プレスリリース

「標的分子への抗体産生を増強する多糖をベースとした担体の開発」【鍔田武志 教授】

公開日:2021.11.30

「標的分子への抗体産生を増強する多糖をベースとした担体の開発」
― 高い抗体産生能を持つワクチン開発へ ―

ポイント

  • 精製した標的タンパク質を用いたワクチンは、特定の標的分子への免疫反応を誘導できるという点で優れていますが、十分な免疫反応を惹起することは容易ではありません。
  • 多糖をベースとした物質を用いることで、新規メカニズムにより、標的分子への抗体産生を顕著に増強できることが明らかになりました。
  • 有効性の高いワクチン開発への応用が期待できます。

     東京医科歯科大学難治疾患研究所免疫疾患分野の鍔田武志教授と大学院生のWang Long、國武慎二の研究グループは、京都大学工学系研究科の秋吉一成教授、澤田晋一助教との共同研究で、多糖ベース担体を用いた標的分子への抗体産生を顕著に増強する技術を開発しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金、三菱財団ならび東京医科歯科大学難治疾患共同研究拠点の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Vaccine(ワクチン)に、2021年11月29日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 これまでに抗原によって活性化したことのないナイーブTリンパ球(T細胞)が活性化し、免疫応答を起こすには、T細胞が樹状細胞※1などの抗原提示細胞により数日間抗原提示※2を受けることが必要です。このため、分解されにくい抗原はより強くT細胞を活性化することが知られていました。しかし、抗原の分解を遅延することで、免疫応答を増強するような技術は未開発でした。

研究成果の概要

  本研究では、多糖であるプルランをコレステリル化することで形成したナノサイズのゲル(ナノゲル)にタンパク質抗原を化学的に結合し、マウスに免疫しました。タンパク質抗原のみの免疫ではほとんど抗体産生は見られませんでしたが、コレステリルプルランと結合したタンパク質抗原はアジュバントも用いなくても、多量の特異抗体の産生を誘導しました。
 免疫された抗原は、リンパ節などで樹状細胞に取り込まれ、T細胞に抗原提示を行います。タンパク質抗原は樹上細胞内で速やかに分解されましたが、コレステリルプルランと結合したタンパク質抗原は、分解が遅延していました。このことから、抗原をコレステリルプルランと結合することで、樹状細胞内での抗原の分解を遅延させ、その結果、T細胞の活性化、そして、抗体産生が顕著に増強することが示唆されました。

 

研究成果の意義

 抗原の分解を遅延させることで抗体産生を含め免疫応答を増強する技術の開発に成功しました。この技術を用いて、より有効性の高いワクチンの開発が可能になります。

用語解説

※1樹状細胞 免疫細胞の1つで、体内種々の部位に存在しますが、とりわけリンパ節などのリンパ組織や皮膚、粘膜などに多く存在します。病原体などの抗原を細胞内に取り込み、T細胞に抗原を提示します。
※2抗原提示 樹状細胞などの免疫細胞は抗原を取り込んで分解し、その断片を細胞表面に提示します。T細胞は抗原そのものによっては刺激されず、樹状細胞などが提示した抗原によって刺激を受け、活性化します。
 

論文情報

掲載誌: Vaccine (ワクチン) Volume 39 (出版社 エルゼビア)
論文タイトル: Protein antigen conjugated with cholesteryl amino-pullulan nanogel shows delayed degradation in dendritic cells and augmented immunogenicity
著者 Long, W., Kunitake, S., Sawada, S., Akiyoshi, K. and Tsubata, T. 
論文へのリンク https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2021.11.047.

この論文のコピーは、申請により資格があると認められたジャーナリストに無料で配布されます。 エルゼビアのニュースルーム(newsroom@elsevier.comまたは+31 20 485 2719)までご連絡ください。 
掲載誌ワクチンについて:ワクチンは、ワクチンと予防接種に関連した論文を出版する優れたジャーナルです。 エドワード・ジェンナー協会と日本ワクチン学会の公式ジャーナルであり、エルゼビアwww.elsevier.com/locate/vaccineから発行されています。 
 

研究者プロフィール

鍔田武志(ツバタタケシ) Tsubata Takeshi
東京医科歯科大学難治疾患研究所
免疫疾患分野 教授
・研究領域
免疫学、生化学

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学難治疾患研究所
免疫疾患分野 氏名鍔田武志(ツバタタケシ)
E-mail:tsubata.imm[@]mri.tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
 

プレス通知資料PDF

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