第4回 若手インスパイアシンポジウム(2012.02.19)

第4回 若手インスパイアシンポジウム(2012.02.19)

全体代表者の総括

本シンポジウムは、脳統合機能研究センター(CBIR)に所属する分野が一堂に会し、各分野の若手研究者が最新の研究成果を発表、意見交換を通じた研究の発展および相互交流の促進を行うことを目的に毎年開催されています。第4回となる今回は新たに認知神経生物学分野と血管内治療学分野の2分野が加わり、昨年よりもCBIR脳科学研究の領域に広がりが見られました。当日はCBIRのメンバーを中心に教員、ポスドク、医員、大学院生、医学部生など、100名近い方々に参加いただきました。発表演題も口頭発表14題、ポスター発表21題にのぼり、若手研究者によるホットトピックの発表、そして参加者による活発な議論がなされました。
シンポジウムは基礎部門と臨床部門の交流が大きな特徴の一つで、発表内容も多岐にわたりました。研究は線虫からヒトまで様々な動物種を対象にしており、そして研究分野もゲノム・分子機能・分子動態・エピジェネティクスなどの分子レベルから、発生・シグナル伝達・神経回路・細胞骨格・細胞周期などの細胞レベル、そして神経変性疾患・精神疾患・老化・寿命・行動・学習・肥満・ストレスなどの組織や個体レベルのものまで含まれ、本年も分子から脳の高次機能まで幅広い内容のものとなりました。また研究の方法論の発表ではこれまでにない新たな実験・解析手法の切り口が提案され、治療法・診断法・治療薬スクリーニングなどの発表からは医療の大きな進歩を期待させる内容のものが多数ありました。未発表データも含めた最新の知見に基づく刺激的な発表の数々に対し様々な研究分野の研究者から多角的な視点による活発な討論・意見交換がなされ、シンポジウムは大変盛り上がりました。また本年は留学生による発表も増え、英語による討論も複数行われたのが印象的でした。
ポスター発表では参加者全員による投票を行い、優秀賞3名を選出し表彰が行われました。レベルの高い発表が多くあった中で、ひときわ聴衆の関心を惹く素晴らしい内容でした。若手研究者にとって自身の成果の発表、他分野の研究者との議論、そして受賞という経験は、大きな成長につながる一つのきっかけになるものと思います。
引き続き行われた懇親会ではより和やかな雰囲気の中で交流を深めることができました。臨床の先生方が線虫の基礎研究発表内容に強く興味を持たれていたことや、新しい研究手法に他分野の研究者が熱心に質問していたこと、また「シンポジウムにより他分野との交流が容易になり研究を進めやすくなった」といった感想もあり、新たな研究交流の可能性を感じることができました。また普段話す機会のない先生方と直接お話しをすることで、研究生活や研究の苦労話、研究分野の動向など様々な貴重なお話を聞く機会となったことも懇親会の大きな意義であったと思います。
後日いただいた感想の一部を以下に紹介させていただきますが、本シンポジウムの目的である「意見交換を通じた研究の発展および相互交流の促進」を予想以上に達成できていることを実感しました。今後もこのような交流の場を通して、CBIRがますます発展することを期待します。

担当者代表:石井智浩(細胞生物学分野)

ポスター賞受賞者(50音順)

海野敏紀(脳神経病退学分野)
Rapamycin投与による脊髄小脳変性症6型モデルマウスの治療

鈴木啓子(分子神経科学分野)
BDNFはヒヨコの視覚的刷込みを促進する

山本桂(耳鼻咽喉科学分野)
一側性高度難聴者の語音聴取機能画像解析

参加者の声

ファム・グェン・クィー (細胞生理学)

CBIR若手インスパイアシンポジウムに参加させて頂きありがとうございました。今回は3回目となりましたが、毎年このシンポジウムで最新の研究成果に触れることができて大変勉強になっております。

学術的な雰囲気のなかで各研究室の一年間の成果が紹介され、活発な研究活動を知ることができて刺激となりました。そして、その後の懇親会では、様々な情報を交換する機会を提供いただき、楽しい時間を過ごすことができました。異なる分野の方々と交流ができることは大きなメリットで、これからも研究に励んでいこうと気持ちを新たにしました。

日本では昔から研究の精神が成立しており、様々な面において“研究の「文化」”ができています。研究の「質」と「量」はもちろんのこと、オーガナイゼイションの面においても大規模の学会から小規模の研究グループに至るまでプロフェッショナルに行われていることに驚かされます。私の母国ベトナムでは、それほどまでに進んだ“研究の「文化」”がまだないため、どのようにして形成していくべきなのかとよく考えます。CBIR若手インスパイアシンポジウムの準備を通して、持続可能な「横の連携」の意義とそれをサポートする体制の大切さを認識し、実際に起こりうる問題についても多く学ぶことができました。

このような貴重な経験を生かして、今後母国ベトナムの“研究の「文化」”の発展にも力を注いでいけたらと思っています。

岩佐宏晃 (病態代謝解析学)

私を含めモデル生物を対象とする研究者は、どのようにモデル生物からヒトの病態にアプローチすべきかを常に模索しております。本シンポジウムでは実際の病態に関する研究を目の当たりにしたことで、いくつかヒントをいただきました。私は線虫の健康寿命の分子メカニズムについてお話させていただきましたが、実は、このような研究は老化研究の最先端を走るアメリカにおいて始まったばかりです。今後益々の発展が期待されますが、高齢者大国である日本もこれに遅れるべきではないと思います。幸いにして、健康寿命の研究に興味をもっていただいた先生方といろいろお話する機会を得ることができました。これを機に、この研究分野が活発になり、CBIRから世界に発信できることを願っております。

藤田啓史(システム神経生理学)

私は現在博士課程の第2学年として、当分野の杉原教授のもとで「マウス小脳の縦縞コンパートメントの発達」というテーマで、その精細な研究をご指 導頂いております。本シンポジウムでは、様々な分野の様々な立場の研究者が一同に集まります。そのため、所属する研究室や、専門ごとに区分けされ た通常の学会と異なり、広い視野での研究発表やディスカッションを経験できました。これらは非常に良い刺激になっています。私は、昨年度はポス ターにて、今年度は口演にて発表させていただきました。昨年度のポスター発表に対していただいた様々な立場からの意見は、根気強く取り組むモチ ベーションや問題意識の一端となっており、本年度には口演発表につなげることができました。本シンポジウムは、私に関してはとくに、精細な研究を 広く発信する方法を様々な方から学ぶことのできる非常に貴重な経験になっています。