プレスリリース

「全国規模の入院データ解析により慢性腎臓病(CKD)の複雑病態を可視化」【頼建光 教授、萬代新太郎 助教】

公開日:2021.11.04

「 全国規模の入院データ解析により慢性腎臓病(CKD)の複雑病態を可視化 」
― CKDに対して早期から集学的診療を行う重要性を示唆 ―

ポイント

  • 日頃診療医が経験する「入院契機疾患・直接死亡原因の不一致」の割合を、全国規模の実態調査(2012年~2015年、対象患者64万人)で初めて明らかにしました。
  • この病名不一致率は病院施設規模の影響を受けず、病名登録行動・入院時の診断精度が全国的に概ね均一であることが分かり、観察した4年間の間にも入院時の診断精度の向上が見られました。
  • 病名不一致に関わる基礎疾患や因子を解析し、慢性腎臓病(CKD)が強力に影響すること、さらには疾患カテゴリーの変遷を可視化する事でCKD、末期腎不全でリスクの高い疾患変遷が分かりました。
  • 非CKD患者では病名不一致の割合が少ないことから、腎機能が低下し始めた早期から、食事・運動療法、薬物治療を含めた集学的診療が重要であることが再認識されました。
 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野(茨城県腎臓疾患地域医療学寄附講座教授)の頼建光教授、同腎臓内科学分野(東京医科歯科大学病院血液浄化療法部助教)の萬代新太郎助教、大学院医歯学総合研究科医療政策情報学分野の伏見清秀教授の研究グループは、入院契機疾患・直接死亡原因の不一致の実態を全国規模の入院データ解析により初めて明らかにし、腎臓病による不一致率増加と背景の複雑病態を明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、米国科学誌PLOS ONE(プロスワン)に、2021年11月3日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

 慢性腎臓病(chronic kidney disease、CKD)は、糖尿病、高血圧症に代表される様々な疾患で発症し、1,300万人を超える日本国民が罹患していると推計されます。自覚症状が出づらく、静かに進行するため血液や尿検査を行わないと診断できないことが通常です。CKDが進行すると、末期腎不全となり透析療法を必要とするだけでなく、心筋梗塞、脳卒中、高血圧や感染症、サルコペニア(骨格筋の萎縮と筋力低下)に罹患しやすくなることが分かってきました。このようにCKDは様々な疾患が悪化する背景に潜んでおり、病態が複雑化することで、入院リスクの増加、多剤の内服薬服用につながる可能性が指摘されています。
 特に急性期の入院医療現場では、入院時点ですべての複雑な併存症を診断することが難しいことも多く、入院後の検査によって正確な病名診断を進めていく必要があります。また、入院後に発生、悪化する病態も存在するため、日頃多くの診療医が入院契機疾患と直接死亡原因の不一致を経験します。しかしながら、それを示した客観的データはこれまでになく、全国規模の本実態調査により初めて明らかになりました。

研究成果の概要

 本邦のDPC入院データベース※1を解析することで「入院契機疾患・直接死亡原因の不一致率」の全国規模の実態調査を初めて行い、病名不一致に関わる基礎疾患や因子を解析することを目的に本研究を実施しました。全国8,000以上の病院施設のうち、DPC調査参加病院は5,000病院を超え、現在60%を超える入院症例を網羅しています。本研究は2012年から2015年の4年間で、約64万人の解析を行いました。
 図1のように、非CKD患者においても入院契機疾患・直接死亡原因のICD-10病名コード※2の平均不一致率は25.7%と高い水準でした。これがCKD、透析療法を要する末期腎不全患者においてはさらに上昇し、それぞれ30.3%、41.6%に増加しました。
 注目すべきは、いずれのグループにおいても、病院施設規模の大小にあまり影響されず、診療医のDPC病名登録行動や入院時の診断精度は、日本国内で概ね均一の水準であることが明らかになりました。また、観察した4年間の間に病名不一致率は年々低下しており、入院時の診断精度が全国的に向上したことが分かりました。
 病名不一致に関わる基礎疾患や因子をロジスティック回帰分析で解析すると、年齢増加、男性、BMI(body mass index)の増加、緊急入院、基礎疾患合併スコアの増加が関連することが分かりました。基礎疾患の中でも、CKD、末期腎不全が強力に影響することが分かりました。
 さらに、ICD-10コードをもとに7つの疾患カテゴリーを作成し、入院中の疾患変遷を図示したものが図2です。非CKD患者では本邦の一般統計と同様に癌で死亡する患者数が最も多いことが分かります。それに対しCKD、末期腎不全においては心血管病やうっ血性心不全、感染症による死亡率の増加が目立ちました。そして入院時と異なる疾患カテゴリーに移行する割合が多いことが分かり、CKD、末期腎不全でリスクの高い疾患変遷が可視化されました(図2)。ロジスティック回帰分析を行うと、特にCKDではうっ血性心不全への移行、末期腎不全では感染症への移行が多いことがそれぞれ分かりました。この病名不一致により、いずれのグループでも在院日数の増加、診療費用の増加が確認されました。
 

