プレスリリース

「B型およびC型肝炎ウイルスキャリアへの受診受療勧奨およびフォローアップシステムの構築」【沢辺元司 教授】

公開日:2022.1.14

B型およびC型肝炎ウイルスキャリアへの受診受療勧奨およびフォローアップシステムの構築」

ポイント

  • 国立感染症研究所、肝疾患診療連携拠点病院、保健所が連携し、肝炎ウイルス陽性者への受診受療勧奨とフォローアップシステムを構築しました。
  • 国立感染症研究所と東京医科歯科大学においてシステムの有用性の解析を行いました。
  • システムの実施により、モデル地区における肝炎ウイルス陽性者の受診率、通院率、治療率が向上しました。
  • 本システムを国内の他の地域でも実施することで、より多くの肝炎ウイルス陽性者を受診受療に結びつけることが期待できます。

     国立感染症研究所、藤田医科大学病院(肝疾患診療連携拠点病院)、岡崎市保健所の連携により肝炎フォローアップ事業の一環として肝炎ウイルス陽性者への受診受療勧奨とフォローアップシステムが構築されました。システムの有用性に関し、国立感染症研究所ウイルス第二部第四室、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生体検査科学専攻分子病理検査学分野、広島大学大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学研究室、藤田医科大学医学部医学科消化器内科学、名城病院肝臓病センターが連携して解析、検討を行い、本学大学院分子病理検査学分野の沢辺元司教授と菊池みなみ大学院生による解析の結果、システムが肝炎ウイルス陽性者の受診受療率向上に有用であることが示されました。この研究は厚生労働科学研究費「効率的な肝炎ウイルス検査陽性者フォローアップシステムの構築のための研究」の一環として厚生労働省 肝炎等克服政策研究事業 肝炎ウイルス感染状況の把握および肝炎ウイルス排除への方策に資する疫学研究の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Hepatology International(ヘパトロジーインターナショナル)に、2021年12月2日にオンライン版で発表されました。
     

研究の背景

 WHOによると、全世界におけるB型肝炎ウイルス(HBV)キャリア※1、C型肝炎ウイルス(HCV)キャリア※2は、それぞれ約2億5千7百万人、約7千百万人存在すると推定されています(2015年時点)。HBVまたはHCVに感染すると高率に肝硬変や肝細胞癌を合併し、予後不良であることが知られていますが、2015年時点で肝炎ウイルス検査を受けたキャリアはそれぞれ約9%と約20%であり、治療を受けたのはさらにそのうちの約8%と約7%にしか満たないと推定されています。この現状に対し、WHOは2030年までにウイルス性肝炎撲滅を達成するには高い効果のある介入が必要であり、肝炎ウイルス検査と、肝炎ウイルス陽性者の受診、治療、長期慢性期医療受療の一連の流れを確立した上で、全肝炎ウイルスキャリアの90%を検査により検出し、そのうち80%に受診受療させなければならないと提唱しました。日本においても、約209万~284万人存在すると推定されているHBV、HCVキャリアのうち、肝炎ウイルス検査を受検し、検査陽性であると知りながら医療機関を受診していない肝炎ウイルス陽性者は約50-125万人も存在すると推定されており(2011年時点)、陽性者を医療機関に結びつけることが課題となっています。そこで、国立感染症研究所、肝疾患診療連携拠点病院(藤田医科大学病院)、保健所(岡崎市保健所)の連携により肝炎ウイルス陽性者への受診受療勧奨・フォローアップシステムが構築され、保健所による健診で検出された肝炎ウイルス陽性者に対し、年一回の医療機関受診の呼びかけ、調査票による受療状況の確認が開始されました。
 

研究成果の概要

 受診受療勧奨・フォローアップシステムでは、初めに、国立感染症研究所と肝疾患診療連携拠点病院が肝炎ウイルス検査陽性である旨の通知文やウイルス性肝炎に関するパンフレット、受診受療状況に関する調査票を作成して保健所に郵送し、次に保健所が陽性者にそれらの書類を発送しました。陽性者はパンフレットにより医療機関を受診するよう呼びかけられ、調査票に回答し受療状況を感染研に返送することでフォロ-アップを受けました。最後に、国立感染症研究所と東京医科歯科大学大学院で回答済み調査票の解析を行い、解析結果を拠点病院と保健所と共有しました。このシステムを2012年から2019年まで継続した結果、2012年に陽性者に受診受療の呼びかけを行わない状態で行った事前調査ではHBV陽性者:35%、HCV陽性者:34%であった受診率が、HBV陽性者:80%、HCV陽性者:91%と2019年まで継続的に増加しました。また、2012—2019年の間に約60%のHBV、HCV陽性者が少なくとも一度は受診を達成しました。通院率も事前調査と2019年を比較すると、HBV陽性者で約20%、HCV陽性者で約10%増加し、治療率もそれぞれ約10%、約30%増加しました。また、それぞれの陽性者の性別、年齢、居住地域と調査票回答率、受診率、通院率、治療率の関連を解析すると、HBV陽性者、HCV陽性者のいずれも70歳以上の高齢の陽性者が調査票への回答、受診、通院、治療をしていなかったことがわかりました。保健所による健診で検出される肝炎ウイルス陽性者のうち、高齢者の割合が経年的に増えてきているので、今後は高齢の陽性者へのアプローチに関する検討が必要であると考えられています。

研究成果の意義

 今回の研究で、パンフレットと調査票といった紙媒体を用いた方法によって、肝炎ウイルス陽性者の受診受療率の向上と毎年の受療状況の確認ができ、長期的にシステムが実施可能であることがわかりました。今回の研究では、国立感染症研究所と、愛知県内の保健所および肝疾患診療連携拠点病院の岡崎市保健所、藤田医科大学病院が連携してシステムを実施しましたが、国内の他の市町村でも同様の活動が行えるのではないかと考えられます。より多くの市町村で本システムを実施することにより、国内で検査陽性であると知りながら医療機関を受診していないと推定されている肝炎ウイルス陽性者約50-125万人(2011年時点)の方々を、一人でも多く医療機関に結びつけることができるのではないかと期待しています。また、昨今は社会的に少子高齢化が問題視されていますが、今回の研究から肝炎ウイルス陽性者に関しても高齢者へのアプローチに関する検討の必要性が示されました。本システムの拡大と、肝炎ウイルス陽性者の社会的背景を考慮しつつ、引き続き対策を講じていく重要性が示唆されました。

用語解説

※1 B型肝炎ウイルス(HBV)キャリア:B型肝炎ウイルス感染者
※2 C型肝炎ウイルス(HCV)キャリア:C型肝炎ウイルス感染者

論文情報

掲載誌Hepatology International

論文タイトル:Development of an intervention system for linkage-to-care and follow-up for hepatitis B and C virus carriers

DOIhttps://doi.org/10.1007/s12072-021-10269-5

研究者プロフィール

沢辺元司 (サワベ モトジ) Motoji Sawabe
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 生体検査科学専攻
分子病理検査学分野 教授
・研究領域
人体病理学、肝臓病理学、分子疫学

菊池 みなみ (キクチ ミナミ) Minami Kikuchi
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 生体検査科学専攻
分子病理検査学分野 博士課程大学院生
・研究領域
ウイルス学、肝臓学、疫学、公衆衛生学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 生体検査科学専攻
分子病理検査学分野 
氏名 沢辺 元司 (サワベ モトジ)
氏名 菊池 みなみ (キクチ ミナミ)
E-mail:m.sawabe.mp[@]tmd.ac.jp
    minamp[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

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