「血液脳関門通過を可能にしたヘテロ核酸医薬の開発」【横田隆徳 教授】
「 血液脳関門通過を可能にしたヘテロ核酸医薬の開発 」
― アルツハイマー病などの神経難病の根本治療に大きな進歩 ―
研究成果のポイント
- 研究グループがこれまでに独自に開発した核酸医薬である「DNA/RNA ヘテロ 2 本鎖核酸 (HDO)」を更に発展させ、従来の核酸医薬では効率よく通過できなかった血液脳関門※1の突破を可能にした、革新的な核酸医薬である「血液脳関門(BBB)通過型ヘテロ 2 本鎖核酸」を開発しました。
- 脊髄性筋萎縮症に対して核酸医薬が承認され、神経難病の根本治療が可能となりつつありますが、核酸医薬品は侵襲性のある髄腔内への直接投与を一生涯に渡って実施する必要があり、患者にとっては負担の少ない投与法が強く求められています。
- 開発した血液脳関門通過型ヘテロ 2 本鎖核酸は、負担の少ない全身投与法により中枢神経(脳および脊髄)で様々なRNA(メッセンジャーRNA、マイクロRNAなど)などの遺伝子に対して発現を抑制します。皮下注射などの自己注射が可能となって、患者にとって優しい新規の医薬品開発の可能性が出てきました。
概要
研究背景
そこで本研究グループは、髄腔内投与しなくても、通常の静脈内投与や皮下投与で脳や脊髄の遺伝子制御のできるヘテロ2本鎖核酸の開発に着手しました。
研究の概要
一方で従来の1 本鎖アンチセンス核酸では単回投与・複数回投与のいずれでも中枢神経での遺伝子発現抑制効果が見られませんでした。また1 本鎖アンチセンス核酸にコレステロールを直接結合した核酸でも比較しましたが、効果が弱く、高い毒性が認められました。
上記の血液脳関門通過型ヘテロ 2 本鎖核酸を静脈内投与することによって中枢神経への送達が確認され、さまざまな標的RNAに対して中枢神経での遺伝子発現抑制効果が確認されました(図F)。また、さらに詳細に神経細胞・各種グリア細胞のそれぞれの細胞での遺伝子発現抑制効果を検討したところ、特に神経細胞やミクログリアで強い遺伝子発現抑制効果が観察されました。図Eに示すのはin vivo 共焦点レーザー顕微鏡を用いた実験で得られたライブイメージで、血液脳関門通過型ヘテロ2本鎖核酸でのみ明らかな脳内への移行が観察されました。
静脈内投与に加えて、皮下投与でも中枢神経での遺伝子発現抑制効果が観察され、患者が毎回医療機関に来なくても皮下投与による自己注射が可能となって、患者の利便性にも大きな進歩となる可能性があります。
研究成果の意義
用語解説
※1血液脳関門(Blood-brain barrier; BBB)
脳実質組織とそこに酸素と栄養を供給する血管との間には、血液脳関門 (BBB) と呼ばれるバリアが存在する。BBBは解剖学的には,脳毛細血管内皮細胞,アストロサイトおよびペリサイトの3種類の細胞が機能的に一体となって構築している。BBBの存在により脳組織を外因物質から保護している。多くのトランスポーターによって、栄養素(グルコース、アミノ酸など)は選択的に血液脳関門を透過する。一方で水溶性の高い物質あるいはタンパク質などの大きな分子はこの関門を透過し難く、核酸医薬自体は通過しないことがよく知られている。脳内に薬剤を送達させるには、この関門の透過することが必須である。
※2アンチセンス核酸
細胞内に存在する RNA等を標的とする核酸医薬で、1本のDNA 鎖を基本構造とし様々な化学修飾が施されている。既存の低分子医薬や抗体医薬では標的にできない細胞内の RNA を標的として結合することが可能であり、その結果標的RNAから翻訳される疾患に係わるタンパク質量を一過性に低下させ機能を抑制したり、発現上昇させたりと、これまで治療法のなかった疾患の治療薬の主流となりつつある。主な国内での承認薬として脊髄性筋萎縮症に対するヌシネルセン、家族性ポリアミロイドニューロパチーに対するイノテルセンやデュシャンヌ型筋ジストロフィーに対するビトラルセンなどがあり、現在も複数の臨床治験が進行中である。
※3脂質送達分子(リガンド)
核酸自体は極性が高く、非常に親水性が高いことが知られています。その為に、血液脳関門を通過しないと考えられております。神経細胞のみならず、細胞は多くの脂質で構成されており、特に細胞膜で重要な構成成分です。そこでわれわれは核酸に疎水性であり、細胞膜の構成成分である脂質を送達分子としてつけることにより、通過が可能となると考えました。10以上の脂質リガンドを試したところコレステロールが圧倒的に血液脳関門性を示しました。
論文情報
掲載誌:Nature Biotechnology
論文タイトル:Systemically administered DNA/RNA heteroduplex oligonucleotides achieve blood to brain delivery and efficient gene knockdown in the CNS
DOI:http://dx.doi.org/10.1038/s41587-021-00972-x
研究者プロフィール
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
脳神経病態学分野(脳神経内科) 教授
・研究領域:神経内科学、核酸医薬
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
脳神経病態学分野(脳神経内科) プロジェクト准教授
・研究領域:神経内科学、核酸医薬
問い合わせ先
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
脳神経病態学分野 横田 隆徳 (ヨコタ タカノリ)
TEL:03-5803-5234 FAX:03-5803-0169
E-mail:tak-yokota.nuro@tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail:kouhou.adm@tmd.ac.jp
<AMED事業に関すること>
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
創薬事業部 医薬品研究開発課 先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業担当
Tel: 03-6870-2219
E-mail:sentan-bio@amed.go.jp