プレスリリース

「要介護高齢者の活動性、QOLおよび摂食嚥下機能の関連」【中川量晴 助教】

公開日:2021.11.02

「 要介護高齢者の活動性、QOLおよび摂食嚥下機能の関連 」
― 摂食嚥下機能向上の訓練の実施が困難な患者に対する新たなアプローチ ―

ポイント

  • 要介護高齢者を対象に、離床・外出等の活動性およびQOLと摂食嚥下機能との関連を調べました。
  • 介護状態に関わらず、離床・外出をしてQOLが高い者は摂食嚥下機能が良い傾向でした。
  • 活動性やQOL向上は要介護高齢者の摂食嚥下リハビリテーションに有効である可能性があります。
  • 機能向上の訓練の実施が困難な要介護高齢者に対するアプローチの選択肢の多様化に繋がります。
  東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授、中川量晴助教、石井美紀(大学院生)の研究グループは、65歳以上の要介護高齢者に対する摂食嚥下リハビリテーションとして、離床・外出を促し、QOL(Quality of Life, QOL)を高めるような心理的アプローチが有効である可能性を示しました。この研究成果は、国際科学誌Gerontologyに、2021年9月28日にオンライン版で発表されました。

研究の背景

  摂食嚥下リハビリテーション※1は、摂食嚥下関連筋を鍛える訓練により機能向上を目指します。しかし、日常生活動作(Activity Daily of Living, ADL)が自立していない要介護高齢者は、そもそも訓練の実施が困難である場合が多いため、そのような者に対するアプローチを考えることが臨床的に大変重要です。近年、生活の質を考慮した医療の研究が進んでいます。QOLと摂食嚥下機能の関係に着目すると、ADLが自立した高齢者のうち摂食嚥下機能が低下している者はQOLが低いという報告があります。つまり思ったように食事を摂れなくなるとQOLが低下するということです。一方で、訪問診療や訪問介護サービスを利用するADLが自立していない要介護高齢者を対象とした研究は少なく、QOLが摂食嚥下機能に関連するかは十分に検討されていませんでした。また、離床※2して活動したり、外出したりする人は生活の質が高い傾向にあります。離床や外出は身体機能と関連するだけでなく、日常生活における楽しみとなりQOLの向上につながるなどの心理的な面も持ち合わせています。しかし、離床や外出と摂食嚥下機能との関連に着目した研究はありませんでした。そこで本研究では、ADLが低く、摂食嚥下機能向上の訓練の実施が困難な要介護高齢者を対象に、離床や外出等の活動性およびQOLと摂食嚥下機能との関連を明らかにすることを目的としました。

研究成果の概要

  本研究は、質問紙調査形式で行われました。対象者は、首都圏在住で本学摂食嚥下リハビリテーション科から訪問診療を行ったADLが自立していない要介護高齢者です。年齢、性別、BMI (Body Mass Index)、生活場所(自宅または施設)、ADL、意識レベル(Glasgow Coma Scale, GCS) ※3、開眼機能、誤嚥性肺炎の既往および併存疾患(Charlson Comorbidity Index, CCI) ※4、服薬種類数、外出の有無、離床時間を調査しました。ADLは要介護認定の基準を参考に、Group1:介助がなければ歩行や立ち上がりができない人(要介護3相当)、Group2:介助があっても歩行や立ち上がりが困難な人(要介護4相当)、Group3:ほとんど寝たきりの人(要介護5相当)に分類しました。離床時間は、先行研究を参考に離床時間が0時間、0-4時間、4-6時間、6時間より長い、の4段階としました。QOLの評価にはQuality of Life Questionnaire for Dementia (short QOL-D) ※5を用いました。摂食嚥下機能はFunctional Oral Intake Scale(FOIS)※6を用いて評価し、FOIS Lv.1-3(経管栄養のみ、または併用)、4、5、6および7の5段階に分類しました。
  データの解析は、摂食嚥下機能(FOIS)と他の項目との関係をSpearmanの順位相関係数を用いて検討しました。さらに、交絡要因調整のため、目的変数を摂食嚥下機能(FOIS)、説明変数を年齢、性別、ADL、誤嚥性肺炎の既往の有無、CCI、外出の有無、離床時間およびshort QOL-Dとして順序ロジスティック回帰分析を行い、摂食嚥下機能に関連する要因を調べました。
  解析の結果、ADLや併存疾患によらず、①離床時間が長い、②外出をする、③QOLが高い場合にはFOISのスコアが有意に高く、摂食嚥下機能が良い傾向であることが分かりました。離床は体幹機能の維持や、意識レベルの向上、食欲減退防止に関連することが報告されています。長時間の離床は摂食嚥下に有利な安定した姿勢保持につながることに加え、摂食嚥下関連筋群の筋力維持や食べる意欲にも関連していると考えられます。また、加齢による活動障害由来のストレスでQOLが低下し、扁桃体※7や海馬※8に影響したり、認知機能低下が生じたりする可能性が知られています。よって、QOLが高く、慢性的なストレスから解放されたことで脳機能が健全に保たれたことが摂食嚥下機能と関連したと推測されます。外出については、好きな場所へ行く、自発的に社会と繋がることで精神的な健康の改善や認知機能低下防止が期待できます。さらに外出を契機に長時間楽しく離床できるという効果もあります。このように外出によりQOL向上と離床を促すことが摂食嚥下機能と関連したと考えられます。
 

