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研究目標

1) 口腔内未分化間葉系幹細胞の特性および分化メカニズム・歯髄再生へのメルクマール
①歯髄および歯肉未分化間葉細胞の特性
 歯髄組織は神経堤由来の間葉系組織であり,未分化間葉系幹細胞である歯髄幹細胞の存在が報告されている.歯髄幹細胞を効率的に分離するとともに,その特性を解明することにより,歯髄あるいは骨組織の再生を目指す.また,歯髄幹細胞を分離する方法と同様の方法を用いることにより,歯肉組織からも歯肉幹細胞を分離することが可能である.抜去歯が得られない場合における,有力な代替幹細胞としての可能性について検討する.
②3D-スフェロイド培養による歯髄幹細胞分化
 歯髄および歯肉幹細胞を3D-スフェロイド培養を行うことで,インテグリンシグナルを介し,硬組織マーカーの発現が誘導され,硬組織形成細胞への分化が促進される.3D-スフェロイド培養を行った歯髄あるいは歯肉幹細胞を用いたスキャフォールドフリー組織再生の臨床応用への展開が期待される.
③象牙質表面のEDTA処理による賦活化
 根管洗浄剤として広く使用されている次亜塩素酸ナトリウム溶液は強力かつ非特異的な殺菌作用を有するが,象牙質表面の変性を引き起こす.次亜塩素酸ナトリウム溶液により変性した象牙質表面を,種々の濃度のEDTAにて処理することにより,表面性状が回復する.EDTA処理を行った象牙質上にて歯髄(幹)細胞を培養し,象牙芽細胞への分化を誘導することの可否を検討し,Revascularizationあるいは歯髄組織再生における象牙質処理法を確立する.

2) 歯髄における炎症と組織再生のクロストーク
 歯髄炎の進行は抜髄処置を必要とし,歯髄の喪失はさらには歯の喪失につながりうる.歯髄炎における炎症制御と組織再生を誘導することを目的とし,両方の機能を有する物質に焦点を当て研究を進める.microRNAの一つであるmiR-21は,歯髄炎進行過程において発現が誘導されるが,NFkBシグナルを制御するのみならず,歯髄幹細胞の硬組織形成細胞への分化を誘導する.また,歯髄炎進行に伴う虚血状態において発現が誘導されるHIF1aは,幹細胞動態に深く関与すると報告されている.miR-21およびHIF1aを応用した歯髄炎制御と歯髄組織再生の可能性について探る.

3) 新しい根管充填用シーラーの特性
 近年MTA配合あるいはS-PRGフィラー配合の根管充填用シーラーが注目を集めている.細胞毒性および細胞分化誘導の面から,これらのシーラーの特性について明らかにする.

4) 数値流体解析による歯内治療手技の検証
 数値流体解析によるコンピューターシミュレーションによる検討は,実験系の確立が困難であった問題の解決法として期待される.当講座で開発された新しい根管洗浄法である根管内吸引洗浄法を,本法を用いて従来法と比較したところ,前者では根尖部まで完全かつ確実に根管洗浄が行われることが示唆された.

5) レーザー光の歯内治療領域への応用に関する研究
近年,歯内療法における新たな根管洗浄法としてレーザー照射装置を応用したLAI(Laser-Activated Irrigation)という技術が考案されており,洗浄能力の向上が期待されているものの,LAIでのキャビテーション発生の分布や高速水流の流量分布,根尖孔外への圧力,また複雑な根管や,側枝への洗浄圧や側枝外への圧力を測定した報告はほとんどない.現在のところ,LAIで生じた根尖孔外への洗浄液溢出量は,距離にかかわらず,通法の洗浄よりも有意に小さい結果を示した.しかし,LAI においても根尖孔外への洗浄液の溢出が生じたという報告もあり,臨床応用を目指すにあたりその機序について解明する必要性がある.さらにLAI において通常のチップを使用していることからも,機序解明知見を基に,LAI 専用チップを開発し,より安全で洗浄効率の高いLAI を考える必要性がある.現在,新規レーザーを用いたLAIにおける根尖孔外の圧力を測定する実験系を考えている.

