「肺の病気COPD(たばこ病)の発症に好塩基球が深く関与していることを解明」【烏山一 教授】
― COPDの新たな予防法・治療薬の開発につながる期待 ―
ポイント
● | COPD(慢性閉塞性肺疾患、通称“たばこ病”)は全世界で約2億人が罹患し、死亡原因第4位の病気です。 |
● | 動物モデルの解析から、COPDにおける肺傷害(肺気腫形成)を引き起こす原因細胞は好塩基球であることが明らかになりました。 |
● | 根本的治療法のなかったCOPDに対する新たな予防法・治療薬の開発につながる研究成果です。 |
東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科・免疫アレルギー学分野の烏山 一教授(副学長・理事)と統合呼吸器病学分野の柴田 翔大学院生、宮崎 泰成教授の研究グループは、COPDの動物モデルを用いて、COPDに特徴的な肺傷害(肺気腫)形成に希少血球細胞のひとつである好塩基球が重要な役割を果たしていることを突き止めました。肺に浸潤してきた単球*1と呼ばれる細胞が、好塩基球の分泌する物質(IL-4*2)の作用によって間質マクロファージ*3に変化し、その間質マクロファージにより産生される蛋白分解酵素(MMP-12*4)が肺組織を傷つけることで、肺気腫が形成されることを明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとで行われ、その研究成果は国際科学誌 Proceedings of National Academy of Sciences USA(米国科学アカデミー紀要)に、2018年12月3日午後3時(米国東部時間)にオンライン版で発表されました。
研究の背景
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)は全世界で1億7450万人が罹患しており、慢性気管支炎と進行性の肺気腫(図1)の合併を特徴とします。たばこ煙などの有害物質を長期に吸入することで発症し、禁煙後も進行して咳、痰、呼吸困難を引き起こします。世界における死亡原因第4位の疾患であり、世界保健機構は2030年には第3位になると予想しています。同じく気道閉塞を特徴とする気管支喘息に関しては病態解明が進み、免疫グロブリンE(IgE)やサイトカインを標的とした抗体医薬が開発されていますがCOPDの病態、特に肺気腫形成に関しては発症メカニズムの解析ならびに治療法開発が遅れていました。
好塩基球は末梢血白血球中の1%未満しか存在しない稀少な細胞集団です。最近の研究により、好塩基球はアレルギー炎症、寄生虫感染防御などに重要な役割を果たしていることが明らかとなってきました。しかしながら、COPDの病態において好塩基球がどのような役割を果たしているのかは分かっていませんでした。
好塩基球は末梢血白血球中の1%未満しか存在しない稀少な細胞集団です。最近の研究により、好塩基球はアレルギー炎症、寄生虫感染防御などに重要な役割を果たしていることが明らかとなってきました。しかしながら、COPDの病態において好塩基球がどのような役割を果たしているのかは分かっていませんでした。
研究成果の概要
実験動物であるマウスの鼻に酵素の一種であるエラスターゼを注入すると、ヒトのCOPDに類似した肺気腫を引き起こすことができます(図2)。この場合、血中を循環している様々な白血球がまず肺に侵入してきて炎症を誘導します。研究グループは白血球の中でも特に好塩基球に注目しました。好塩基球は肺に入ってくる白血球の1%にも満たないマイナーな細胞ですが、驚いたことに好塩基球を生体内から除去したマウスでは肺気腫が起きませんでした(図3)。すなわち、好塩基球が肺気腫形成に大きく寄与していることが判明しました。
好塩基球は様々な物質を分泌することが知られています。そのうちのひとつIL-4と呼ばれるサイトカインを産生できないマウスを調べたところ、肺気腫が起こりませんでした(図4)。つまり、好塩基球の産生するIL-4が肺気腫形成に深く関わっていることが分かりました。
次に好塩基球由来のIL-4がどのようにして肺気腫形成に寄与しているのかを調べました。その結果、血中から肺に侵入してきた白血球の一種である単球が好塩基球由来のIL-4の作用を受けて間質マクロファージと呼ばれる細胞に変身し、その間質マクロファージが産生する蛋白分解酵素(MMP-12)が肺組織を傷つけることで肺気腫が形成されることが明らかとなりました(図5)。