研究成果の意義

  これまでに報告されているQOLと摂食嚥下機能についての研究は、ADLが自立した者を対象としたものが多数であり、いずれも、思ったように食事を摂れなくなるとQOLが低下すると論じていました。ADLが自立していない要介護高齢者を対象とした研究は少なく、離床や外出等の活動性と摂食嚥下機能の関連を調査したのは本研究が初めてです。訓練の実施が困難な要介護高齢者の摂食嚥下リハビリテーションに関して、これまでは科学的根拠をもって摂食嚥下機能にアプローチする手段がありませんでした。本研究で、活動性やQOLを高めるという周囲からの働きかけによる心理的アプローチが摂食嚥下機能に関連する可能性が示唆されました。この知見は、摂食嚥下機能向上の訓練の実施が困難な要介護高齢者に対し、訓練指導だけでなく日常の過ごし方を考慮したアプローチを行うなど、摂食嚥下リハビリテーションの選択肢の多様化に繋がります。今後は、摂食嚥下機能の維持につながる具体的な離床時間の検討や、活動性やQOLと摂食嚥下機能の因果関係を検証する予定です。

用語解説

※1摂食嚥下リハビリテーション・・・・・・・・食事を噛んだり飲み込んだりするために必要な筋肉を鍛えたり、食事の姿勢の調整や、食べ方の指導を行うこと。
※2離床・・・・・・・・ベッドから離れて過ごすこと。
※3Glasgow Coma Scale, GCS・・・・・・・・意識レベルを評価するスケールで、開眼機能、運動機能、言語機能から成る。今回、意識があってもADLが低く動いたり喋ったりできない人が多いため、開眼機能のみを記録した。
※4 Charlson Comorbidity Index, CCI・・・・・・・・複数の重病をもつ患者の推定死亡率をスコア化する評価方法。
※5 Quality of Life Questionnaire for Dementia, short QOL-D・・・・・・・・アンケート形式の認知症患者のQOL評価方法。対象者の家族または介助者に回答してもらう。今回、対象者のADLが低いために自ら回答できないため、他者によるQOL評価で信頼性、妥当性が証明されている方法を採用した。
※6Functional Oral Intake Scale, FOIS・・・・・・・・Level.1「経口摂取なし」からLevel.7「正常(制限なく通常の食事ができる状態)」の7段階での評価方法。
※7扁桃体・・・・・・・・五感から刺激を受け取る脳の領域。五感からの刺激は摂食嚥下に重要である。
※8海馬・・・・・・・・記憶を司る脳の領域。記憶との照合により食べ物を認知することは摂食嚥下に重要である。
 

論文情報

掲載誌Gerontology

論文タイトル:Higher Activity and Quality of Life Correlates with Swallowing Function 
in Older Adults with Low Activities of Daily Living

DOIhttps://doi.org/10.1159/000518495

 

研究者プロフィール

石井 美紀 (イシイ ミキ) Ishii Miki
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 大学院生
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション

中川 量晴 (ナカガワ カズハル) Nakagawa Kazuharu
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 助教
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション

戸原 玄 (トハラ ハルカ) Tohara Haruka
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授
・研究領域
摂食嚥下リハビリテーション

 

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
摂食嚥下リハビリテーション学分野
石井 美紀 (イシイ ミキ)
中川 量晴 (ナカガワ カズハル) 
E-mail: mickey.cookie05015[@]gmail.com, nakagerd[@]tmd.ac.jp

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
 

プレス通知資料PDF

  • 「要介護高齢者の活動性、QOLおよび摂食嚥下機能の関連」