研究成果の意義

 日頃診療医が経験する入院契機疾患・直接死亡原因の不一致を、全国規模の実態調査で初めて明らかにしました。従来指摘されてきた慢性腎臓病の複雑病態、それから特徴的な入院中の疾患変遷を可視化することが出来ました。
 本研究結果を解釈する上で注意しなくてはならない点は、救命し得なかった実症例の後方視的研究※3であるため、必ずしも病名不一致が入院診療の質を反映するものではなく、不一致を是正することが救命率の改善に直接つながるものではないことです。
 しかしながら、CKDが他の疾患に増して、病名不一致、複雑病態を招きうる知見は、腎機能が低下し始めた早期から、食事・運動療法、薬物治療を含めた集学的診療の開始が重要であることを再認識させる重要な結果と考えられ、CKDの最適な治療戦略を見出すことに寄与する可能性があります。

用語解説

※1DPCデータベース: DPC(Diagnostic Procedure Combination)は、全国の調査参加病院から収集された、入院患者に関する大規模データベースである。退院時情報や診療報酬データなどから構成され、診断名・入院時併存症および入院後の合併症とそれらのICD-10コード、手術処置名、在院日数、退院時転機、費用などの情報が含まれる。①診療報酬データベースであると同時に、②医療の透明性の向上(患者・国民)、③医療機関の客観的評価と比較(医療機関)、④医療資源の配分や政策の立案(医療政策)、のために運用される多面的に有効なデータベースである。

※2ICD-10コード: 疾病および関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, ICD)と定義される。異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータを体系的に記録、分析、解釈、比較することを目的に、世界保健機関(WHO)が作成した分類である。国内で使用される分類は、ICD-10(2013年版)に準拠しており、統計法に基づく統計調査や、診療録の管理等に活用されている。

※3後方視的研究: 研究開始時点からさかのぼってデータを収集し解析する観察研究の一種である。特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、対象となる疾患や事象の発生率を比較し、関連を調べる研究手法である。

 

論文情報

掲載誌PLOS ONE

論文タイトル:Burden of kidney disease on the discrepancy between reasons for hospital admission and death: an observational cohort stud

DOIhttps://doi.org/10.1371/journal.pone.0258846
 

研究者プロフィール

頼 建光(ライ タテミツ) Tatemitsu Rai
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 腎臓内科学分野
茨城県腎臓疾患地域医療学寄附講座 教授 
・研究領域
腎臓病 高血圧 水・電解質輸送

 
萬代 新太郎 (マンダイ シンタロウ) Shintaro Mandai
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 腎臓内科学分野
東京医科歯科大学病院 血液浄化療法部 助教
・研究領域
腎臓病 高血圧 水・電解質輸送 サルコペニア

 

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
腎臓内科学分野 
氏名 萬代 新太郎(マンダイ シンタロウ)
氏名 頼 建光(ライ タテミツ)
E-mail: mandai.kid[@]tmd.ac.jp
     trai.kid[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
 

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