「要介護高齢者の活動性、QOLおよび摂食嚥下機能の関連」【中川量晴 助教】
「 要介護高齢者の活動性、QOLおよび摂食嚥下機能の関連 」
― 摂食嚥下機能向上の訓練の実施が困難な患者に対する新たなアプローチ ―
ポイント
- 要介護高齢者を対象に、離床・外出等の活動性およびQOLと摂食嚥下機能との関連を調べました。
- 介護状態に関わらず、離床・外出をしてQOLが高い者は摂食嚥下機能が良い傾向でした。
- 活動性やQOL向上は要介護高齢者の摂食嚥下リハビリテーションに有効である可能性があります。
- 機能向上の訓練の実施が困難な要介護高齢者に対するアプローチの選択肢の多様化に繋がります。
研究の背景
研究成果の概要
データの解析は、摂食嚥下機能(FOIS)と他の項目との関係をSpearmanの順位相関係数を用いて検討しました。さらに、交絡要因調整のため、目的変数を摂食嚥下機能(FOIS)、説明変数を年齢、性別、ADL、誤嚥性肺炎の既往の有無、CCI、外出の有無、離床時間およびshort QOL-Dとして順序ロジスティック回帰分析を行い、摂食嚥下機能に関連する要因を調べました。
解析の結果、ADLや併存疾患によらず、①離床時間が長い、②外出をする、③QOLが高い場合にはFOISのスコアが有意に高く、摂食嚥下機能が良い傾向であることが分かりました。離床は体幹機能の維持や、意識レベルの向上、食欲減退防止に関連することが報告されています。長時間の離床は摂食嚥下に有利な安定した姿勢保持につながることに加え、摂食嚥下関連筋群の筋力維持や食べる意欲にも関連していると考えられます。また、加齢による活動障害由来のストレスでQOLが低下し、扁桃体※7や海馬※8に影響したり、認知機能低下が生じたりする可能性が知られています。よって、QOLが高く、慢性的なストレスから解放されたことで脳機能が健全に保たれたことが摂食嚥下機能と関連したと推測されます。外出については、好きな場所へ行く、自発的に社会と繋がることで精神的な健康の改善や認知機能低下防止が期待できます。さらに外出を契機に長時間楽しく離床できるという効果もあります。このように外出によりQOL向上と離床を促すことが摂食嚥下機能と関連したと考えられます。
研究成果の意義
用語解説
※1摂食嚥下リハビリテーション・・・・・・・・食事を噛んだり飲み込んだりするために必要な筋肉を鍛えたり、食事の姿勢の調整や、食べ方の指導を行うこと。
※2離床・・・・・・・・ベッドから離れて過ごすこと。
※3Glasgow Coma Scale, GCS・・・・・・・・意識レベルを評価するスケールで、開眼機能、運動機能、言語機能から成る。今回、意識があってもADLが低く動いたり喋ったりできない人が多いため、開眼機能のみを記録した。
※4 Charlson Comorbidity Index, CCI・・・・・・・・複数の重病をもつ患者の推定死亡率をスコア化する評価方法。
※5 Quality of Life Questionnaire for Dementia, short QOL-D・・・・・・・・アンケート形式の認知症患者のQOL評価方法。対象者の家族または介助者に回答してもらう。今回、対象者のADLが低いために自ら回答できないため、他者によるQOL評価で信頼性、妥当性が証明されている方法を採用した。
※6Functional Oral Intake Scale, FOIS・・・・・・・・Level.1「経口摂取なし」からLevel.7「正常(制限なく通常の食事ができる状態)」の7段階での評価方法。
※7扁桃体・・・・・・・・五感から刺激を受け取る脳の領域。五感からの刺激は摂食嚥下に重要である。
※8海馬・・・・・・・・記憶を司る脳の領域。記憶との照合により食べ物を認知することは摂食嚥下に重要である。
論文情報
掲載誌:Gerontology
論文タイトル:Higher Activity and Quality of Life Correlates with Swallowing Function
in Older Adults with Low Activities of Daily Living
DOI:https://doi.org/10.1159/000518495
研究者プロフィール
石井 美紀 (イシイ ミキ) Ishii Miki
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 大学院生
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション
中川 量晴 (ナカガワ カズハル) Nakagawa Kazuharu
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 助教
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション
戸原 玄 (トハラ ハルカ) Tohara Haruka
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野
石井 美紀 (イシイ ミキ)
中川 量晴 (ナカガワ カズハル)
E-mail: mickey.cookie05015[@]gmail.com, nakagerd[@]tmd.ac.jp
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