好塩基球は様々な物質を分泌することが知られています。そのうちのひとつIL-4と呼ばれるサイトカインを産生できないマウスを調べたところ、肺気腫が起こりませんでした(図4)。つまり、好塩基球の産生するIL-4が肺気腫形成に深く関わっていることが分かりました。
次に好塩基球由来のIL-4がどのようにして肺気腫形成に寄与しているのかを調べました。その結果、血中から肺に侵入してきた白血球の一種である単球が好塩基球由来のIL-4の作用を受けて間質マクロファージと呼ばれる細胞に変身し、その間質マクロファージが産生する蛋白分解酵素(MMP-12)が肺組織を傷つけることで肺気腫が形成されることが明らかとなりました(図5)。
研究成果の意義
本研究により、これまで不明であったCOPD初期段階における肺気腫形成のプロセスが、細胞レベルならびに分子レベルで明らかになりました。この結果を踏まえてヒトのCOPD形成過程を詳細に解析することで、これまで根本的治療法のなかったCOPDに対する新たな予防法・治療薬の開発が進むものと期待されます。
用語の解説
*1. 単球
末梢血に含まれる白血球の一種。単核で顆粒を持たない。血管内から組織に浸潤するとマクロファージや樹状細胞に分化することができる。
*2. IL-4
サイトカインの一種で、Th2細胞、好塩基球、マスト細胞などから分泌される。アレルギー炎症に関わることが知られており、IL-4の受容体抗体がアトピー性皮膚炎、気管支喘息の治療薬として上市されている。
*3. 間質マクロファージ
肺に存在するマクロファージの一種。肺胞マクロファージが肺胞腔内に存在するのに対して、間質内に存在する。末梢血単球由来で、炎症に伴って肺の間質に浸潤する。
*4. MMP-12
蛋白分解酵素の一種で、マクロファージエラスターゼの別名を持つ。細胞外基質であるエラスチンを分解し、COPD、関節炎、動脈瘤、動脈硬化の病態に関わっていることが知られている。
末梢血に含まれる白血球の一種。単核で顆粒を持たない。血管内から組織に浸潤するとマクロファージや樹状細胞に分化することができる。
*2. IL-4
サイトカインの一種で、Th2細胞、好塩基球、マスト細胞などから分泌される。アレルギー炎症に関わることが知られており、IL-4の受容体抗体がアトピー性皮膚炎、気管支喘息の治療薬として上市されている。
*3. 間質マクロファージ
肺に存在するマクロファージの一種。肺胞マクロファージが肺胞腔内に存在するのに対して、間質内に存在する。末梢血単球由来で、炎症に伴って肺の間質に浸潤する。
*4. MMP-12
蛋白分解酵素の一種で、マクロファージエラスターゼの別名を持つ。細胞外基質であるエラスチンを分解し、COPD、関節炎、動脈瘤、動脈硬化の病態に関わっていることが知られている。
論文情報
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
論文タイトル:Basophils trigger emphysema development in a murine model of COPD through IL-4-mediated generation of MMP-12-producing macrophages
論文タイトル:Basophils trigger emphysema development in a murine model of COPD through IL-4-mediated generation of MMP-12-producing macrophages
問い合わせ先
研究に関すること
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
免疫アレルギー学分野 烏山 一(カラスヤマ ハジメ)
TEL:03-5803-5162 FAX:03-3814-7172
E-mail:karasuyama.mbch@tmd.ac.jp
免疫アレルギー学分野 烏山 一(カラスヤマ ハジメ)
TEL:03-5803-5162 FAX:03-3814-7172
E-mail:karasuyama.mbch@tmd.ac.jp
報道に関すること
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail:kouhou.adm@tmd.ac.jp
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail:kouhou.adm@tmd.ac.jp