6) 光干渉断層画像診断法(OCT)の歯内治療領域への応用に関する研究
 OCTは,近赤外光と光学干渉計を用いた非侵襲的に組織の精密断層像を得ることが可能な医療撮像用の新技術である.OCTの特徴は,非侵襲的に空間分解能約10μm という極めて高い解像度を具備しているため,現在用いられている医療用画像技術に比べ,解像度が高い鮮明な画像が得られることにある.現在までに抜去歯を用いた歯根破折線の検出や象牙質内部の歯髄腔や根管の探索に有用である可能性が示されている.また,歯根端切除を想定した根尖切除面断端内部の破折線やイスムス,側枝の観察にも有用である可能性が示唆されている.今後,より臨床的に歯根破折線の検出能力や根管探索の精度などを肉眼・歯科用実体顕微鏡・CBCTなどと比較検討を行っていく予定である.

7) ニッケルチタンファイルの金属工学的解析
①熱処理やファイルの加工法が機械的性質に与える影響
 素材であるニッケルチタン合金の相変態挙動が,ニッケルチタンファイルの機械的性質,根管形成能に与える影響について研究を行っている.これまでに,市販されているファイルの曲げ特性は相変態挙動に影響を受けることを明らかにしてきた.さらに熱処理により,相変態挙動を変化させることで,ファイルの柔軟性,根管形成能および破折抵抗性が向上するという結果が得られている.同様に,ねじり加工により作製されたファイルは従来のファイルと比較し,相変態温度が上昇することで,ファイルの柔軟性が向上することを示唆する結果を得ている.
②低サイクル疲労領域における疲労挙動の解析
 ニッケルチタンファイルの破折のうち,特に低サイクル疲労領域の疲労挙動を明らかにするため,独自の疲労試験器を作製し解析を行っている.これまでの知見から,超弾性変形そのものが疲労破折を促進させることが示唆されている.今後,熱処理などを用いてより詳細に検討を行っていく予定である.
③nano-indentation testによる回転疲労破折の評価
 回転疲労による破折メカニズムを解明するために,nano-indentation testを行っている.回転疲労による破折したファイルの破断面付近では,硬度と弾性率が減少していることが,示唆されている.
④新機構エンジンによる形成能
 根管形成用エンジンの破断防止機構であるトルクリバースを作動させると,設定値以上のトルクがかからないため,結果的に長い形成時間を要してしまう.その改善のため,新たな機構(OTR機構)を持つ装置が開発された.さらにこの機構と組み合わせて使用することを前提とした NiTi Rotary fileが試作されている.そこでOTR機構とその試作型NiTi Rotary fileを用い,透明湾曲根管模型で両者による形成能を評価した.エンジンについてはOTR機構による回転と連続回転とし,ファイルについては試作型NiTi Rotary fileとProFileを使用した.評価事項は根尖部および根尖から3mmにおける理論的切削量と実際の切削量との差,形成時間,ファイルに見られた破断,変形であった.根尖から3mmの位置の外湾部を除きProFileよりも試作型NiTi Rotary fileのほうが大きく形成する傾向があった.また根尖から3mm外湾部では,試作型NiTi Rotary fileとOTR機構を組み合わせることで過剰切削が防げた.また作業時間についてはOTR機構による回転と連続回転では差がなく,切削効率には差がないことが考えられた.連続回転で試作型NiTi Rotary fileを使用してねじれ疲労による破断が起きた.以上より,OTR機構を使用することで安全にかつ連続回転による作業時間と同様に根管形成が行えた.また試作型NiTi Rotary fileと組み合わせることで過剰切削が軽減させることができた.

8) 象牙芽細胞の感覚受容に関する電気生理学的研究
①象牙芽細胞膜歪み感受イオンチャネルの解析
 象牙芽細胞膜に存在する張力感受性イオンチャンネルをシングルチャンネル記録法およびナイスタチン穿孔パッチクランプ法によりdual whole-cell configulationに成功した.
②象牙芽細胞冷刺激検知イオンチャンネルの発見
 象牙芽細胞膜には、温度刺激によって作動するイオンチャンネルが存在することを、解析した.これは、歯髄の非侵害性冷刺激に対する感覚変換に寄与する可能性を提示する初めての報告である。TRPM8の存在を分子生物学的に証明した.
③象牙芽細胞間の電気カップリング
 象牙芽細胞間のイオンおよび低分子の移動にはgap-junctionを介した情報伝達系が関与しており,その電気conductanceをdual patch clamp法を用いて明らかにし,その加齢,細胞外温度,細胞外pHの影響を観察した.細胞間ネットワークは象牙芽細胞およびその下層の細胞を含めて,大きなネットワークを形成しており,細胞間レジスタンスはあるものの,横断面で考えるとほぼ歯髄の反対側まで繋がっていることが明らかになった.
④象牙芽細胞膜のカルシウム伝播系
 象牙芽細胞膜対する機械的歪み刺激が細胞膜カルシウムチャネルを介したカルシウムイオンの流入とそのギャップジャンクションを介した伝播を引き起こすことがわかった.この流入・伝播にはIP3(イノシトール3リン酸)を引き金としたカルシウムストアからイオン流出が関与することが確認された.
⑤マイクロCTを用いた刺激象牙質添加の伝播
象牙質を介した刺激が、象牙細管開口部に局在する象牙芽細胞に及ぶと、上記刺激伝播系を介して、周囲象牙芽細胞に情報が共有され、刺激受容部位周囲の石灰化が促進されることを証明した.
⑥象牙芽細胞膜の機械的弾性
 動水力学説では象牙細管内容液の瞬時の移動が神経線維終末を機械的に変形させることに注目されているが,細管内の象牙芽細胞・神経線維と細管壁の間の機能的距離は水力学的に重要である.そこで,この距離の計測に成功でき,あわせて象牙芽細膜自体の物理的弾性(Young率)を計測した.
⑦透過型電子顕微鏡による突起間結合の解析
 隣接する象牙芽細胞突起間の機能結合の有無を透過型電子顕微鏡にて観察し,石灰化象牙質部と象牙前質では異なった隣接細胞突起の接合がみられた.ただし,突起尖端同士の接触は確認されたが,特殊化した膜の結合様式は確認できなかった.
⑧歯痛の動水力学的スペースの計測
 エナメル側に径の小さいテーパーをなす象牙細管で,動水力学的に神経終末が歪む感覚受容が生じるためには,このテーパーと逆に,象牙芽細胞突起と象牙細管間の液体移動スペースが狭いはずである。サイズの異なる蛍光微小球を象牙質に作用させ,極小の小球だけが内側象牙質と歯髄に達することができ上記仮説を立証した.
⑨血管平滑筋と血管内皮細胞間のカップリング
 血管平滑筋と血管内皮細胞は電気的なカップリングをしており,神経による支配以外にその細胞間連絡による情報伝達を行っていることを示した.細胞外の温度,pHによる血管収縮への作用を明らかにした.

9) エナメル質―象牙細管の物質透過性と物質送達法(DDS)
①交流電荷の影響 
 象牙細管経由の物質透過性が年齢,う蝕によって受ける影響を明らかにした.歯髄方向への物質の侵入は,高濃度化,電荷,低分子化,静水圧で影響を受けることを個々に証明した.また,エナメル質の物質透過性は少量であったためこれまで着目されてこなかったが,低分子量の物質は拡散で通過しうるし,交流性の電荷をかけることでこの物質移動が促進されることが明らかになった.
②コンフォーカル顕微鏡による物質移動の確認
 蛍光小球をエナメル質,象牙質に作用させconfocal and two photon microscopyにより象牙芽細胞突起と象牙細管間の機能的幅を計測した.
③漂白,酸蝕後の透過性の亢進
 漂白,酸蝕でエナメル質最外層の構造を変化させると,カプサイシン,麻酔薬などは歯髄に到達できる量が有意に増加した.ただし,LPSの様に分子量が大きいものはエナメル質を透過できないことが証明された.したがって,エナメル質最表層のバリア機構が定量的に明らかにされるとともに,その部分的破壊を招く歯の漂白あるいは酸蝕は刺激物歯髄内進入を招きうることが証明された.

10) 歯髄リンパ管の分布と新生,再生
 歯髄に細菌刺激,機械刺激により炎症を誘発後,VEGFR-3, LYVE-1, Prox-1, 5’-Nase抗体により染色し,健常時と比較して,リンパ管の分布に変化が生じていることを確認し,それが歯髄生活性を維持するためのlymphangiogenesisであると考えられた.

11) 交感神経系のtertiary dentin形成への影響
 歯髄血管周囲にα‐,β‐アドレナリン受容器が分布することはわかっている.
①β2‐アドレナリン受容器が象牙芽細胞に存在することを,ヒトとラットを用いて免疫組織学的に世界で初めて明らかにした.
②この受容器の拮抗剤を,皮下注射によってラットに全身投与すると,象牙質窩洞形成に伴う物理的刺激,細菌学的刺激を防衛する第三象牙質の添加が促進された.この結果から,β2‐アドレナリン受容器は象牙芽細胞の第三象牙質形成に抑制的に働いており,その抑制が拮抗剤で脱抑制されることが第三象牙質に繋がることが明らかになった.

12) 歯痛に関する神経科学的研究
①Mustard oil歯髄適用にて実験的歯髄炎を誘発させたラット中枢ニューロンの応答性の変化を経時的に調べると共に,それらのニューロンが存在する中枢部位内における興奮性アミノ酸グタメイトのNMDA型受容体の発現様式について分子生物学的に検討を加えた.この実験系においてNR2A及びNR2DサブユニットmRNAの発現の亢進が確認された.
②Mustard oil歯髄適用にて実験的歯髄炎を誘発させたラットにおいて中枢性感作が成立する際にmicrogliaやastrocyteといったglia細胞の関与を検索する目的で,それらが特異的に発現するp38MAPKやGFAPのmRNA発現様式を検索した.実験的歯髄炎発症後短期間の内にこれらのmRNAが視床MD核内で亢進することを示した.
③Mustard oil歯髄適用にて実験的歯髄炎を誘発させたラットにおいて中枢内歯髄駆動ニューロンが存在する視床において,免疫担当細胞に特異的に発現するCD80やclass II MHCなどのmRNAの発現の亢進が認められることを示した.これは,免疫担当細胞と起源を同じくすると考えられているaastrocyteが活性化されている可能性を示している.

13) 歯科用コーンビームCTを用いた根尖部骨欠損の評価と歯根破折診断に関する研究
 歯内治療における患歯の状態評価には,口内法X線撮影を用いた画像評価が不可欠である.しかし,病変の大きさや周囲の解剖学的形態により,口内法X線撮影では根尖部病変の検出精度に限界があり,実際には存在する病変を見落としてしまう可能性がある.近年,歯科用コーンビームCT(以下CBCT)撮影によ三次元画像を用いることでより正確な根尖部病変の検出が可能になりつつあるが,放射線被曝量の高さからスクリーニングを目的とした使用には制限があるのが現状である.CBCT撮影で得られた画像データを口内法X線撮影画像と比較し解析を行うことで,口内法X線撮影では検出できない根尖病変の存在頻度の検討を行っている.
 垂直性歯根破折は歯の喪失の主な原因の一つであるが,その診断は困難である。我々の最近の研究では,垂直性歯根破折の症例および垂直性歯根破折でなかった症例(根尖周囲外科手術時に確認)において,術前のCBCT画像の近遠心・頬舌・水平断面画像の3方向で病変を描出し,そこから三次元解析ソフトにて病変の三次元構築モデルを作成して,その体積を比較・検討することで,垂直性歯根破折が高率に診断可能となることを報告している。しかし,その診断精度や適応症例には依然として改善すべき点がある。今後,報告した方法を用いて前向き研究を行い,CBCTによる垂直性歯根破折の診断精度の更なる向上をはかる予定である。