プレスリリース

「COVID-19による保育所閉鎖が日本の未就学児における 非認知スキル(社会情動的スキル)に与える影響」【藤原武男 教授】

公開日:2021.11.09

 COVID-19による保育所閉鎖が日本の未就学児における
非認知スキル(社会情動的スキル)に与える影響 

ポイント

  • COVID-19拡大前と比べて、第1波中の保育園児の非認知スキル(社会情動的スキル)は、下がる傾向にあることがわかりました。
  • 一方、園行事を中止しなかった保育園児の社会情動的スキルは、COVID-19拡大前より伸びている傾向にあることが明らかになりました。
  • 園行事を行うことが、子どもの育ちに重要であることが示唆され、コロナ禍でも感染対策に十分注意しながら実施することが望ましいことがわかりました。
 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男教授と土井理美特別研究員の研究グループは、COVID-19拡大前と比べて、第1波中の保育園児の非認知スキル(社会情動的スキル)が低くなっていましたが、園行事を中止しなかった保育所では、園児の社会情動的スキルがCOVID-19拡大前より伸びている傾向にあることを明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際誌 Frontiers in Psychiatryに、2021年10月21日にオンライン版で発表されました。
 

研究の背景

 日本における新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の第1波の状況下で、世界中の多くの保育所が閉園をしたり、発表会などの園行事を中止したりしました。これまでの研究から、保育所の閉園によって、子どもや保護者のメンタルヘルスが悪化することが示されていますが、園行事の中止が子どもに与える影響はわかっていませんでした。研究グループは、偶然にもCOVID-19拡大前の2019年11月、2020年1月および第1波の渦中である2020年3月にかけて、保育園児の非認知スキル(社会情動的スキル)を縦断的に3園で調査することができ、かつそのうちの1園では園行事を中止しなかったために保育所での行事の効果を検証することができました。また、これまで保育所の閉園による影響として、子どもの問題行動の増加や生活習慣の乱れなど、ネガティブな側面に焦点が当てられており、社会情動的スキルというポジティブな側面への影響は検討されてきませんでした。そこで本論文では、2020年におけるCOVID-19の第1波による自主的な保育園封鎖に伴う、園行事の縮小が日本の未就学児の社会情動的スキルに与える影響を検討することを目的としました。

研究成果の概要

 厳しい園封鎖は行われておらず、自主的な園封鎖が推奨されていた東京都内の3つの保育所に通園する4~5歳の32名の子どもを対象として調査が行われました。子どもの社会情動的スキルは、Devereux Student Strengths Assessment mini (DESSA-mini)を用いて、2019年11月、2020年1月(COVID-19拡大前)、および2020年3月(COVID-19第1波中)の3回にわたり、担任保育士によって評価されました。すべての保育所が2020年3月2日から自主的な園封鎖を実施し、2園が園行事である発表会を中止し、1園のみが3月4日に発表会を開催しました。
 その結果、発表会を実施した園の子どもは、COVID-19拡大前から第1波中まで、社会情動的スキル得点が安定していたことがわかりました。一方で、発表会を中止した園の子どもは、COVID-19前と比べて第1波中の社会情動的スキル得点は低くなっていました。下図は、社会的情動スキル得点の変化を保育所ごとに表したものです。発表会を中止した保育所(園1、園2)は、COVID-19拡大前の2019年11月から2020年1月では社会情動的スキル得点は低下していませんが、2020年1月からCOVID-19第1波中の2020年3月では社会情動的スキル得点が低下していることがわかります。発表会をCOVID-19第1波中に実施した保育所(園3)はCOVID-19拡大前の2019年11月からCOVID-19第1波中の2020年3月まで、社会情動的スキル得点は上昇傾向にあることがわかります。
 
図:社会情動的スキル得点の保育所ごとの変化

研究成果の意義

 COVID-19拡大前と比べて、第1波中の園児の社会情動的スキルの得点は低くなっていましたが、行事を中止しなかった保育所では、園児の非認知スキルの得点がCOVID-19拡大前の得点より伸びている傾向にあることが明らかになりました。この研究結果は保育園での行事の効果を自然実験により検証できた貴重な結果です。
 保育所での発表会といった園行事は、コミュニケーションスキル、子ども自身の感情をコントロールするスキル、問題解決をするスキルなど、子どもの社会情動的スキルに関連するスキルを発達させる重要な機会であることがわかっています。もちろんCOVID-19の感染から子どもたちを守ることも重要ですが、COVID-19拡大が長期化している現在では、COVID-19拡大による子どもの育ちへの長期的影響を検証していく必要があります。この論文から、コロナ禍でも感染対策に十分注意しながら園行事を行うことが子どもの育ちに重要であることを示唆していると考えられます。今後、COVID-19拡大時において園行事を実施するか、中止するかの判断に、この論文の結果が役立つことが期待されます。

用語解説

※1非認知スキル(社会情動的スキル):感情を管理する能力、長期的目標の達成、他者との協働の3つの側面に関する思考、感情、行動のパターンであり、学習を通して発達するもの。

論文情報

掲載誌Frontiers in Psychiatry

論文タイトル:Impact of school closure due to COVID-19 on the social-emotional skills of Japanese preschool children

DOIhttps://doi.org/10.3389/fpsyt.2021.739985

 

研究者プロフィール

藤原 武男 (フジワラ タケオ) Fujiwara Takeo
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
国際健康推進医学分野 教授
・研究領域
公衆衛生学、疫学(社会疫学、ライフコース疫学)



 

土井 理美 (ドイ サトミ) Doi Satomi 
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
国際健康推進医学分野分野 
日本学術振興会 特別研究員PD
研究領域
臨床心理学、母子保健

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
国際健康推進医学分野 藤原武男(フジワラタケオ)
                              土井理美(ドイサトミ)
E-mail:doi.hlth[@]tmd.ac.jp
 

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
 

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