「 歯周病原細菌が関節炎の増悪化を引き起こしているメカニズムを解明 」【鈴木敏彦 教授、岡野徳壽 助教】
公開日:2024.8.15
「 歯周病原細菌が関節炎の増悪化を引き起こしているメカニズムを解明 」
― 口腔内細菌による全身性疾患への新たな影響を発見 ―
― 口腔内細菌による全身性疾患への新たな影響を発見 ―

ポイント
- 長年議論されてきた歯周病原細菌による関節炎増悪化メカニズムの一端が解明されました。
- 歯周病原細菌によるカスパーゼ11依存的なインフラマソーム活性化の役割が明らかになりました。
- 歯周病と全身疾患の関連について新たな知見を示し、病態解明に貢献しました。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科細菌感染制御学分野の鈴木教授と岡野助教の研究グループは、同大学院歯周病学分野、生涯口腔保健衛生学分野、難治疾患研究所免疫制御学分野、東京大学、大阪大学との共同研究で、歯周病原細菌が免疫細胞マクロファージへとカスパーゼ11※1依存的に自然免疫反応の1つであるインフラマソーム※2の活性化を誘導することによって、関節炎の増悪化を引き起こすことをつきとめました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌International Journal of Oral Scienceに、2024年8月15日にオンライン版で発表されました。
研究の背景
歯周病は歯周組織における慢性の炎症疾患であり、その原因は様々な歯周病原細菌によって構成される細菌性バイオフィルムです。つまり歯周病は細菌感染症の1つであり、歯周病原細菌の宿主への病原性発揮機構を解明することは極めて重要な課題です。さらに近年の研究の成果から、歯周病は歯周組織の炎症のみならず全身へと炎症反応を波及させ、糖尿病、アルツハイマー病、そして関節リウマチといった全身性疾患の発症や増悪化と関連があることが明らかになっています。歯周病原細菌の1つであるAggregatibacter actinomycetemcomitans(A. actinomycetemcomitans)は産生毒素Leukotoxin A (LtxA)の作用により関節リウマチの発症や増悪化に関連深いことが報告されています。しかし、その報告のほとんどは臨床サンプルの解析によるものであり、動物モデルや細胞を用いた発症・増悪化機構の解明は詳細に行われていませんでした。そこで本研究ではマウス関節炎モデルを用いてA. actinomycetemcomitansによって関節炎の増悪化が引き起こされるのか検証しました。
研究成果の概要
はじめに我々はA. actinomycetemcomitansをマウスへと全身感染させ、さらに関節炎を誘導させると肢の腫れ、滑膜内の細胞浸潤および肢内の炎症性サイトカインIL-1β濃度は非感染群や他の歯周病細菌感染群に比べると有意に上昇することを見出しました。さらに、マクロファージ除去試薬のClodronate投与によりその関節炎増悪化の兆候は抑制されました。以上の結果から、A. actinomycetemcomitans感染による関節炎増悪化にはマクロファージの作用が重要であると考えました。実際にマウス骨髄由来マクロファージにA. actinomycetemcomitansを感染させたところ、A. actinomycetemcomitansはマクロファージに対してインフラマソームの活性化に伴うIL-1βの産生を引き起こすことが明らかになりました。さらに、カスパーゼ11欠損マウス由来のマクロファージを用いたところ、A. actinomycetemcomitans感染によるインフラマソームの活性化は抑制されました。以上の結果から、A. actinomycetemcomitansはカスパーゼ11依存的にインフラマソームの活性化を誘導していることが示されました。マウス関節炎モデルにおいてもカスパーゼ11欠損マウスではA. actinomycetemcomitans感染による関節炎の増悪化(肢の腫れや滑膜内の細胞浸潤および肢内のIL-1β濃度上昇)は野生型マウスに比べて有意に減少しました。この結果から、カスパーゼ11依存的なインフラマソームの活性化がA. actinomycetemcomitans感染による関節炎の増悪化を制御している可能性が示唆されました。また、我々はA. actinomycetemcomitans感染によるマクロファージへのインフラマソーム活性化は抗マラリア薬クロロキン、抗生物質ポリミキシンB、および抗CD11b抗体によって抑制できることも見出しました。これらの薬剤はA. actinomycetemcomitans感染による関節炎の増悪化も減弱させることを証明しました。

研究成果の意義
本研究成果は、歯周病原細菌によるインフラマソームの活性化が関節炎の増悪化を引き起こすという新たな知見をもたらし、長年議論されてきている「歯周病と全身疾患」の関連について重要な情報を提供しました。また、歯周病原細菌感染による関節炎増悪化メカニズムの一端を解明し、その増悪化を抑制することが可能な新たな治療薬の候補を提案しました。
これらの成果は関節炎のみならずアルツハイマー病などの歯周病原細菌と関連があるとされる他の全身性疾患の治療法の確立にもつながることが期待されます。
これらの成果は関節炎のみならずアルツハイマー病などの歯周病原細菌と関連があるとされる他の全身性疾患の治療法の確立にもつながることが期待されます。
用語解説
※1カスパーゼ11
主にグラム陰性細菌の膜成分リポポリサッカライド(LPS)を認識する細胞質内センサーの1つ。非標準的インフラマソームの活性化を引き起こす。
※2インフラマソーム
病原体の感染、宿主代謝産物を感知する細胞質内センサー分子等によって形成されるタンパク複合体。カスパーゼ-1の活性化を誘導する。
※3IL-1β (インターロイキン1β)
インフラマソームの活性化により生理活性をもつようになるサイトカイン。炎症誘導に関わっている。
主にグラム陰性細菌の膜成分リポポリサッカライド(LPS)を認識する細胞質内センサーの1つ。非標準的インフラマソームの活性化を引き起こす。
※2インフラマソーム
病原体の感染、宿主代謝産物を感知する細胞質内センサー分子等によって形成されるタンパク複合体。カスパーゼ-1の活性化を誘導する。
※3IL-1β (インターロイキン1β)
インフラマソームの活性化により生理活性をもつようになるサイトカイン。炎症誘導に関わっている。
論文情報
掲載誌:International Journal of Oral Science
論文タイトル:Caspase-11 mediated inflammasome activation in macrophages by systemic infection of A. actinomycetemcomitans exacerbates arthritis
DOI:https://doi.org/10.1038/s41368-024-00315-x
研究者プロフィール

鈴木 敏彦 (スズキ トシヒコ) Toshihiko Suzuki
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
細菌感染制御学分野 教授
・研究領域
感染免疫学
感染症学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
細菌感染制御学分野 教授
・研究領域
感染免疫学
感染症学

岡野 徳壽 (オカノ トクジュ) Tokuju Okano
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
細菌感染制御学分野 助教
・研究領域
口腔微生物学
感染症学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
細菌感染制御学分野 助教
・研究領域
口腔微生物学
感染症学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
細菌感染制御学分野 岡野 徳壽 (オカノ トクジュ)
E-mail:okano.bact[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp
※E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。