プレスリリース

コロナ禍での集中治療室におけるタブレット貸出による面会の効果

公開日:2021.12.16

コロナ禍での集中治療室におけるタブレット貸出による面会の効果
― オンライン面会と患者家族のメンタルヘルス・ケア  ―

ポイント

  • 患者家族面会は医療従事者との接点でもあり、集中治療を要する重症患者の家族のメンタルヘルス※1・ケアに重要な役割を果たしています。しかし、コロナ禍において多くの病院で患者家族面会が禁止・制限され、患者家族のメンタルヘルス・ケアに懸念が生じています。
  • そこで、タブレットなどを用いた動画通信による「オンライン面会」が注目を集めています。しかし、オンライン面会を計画したところ、約4割の家族がタブレット未所有、あるいは機種の違いにより円滑に動画通信ができないといった「ツールの溝」が存在しました。
  • 東京医科歯科大学病院集中治療部ではタブレット貸出による家族面会システムを構築し、「ツールの溝」を埋める取り組みを実施したところ、家族・医療従事者双方から高い評価を得ました。
     
     東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生体集中管理学分野の野坂宜之助教と山内英雄特任講師、鵜川豊世武特任准教授、若林健二教授の研究グループは、タブレット貸出により東京医科歯科大学病院集中治療部と患者家族を動画通信で結ぶ遠隔家族面会システムを構築し、その効果を家族と医療従事者双方に対するアンケート調査により評価しました。本研究はシャープ株式会社の協力のもと、患者家族と病院間の通話専用に開発された、操作が簡単な動画通信機能付きタブレット端末を用いておこなわれました。研究成果は、第49回日本救急医学会総会・学術集会で報告されました。

研究の背景

 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)は未だ完全な収束を見せておらず、本疾患が患者に与える長期的後遺症の存在はLong COVIDとして知られています。集中治療領域においては、重症な疾患の後遺症は患者自身だけでなく患者家族にも及ぶことが「家族の集中治療後症候群(PICS-F)」と呼ばれて知られており、具体的には不安やうつなどのメンタルヘルス障害を発症する危険が報告されています。PICS-Fの予防には医療従事者と家族の間の良好なコミュニケーションの確立が重要とされ、中でも家族面会は重要な役割を果たします。しかしながら、コロナ禍における感染対策の一環として多くの病院で家族面会が禁止・制限された結果、集中治療を要する重症患者の家族のメンタルヘルスに強い懸念が生じています。
 当院は200名を超える重症患者を含む600名以上のCOVID-19患者の治療に当たる中で、PICS-F対策としてタブレットを用いた動画通信による遠隔家族面会に取り組んでまいりました。しかしながら、患者家族の中には、タブレットを所有していなかったり、所有している機種が異なるために新たなアプリの設定やIDなど個人情報を含む複雑な情報の交換が必要な状況があるなど、「ツールの溝」が多く存在しました。
 
 そこで、東京医科歯科大学病院集中治療部では、「ツールの溝」が存在した患者家族を対象に、シャープ株式会社の協力のもと、患者家族と病院間通話のためだけに開発された、操作が簡単な通信機能付きタブレット端末を貸出して遠隔家族面会を実施するオンライン面会の取り組みを行い、その効果・満足度について調査を実施しました。

研究成果の概要

1、    「ツールの溝」の頻度と内訳
当院集中治療部では本年5月以降40家族にタブレット面会を実施し、そのうち15件(37%)にタブレットを貸出しました。つまり、約4割に「ツールの溝」が存在していました。貸出した家族のうち約7割(10名)は50代以上の中高年層でした。また、家族の居住地の約3割(4件)は首都圏以外の遠隔地でした。

2、    タブレット面会の効果
タブレット面会により平均週2-3回の面会が実施されるようになり、看護師が画面越しに家族ケアを実施する頻度が明らかに増えました。

3、    家族・医療従事者の評価
家族・医療従事者に実施した5点満点の満足度調査ではそれぞれ中央値5点、4点という高い評価を得ました。また、患者家族アンケートの自由記載欄には以下のようなコメント(抜粋)を得ました。

 「先生方や看護師さんの表情が「力」になり、電話だけでは伝わらない感覚が良かったです。」
「このタブレットで毎日面会でき、現実に向かい合うことができました。」
「百聞は一見にしかず」
「元気になっていく姿を見て安心して毎日を過ごすことができました。」

  1.  

研究成果の意義

 タブレットを用いたオンライン家族面会はコロナ禍における家族面会において欠かせないツールであること、実現に向けた障壁である「ツールの溝」が多数見られることが分かりました。「ツールの溝」を埋めるためのタブレット貸出面会システムは、ポストコロナにおいても遠隔地に住む家族などに対して有用であると考えられ、今後の体制整備が期待されます。
 私達はオンライン面会のPICS―F予防効果について、さらに研究を進めてまいります。

用語解説

※1メンタルヘルスとは?
心の健康状態のこと。ストレスなどが原因となって無意識のうちに自分自身をコントロールできなくなってしまう状態をメンタルヘルス障害と呼びます。
※2オンライン面会とは?
タブレット端末やPCに搭載された画像通信アプリを使用して実施する、家族と患者あるいは医療従事者の間で実施される面会のこと。

研究者プロフィール

野坂 宜之 (ノサカ ノブユキ) Nobuyuki NOSAKA
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
生体集中管理学分野 助教
・研究領域:集中治療医学
 
溝江 亜紀子(ミゾエ アキコ) Akiko MIZOE
東京医科歯科大学病院
クリティカル・ケア部門 看護師長
救急看護認定看護師
・研究領域:救急・集中治療看護
山内 英雄 (ヤマノウチ ヒデオ) Hideo YAMANOUCHI
東京医科歯科大学病院
集中治療部 特任講師
・研究領域:集中治療医学
鵜川 豊世武(ウガワ トヨム)Toyomu UGAWA
東京医科歯科大学病院
集中治療部 特任准教授
・研究領域:集中治療医学
 
若林 健二 (ワカバヤシ ケンジ) Kenji WAKABAYASHI
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
生体集中管理学分野 教授
・研究領域:集中治療医学
 

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
生体集中管理学学分野 氏名 野坂 宜之(ノサカ ノブユキ)
E-mail:nnosaka.ccm[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
 

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