースプレッダーの特徴 」
― 高いウイルスコピー数を有し、周囲に感染を拡大するスーパースプレッダーの決定要因の発見 ―
ポイント
- 新型コロナウイルス感染症のPCR検査で高いウイルスコピー数を有し、周囲への感染力と死亡率が高い患者はスーパースプレッダーと呼ばれます。
- これまでスーパースプレッダーの決定要因については解明されていませんでした。
- 私たちの研究グループは2020年3月から2021年6月までに東京医科歯科大学病院に入院した患者を対象とした研究で、糖尿病、関節リウマチ、脳梗塞の既往がスーパースプレッダーのリスクとなることを見出しました。
- 本研究の結果は、スーパースプレッダーであるリスクが高い患者に対して、隔離や医療従事者への警告など特別な感染管理措置を、入院の初期段階で講じる必要があることを示唆しています。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男教授の研究グループは、東京医科歯科大学救急救命センター、東京医科歯科大学臨床検査医学分野との共同研究で、新型コロナウイルス感染症のPCR検査で高いウイルスコピー数を有し、周囲への感染を拡大するスーパースプレッダーと呼ばれる患者の決定要因について明らかにしました。その研究成果は、国際科学誌Journal of Infection(ジャーナルオブインフェクション)に、2021年12月30日にオンライン版で公開されました。
研究の背景
新型コロナウイルス感染症の診断にはRT-PCR検査※1が重要な役割を果たし、RT-PCR検査によりウイルスコピー数の定量的な評価が可能となります。2003年のSARS※2あるいは2012年のMERS※3流行時から、すべての患者が等しく感染を広げるのではなく、高いウイルスコピー数をもつ特定の患者が特に感染を広げていくことが知られていました。これらの患者はスーパースプレッダーと呼ばれ、新型コロナウイルス感染症においてもスーパースプレッダーが高い感染力と死亡率をもつことが知られています。スーパースプレッダーを早期に同定することは、治療および周囲への二次感染の拡大防止の観点から重要ですが、これまでスーパースプレッダーの決定要因については解明されていませんでした。私たちの研究グループは2020年3月から2021年6月までに、中等症から重症の新型コロナウイルス感染症で東京医科歯科大学病院に入院し、少なくとも1回以上RT-PCR検査が行われた患者379名を対象とし、スーパースプレッダーを特定する要因について検討を行いました。
研究成果の概要
入院患者の電子カルテの情報を基に、高血圧・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症・関節リウマチ・癌・慢性腎不全・脳梗塞・心疾患・呼吸器疾患・アレルギーといった既往歴について調査を行い、分析しました。年齢や性別、喫煙歴で調整した分析の結果、上記の既往を3つ以上重複して有する患者では、既往のない患者と比較して、ウイルスコピー数が87.1倍(95%信頼区間 5.5, 1380.1)高くなることが明らかになりました。また、糖尿病患者では17.8倍(95%信頼区間 1.4, 223.9)、関節リウマチ患者では1659.6倍(95%信頼区間 1.4, 2041737.9)、脳梗塞患者では234.4倍(95%信頼区間 2.2, 25704.0)倍、ウイルスコピー数が高くなることが明らかになりました。入院時の血液検査結果の解析では、入院時に血小板とCRP※4が低い患者は高いウイルスコピー数を有することが明らかになりました。さらに、複数回RT-PCR検査を行った患者を分析した結果、90%以上の患者が初回または2回目の検査で最大のウイルスコピー数に達していることが判明しました。
研究成果の意義
2022年初頭の現在、新型コロナウイルス感染症は再流行の兆しをみせています。特に感染を広げる原因となりうるスーパースプレッダーを既往歴や入院時の血液検査の情報から特定することで、臨床医は個室で患者を隔離し院内感染を防ぐための注意喚起を行うなど、感染管理措置を取ることが可能になります。また、スーパースプレッダーである可能性の高い患者に対しては、特に感染の初期において注意深い感染管理措置が必要なことが示されました。私たちの研究は新型コロナウイルス感染症におけるスーパースプレッダーの特徴を明らかにし、院内における二次感染の拡大を予防する可能性を示しました。
用語解説
※1RT-PCR・・・・・・・・Real time polymerase chain reaction. リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応。PCR法によるDNA(デオキシリボ核酸)複製過程をリアルタイムに測定する手法であり、増幅産物の定量が可能である。
※2SARS・・・・・・・・Severe acute respiratory syndrome. 重症急性呼吸器症候群。SARSコロナウイルスにより引き起こされる全身性の感染症。2003年にアジア各国で感染を広げた。
※3MERS・・・・・・・・Middle east respiratory syndrome. 中東呼吸器症候群。2012年以降アラビア半島を中心に発生報告がある重症呼吸器感染症。
※4CRP・・・・・・・・C-reactive protein. C. 体内で炎症や組織障害が起こると増加する蛋白質。
※2SARS・・・・・・・・Severe acute respiratory syndrome. 重症急性呼吸器症候群。SARSコロナウイルスにより引き起こされる全身性の感染症。2003年にアジア各国で感染を広げた。
※3MERS・・・・・・・・Middle east respiratory syndrome. 中東呼吸器症候群。2012年以降アラビア半島を中心に発生報告がある重症呼吸器感染症。
※4CRP・・・・・・・・C-reactive protein. C. 体内で炎症や組織障害が起こると増加する蛋白質。
論文情報
掲載誌:Journal of Infection
論文タイトル:Characteristics of SARS-CoV-2 super-spreaders in Japan
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jinf.2021.12.036
研究者プロフィール

藤原 武男 (フジワラ タケオ) Fujiwara Takeo
東京医科歯科大学
国際健康推進医学分野 教授
・研究領域
虐待予防に関する研究、社会疫学、ライフコース疫学等
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
国際健康推進医学分野 氏名 藤原武男(フジワラタケオ)
E-mail:fujiwara.hlth[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp