腎臓内科学分野・文部科学省卓越研究員の森雄太郎テニュアトラック助教が日本医師会医学研究奨励賞を受賞しました

2023年11月1日に開催された日本医師会設立76周年記念式典並びに医学大会において、大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野・文部科学省卓越研究員の森雄太郎テニュアトラック助教が、日本医師会医学研究奨励賞(Medical Research Encouragement Prize of The Japan Medical Association)を受賞しました。

賞の概要

この賞は、日本医師会会員で、医学上将来性に富む研究を行っている者に授与される賞です。日本医学会分科会長、大学院医学系研究科長または大学医学部長・医科大学長、大学附属病院長(本院)、関係機関長、都道府県医師会長より推薦を受けた者の中から選考されます。森テニュアトラック助教は、本学大学院医歯学総合研究科長からの推薦を受けておりました。

研究の概要

図:行っている研究の概略

慢性腎臓病(CKD)は、国⺠の 8 人に 1 人が罹患している、致死性疾患です。腎機能が廃絶した場合に必要な維持透析療法は、身体的負担や頻回の通院から患者さんの生活の質を悪化させ、必要な医療費は年間1兆6千億円に上っています。CKDは現在、医療と経済に跨る問題となっています。
森テニュアトラック助教らは、腎臓の尿細管上皮細胞が原尿中の脂肪酸が結合したアルブミン分子を取り込むことで引き起こされる細胞老化が、糖尿病性腎臓病を中心としたCKDの進行の一つの原因であることを明らかにしました(Cell Metabolism 33: 1042-1061, 2021)。この研究の過程で、腎癌などの手術のために摘出されたヒトの腎臓の癌ではない部分から、尿細管上皮細胞を培養して三次元に展開することで、ヒトに由来する臓器様構造物・尿細管オルガノイドの開発に成功しました(上記論文およびNano Letters 21: 5850-5858, 2021)。現在、森テニュアトラック助教らは、本学において腎泌尿器科学分野との共同研究のもと、腎癌などの病気のために腎摘出術を受ける患者さんから同意を得た上で、摘出腎を培養し、オルガノイドのライブラリを作製する研究を行っています。腎摘出術を受ける患者さんにはCKDを合併している方が含まれ、患者さん由来のオルガノイドはその患者さんの腎臓の状態をダイレクトに反映します。受賞に至った本研究では、健常な腎臓由来のオルガノイドと、CKDの腎臓由来のオルガノイドを比較することで、特に病的な細胞がどのような性質をもつか、どのような動態で形成されるのかを、細胞老化を手掛かりに追求しています。
CKDは、森テニュアトラック助教らが明らかにしてきたように尿細管上皮細胞の細胞老化が関与していることが判明しています。CKDの病態解明のために、iPS細胞を用いて腎臓オルガノイドを作る試みも行われていますが、現状では胎児期の腎臓の再現にとどまっていることから、細胞老化と加齢を反映した病態モデルの作製に課題が残っていました。本研究では、この課題を患者由来の初代培養細胞を用いてオルガノイドを作製することで克服し、健常な腎臓由来のオルガノイドとの比較により病態に迫る点に独創性があります。本研究の進展により、CKDの病態の中で主要な役割を果たす細胞の性質が同定され、それに基づいて新規治療法が開発されることが期待されます。

研究者プロフィール

森 雄太郎(モリ ユウタロウ)
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
腎臓内科学分野 テニュアトラック助教

詳しくはResearchmapをご覧下さい。
https://researchmap.jp/yutaro_mori

関連リンク

日本医師会
Japan Medical Association
https://www.med.or.jp

日本医学会e-News 医学賞・医学研究奨励賞の決定
https://jams.med.or.jp/e-news/jams_enews_no008.pdf

研究者インタビュー 腎臓の細胞から3次元オルガノイド培養に成功 産学連携促すプラットフォーム化目指す
https://tmdu-oi.jp/promoter/41%E3%80%80%E6%A3%AE%E9%9B%84%E5%A4%AA%E9%83%8E%E5%85%88%E7%94%9F