「MRTF-Aはマクロファージ機能を制御して動脈硬化形成に関わる」【木村彰方 教授】
ポイント
● | MRTF-A遺伝子(MKL1)の発現亢進をもたらす遺伝子多型*1は冠動脈疾患の危険因子です。 |
● | ヒトの動脈プラーク(動脈硬化巣)*2に浸潤したマクロファージ*3ではMRTF-Aの発現が亢進しています。 |
● | マクロファージ特異的MRTF-Aの高発現は、動脈硬化進行を増悪させ、動脈硬化巣におけるマクロファージの集積を亢進させます。 |
● | MRTF-Aの高発現は、マクロファージの細胞増殖を亢進する一方、アポトーシスを抑制し、さらにCDKIの発現を抑制します。 |
● | MRTF-Aを標的とした動脈硬化症の新たな治療戦略の開発が期待されます。 |
東京医科歯科大学の難治疾患研究所分子病態分野(木村彰方教授、安健博助教ら)の研究グループは、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子病理検査学分野(副島友莉恵助教、沢辺元司教授)、京都大学医学部循環器内科(中川靖章助教)、信州大学医学部循環器内科(桑原宏一郎教授)との共同研究によって、マクロファージにおけるMRTF-Aの発現増強が、動脈硬化症の病態形成に寄与することをつきとめました。この研究は文部科学省科学研究費補助金や学長裁量経費東京医科歯科大学次世代研究者育成ユニット助成金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際心臓研究会の学会誌であるJournal of Molecular and Cellular Cardiologyに、2019年5月22日にオンライン版で発表されました。
研究の背景
東京医科歯科大学難治疾患研究所分子病態分野では、網羅的マイクロサテライト関連解析*4によって、新たな冠動脈感受性遺伝子座を同定し、その領域内にあるMRTF-A遺伝子(MKL1)の発現制御領域の多型が冠動脈疾患と関連すること、当該多型はMKL1の高発現をもたらすことを、以前明らかにしました。これとは別に、網羅的ゲノム解析によって、冠動脈疾患関連遺伝子座が第9染色体上にマップされていますが、そこにはCDKI(cyclin-dependent kinase inhibitor)遺伝子群(CDKN2A, CDKN2B)が存在します。一方、我々は以前に、マクロファージ特異的にヒトMKL1遺伝子を高発現するマウス(MRTF-Atg/+)を樹立し、これが炎症性腸疾患(IBD)様病態(大腸短縮、直腸脱、陰窩炎)を自然発症すること、IBDの実験モデルであるDSS誘導性腸炎への感受性が高いこと、腸管マクロファージの抗炎症機能が低下していることを報告しています。また、IBD患者では冠動脈疾患のリスクが高いことや、動脈硬化巣局所におけるマクロファージの増殖・生存機能が動脈硬化の病態形成に関与することも知られています。そこで、マクロファージにおけるMRTF-Aの発現亢進がいかなる分子機序で動脈硬化症の病態形成に関わるかを、本研究では検討しました。
研究成果の概要
本研究グループは、まず、MRTF-Aが、ヒト動脈硬化プラークに浸潤したマクロファージに強く発現していることを見出しました。ついで、動脈硬化モデル動物であるApoEノックアウトマウス(ApoE-KO)*5にMRTF-Atg/+マウスをかけ合わせて、通常食餌環境下における動脈硬化症の病態を検討したところ、ApoE-KOマウスに比して、ApoE-KO/MRTF-Atg/+マウスでは動脈硬化が重症化し、また動脈硬化巣により多くのマクロファージが集積していることが見出されました。そして、MRTF-Aの高発現は、マクロファージの増殖亢進とアポトーシスの抑制をもたらすこと、さらにはCDKIの発現抑制をもたらすことを、細胞およびマウス個体レベルで明らかにしました。以上の結果から、MRTF-Aは動脈硬化性マクロファージの機能を制御することで、動脈硬化症の発症・進展に寄与すると考えられます。
研究成果の意義
遺伝学的解析によってMRTF-A遺伝子(MKL1)が動脈硬化症への疾患感受性に関与することが示唆されていましたが、その分子機序は不明でした。今回、動脈硬化モデルマウスを用いた生体レベルでの詳細な解析から、MRTF-Aがマクロファージの増殖・生存機能を制御することで動脈硬化巣におけるマクロファージが蓄積し、その結果として動脈硬化症の病態形成に至ることが明らかになりました。大変興味深いことに、MRTF-Aの高発現は別の動脈硬化関連遺伝子であるCDKIの発現抑制をもたらすことから、今後、MRTF-Aに着目した動脈硬化症の新たな治療法の開発に繋がると考えられます。
用語の説明
*2動脈プラーク
動脈硬化が進むと、血管の壁が厚くなり、内面に盛り上がって内腔が狭くなりますが。このような盛り上がりを動脈プラークと呼びますが、脂質やマクロファージの死骸と増殖した血管平滑筋によって形成されています。プラークは時に崩れ(破綻し)、そこに血栓が形成されると、血栓によって血管が詰まったり、血栓が遊離して末梢の動脈に詰まったりします。心臓の血管(冠動脈)のプラークが破綻すると狭心症や心筋梗塞の原因となりますし、頸動脈のプラークが破綻すると脳梗塞の原因になります。
*3マクロファージ
白血球の一種で、病原体などの異物を取り込んで処理する機能をもつ細胞で、種々の生理活性物質を分泌し、免疫機能を担うとともに、組織修復や炎症にも関わります。血液中のマクロファージが脂質の一種である悪玉コレステロール(酸化コレステロール)を取り込んで活性化し、泡沫細胞となって膨れ上がることが動脈硬化の最初のステップです。
*4網羅的マイクロサテライト関連解析
