「小児の難治性腫瘍 神経芽腫におけるDNA損傷修復機構の異常を発見し、PARP阻害剤オラパリブによる治療の可能性を示しました。これを受けて難治性小児悪性固形腫瘍患者を対象にオラパリブ錠の安全性を確認する第Ⅰ相試験を世界で初めて実施します。」【高木正稔 准教授】

「小児の難治性腫瘍 神経芽腫におけるDNA損傷修復機構の異常を発見し、PARP阻害剤オラパリブによる治療の可能性を示しました。これを受けて難治性小児悪性固形腫瘍患者を対象にオラパリブ錠の安全性を確認する第Ⅰ相試験を世界で初めて実施します。」【高木正稔 准教授】

高木 正稔(タカギ マサトシ) 准教授 大学院医歯学総合研究科 茨城県小児周産期地域医療学講座(左)
小池 竜司(コイケ リュウジ)センター長・教授 統合研究機構 医療イノベーション推進センター(右)

ポイント

神経芽腫のゲノム解析によりDNA損傷修復応答機構にかかわる遺伝子が約半数の例で異常があることが明らかになりました。
DNA損傷修復応答機構を標的としたPARP阻害剤オラパリブの有用性を強く示唆しました。
難治性小児悪性固形腫瘍患者を対象としてPARP阻害剤オラパリブ錠の安全性を確認する医師主導第Ⅰ相試験を世界で初めて行います。
 東京医科歯科大学大学院茨城県小児周産期地域医療学講座の高木正稔准教授の研究グループは、東京大学大学院医学系研究科生殖・発達・加齢医学専攻小児医学講座の滝田順子准教授らとの共同研究で、神経芽腫におけるDNA損傷修復応答機構の異常が高頻度に見られ、PARP阻害剤オラパリブによる治療標的となることを腫瘍の遺伝子解析と培養細胞や動物モデルを用いた研究で示しました。この研究は、文部科学省科学研究費補助金などの支援により行われたもので、研究成果は、国際科学誌Journal of the National Cancer Instituteに、2017年11月17日にオンライン版で発表されました。さらにこの研究成果に基づいて、PARP阻害剤オラパリブが難治性小児悪性腫瘍の治療薬になる可能性を検証するため、東京医科歯科大学では世界で初めて難治性小児悪性腫瘍を対象としてその安全性を確認する医師主導治験として第I相試験を国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 臨床研究・治験推進研究事業の支援により行います。

研究の背景

 神経芽腫は白血病、脳腫瘍に次いで多い小児がんで、本邦で年間200人程度発症する疾患です。その3~4割が、自然治癒や長期生存が期待できる低-中間リスク群ですが、残りの約6割を生命予後が不良な高リスク群が占めます。高リスク群に対しては、化学療法/手術/放射線照射/大量化学療法を組み合わせた集学的な治療が行われますが3~5年無増悪生存割合30~50%と予後不良な腫瘍であり、新規治療法の開発が強く望まれています。

研究成果の概要

 神経芽腫のゲノム解析により、神経芽腫の約半数の症例でATMを始めとしたDNA損傷修復応答にかかわる遺伝子の異常があることを明らかにしました。DNA損傷修復応答にかかわる分子の中でも、相同組み換え修復というDNA修復機構にかかわる分子に異常があるとPARP阻害剤が有効なことが知られています。代表的な例がBRCA1/2遺伝子変異で、PARP阻害剤であるオラパリブが欧米ではBRCA遺伝子変異陽性の卵巣癌の治療薬として認められています。我々の研究から。DNA損傷修復応答にかかわる遺伝子の異常のある神経芽腫もオラパリブに感受性が高く、オラパリブが神経芽腫の治療薬の候補となることが明らかとなりました(図)。そこでPARP阻害剤オラパリブが難治性小児悪性腫瘍の治療薬になる可能性を検証するため、世界で初めて難治性小児悪性腫瘍を対象としてその安全性を確認する医師主導治験として第I相試験を実施します。

研究成果の意義

 小児においてオラパリブの安全性を確認し、有用性を検討するための第II相治験実施へとつなげ、小児難治性固形腫瘍の新規治療法につながることが予想されます。

問い合わせ先

研究に関すること

東京医科歯科大学
茨城県小児周産期地域医療学講座分野 准教授 
高木 正稔(タカギ マサトシ)
TEL:03-5803-4705 FAX:03-5803-4705
E-mail:m.takagi.ped@ tmd.ac.jp

報道に関すること

東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail:kouhou.adm@tmd.ac.jp

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