ヒトゲノム中にはCACACA・・・などの単純な繰り返し配列が存在し、この繰り返し数が個人ごとに異なっていることが知られています。これをマイクロサテライト配列とよびますが、ゲノム中に散在するマイクロサテライト配列のパターンを患者さんと健常人で比較することで、病気と関連する遺伝子が存在する領域(遺伝子座)を決めることが出来ます。私達は、約19,000か所のマイクロサテライトを調べることで、日本人における冠動脈疾患の原因遺伝子座を6か所同定しましたが、そのうちの1か所にMKL1遺伝子が存在していました。
*5 ApoEノックアウトマウス
水に溶けない脂質が血液中に存在することが出来るのは、リポタンパクと呼ばれるタンパクと結合した複合体となっているからですが、ApoEはリポタンパクの一種です。遺伝子操作によってApoEの遺伝子を欠損させたマウス(ApoEノックアウトマウス)は高脂肪食を与えると早期に動脈硬化症を発症することから、動脈硬化症の成因や治療法を研究するモデル動物として広く使われています。
動脈硬化が進むと、血管の壁が厚くなり、内面に盛り上がって内腔が狭くなりますが。このような盛り上がりを動脈プラークと呼びますが、脂質やマクロファージの死骸と増殖した血管平滑筋によって形成されています。プラークは時に崩れ(破綻し)、そこに血栓が形成されると、血栓によって血管が詰まったり、血栓が遊離して末梢の動脈に詰まったりします。心臓の血管(冠動脈)のプラークが破綻すると狭心症や心筋梗塞の原因となりますし、頸動脈のプラークが破綻すると脳梗塞の原因になります。
*3マクロファージ
白血球の一種で、病原体などの異物を取り込んで処理する機能をもつ細胞で、種々の生理活性物質を分泌し、免疫機能を担うとともに、組織修復や炎症にも関わります。血液中のマクロファージが脂質の一種である悪玉コレステロール(酸化コレステロール)を取り込んで活性化し、泡沫細胞となって膨れ上がることが動脈硬化の最初のステップです。
*4網羅的マイクロサテライト関連解析
ヒトゲノム中にはCACACA・・・などの単純な繰り返し配列が存在し、この繰り返し数が個人ごとに異なっていることが知られています。これをマイクロサテライト配列とよびますが、ゲノム中に散在するマイクロサテライト配列のパターンを患者さんと健常人で比較することで、病気と関連する遺伝子が存在する領域(遺伝子座)を決めることが出来ます。私達は、約19,000か所のマイクロサテライトを調べることで、日本人における冠動脈疾患の原因遺伝子座を6か所同定しましたが、そのうちの1か所にMKL1遺伝子が存在していました。
*5 ApoEノックアウトマウス
水に溶けない脂質が血液中に存在することが出来るのは、リポタンパクと呼ばれるタンパクと結合した複合体となっているからですが、ApoEはリポタンパクの一種です。遺伝子操作によってApoEの遺伝子を欠損させたマウス(ApoEノックアウトマウス)は高脂肪食を与えると早期に動脈硬化症を発症することから、動脈硬化症の成因や治療法を研究するモデル動物として広く使われています。
論文情報
掲載誌: Journal of Molecular and Cellular Cardiology
論文タイトル: MRTF-A regulates proliferation and survival properties of pro-atherogenic macrophages
論文タイトル: MRTF-A regulates proliferation and survival properties of pro-atherogenic macrophages
研究者プロフィール
安健博(アン ジェンボウ) AN Jianbo, PhD
東京医科歯科大学
難治疾患研究所 分子病態分野 助教
(現所属: 秋田大学 大学院医学系研究科分子機能学・代謝機能学講座助教)
・研究領域
人類遺伝学、分子免疫学
炎症性疾患における免疫細胞の役割を解明し、あらたな治療法、予防法の開発に貢献出来たらと思います。
東京医科歯科大学
難治疾患研究所 分子病態分野 助教
(現所属: 秋田大学 大学院医学系研究科分子機能学・代謝機能学講座助教)
・研究領域
人類遺伝学、分子免疫学
炎症性疾患における免疫細胞の役割を解明し、あらたな治療法、予防法の開発に貢献出来たらと思います。
木村彰方(キムラ アキノリ) KIMURA Akinori, MD, PhD
東京医科歯科大学
特命副学長(研究・評価担当)
統合研究機構・リサーチコアセンター長
・研究領域
人類遺伝学、免疫遺伝学、ゲノム医科学
難治疾患の病因・病態形成機序を究明し、あらたな診断、治療、予防法の開発につなげたいと思います
東京医科歯科大学
特命副学長(研究・評価担当)
統合研究機構・リサーチコアセンター長
・研究領域
人類遺伝学、免疫遺伝学、ゲノム医科学
難治疾患の病因・病態形成機序を究明し、あらたな診断、治療、予防法の開発につなげたいと思います
問い合わせ先
研究に関すること
東京医科歯科大学大学 統合研究機構
リサーチコアセンター 氏名 木村 彰方(キムラ アキノリ)
TEL:03-5803-5972 FAX:03-5803-0234
E-mail: akitis@mri.tmd.ac.jp
リサーチコアセンター 氏名 木村 彰方(キムラ アキノリ)
TEL:03-5803-5972 FAX:03-5803-0234
E-mail: akitis@mri.tmd.ac.jp
報道に関すること
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail: kouhou.adm@tmd.ac.jp
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E-mail: kouhou.adm@tmd.ac.jp