「 皮膚筋炎の致死的間質性肺炎の治療標的候補はインターロイキンー6である 」【沖山奈緒子 教授】
― 抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺炎の新規モデルマウスの解析 ―

ポイント
- 特徴的な皮膚症状と筋炎・筋力低下を来す皮膚筋炎は、膠原病の一つであり、中でも抗MDA5抗体陽性の患者さんは、時に間質性肺炎が死亡につながることがある重篤な疾患です。本研究では、世界ではじめて本疾患に適合する新規モデルマウスを確立しました。
- 本モデルマウスを解析し、発症にはI型インターフェロンが必須である一方、間質性肺炎の成立にはインターロイキン‐6が主要な働きをしており、適した治療標的となることを示す結果を得ています。
- 抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺炎に適したモデルマウスが確立され、病態が詳細に解明されることで、さらに特異的な新規治療法開発への応用が期待できます。
研究の背景
一方で、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎患者さんでは、内出血を伴う特徴的な皮疹を呈するため、専門医にとって診断は比較的容易であり、また、筋炎はないか軽度である一方、間質性肺炎を合併します。この間質性肺炎は、時に急速進行性で致死的である点が臨床的課題になっていますが、肺という臓器の特性上もあり、病態生理解明は十分に行われておらず、高用量ステロイド投与などの非特異的免疫抑制療法を集学的に行うことで救命率改善の努力が図られているところにとどまっています。MDA5は本来、細胞内ウイルスセンサーであり、2本鎖RNAウイルスを認識して自然免疫応答を誘導するための分子であるため、ウイルス性上気道感染症が発症契機になることが想定されていますが、多くの膠原病と同様に、発症機構は証明されていません。末梢血検体解析などより、I型インターフェロン(IFN)発現が上昇していることは示唆されており、また、抗MDA5抗体抗体価や炎症を示す血清フェリチン値が病勢に応じて上昇することが言われています。しかし、病態を形成する免疫機構の全貌や、抗MDA5抗体そのものに病原性があるのかなどは分かっておらず、その解明の一助となるモデル動物も確立していませんでした。
研究成果の概要


さらに、間質性肺炎症惹起初期と完成時との肺組織を解析し、初期にはI型IFN反応性蛋白Mx1発現が上昇していて、I型IFN受容体を遺伝的に欠損しているマウスではこの肺炎を誘導できないものの、インターロイキン-6(IL-6)の発現は間質性肺炎成立まで一貫して上昇が顕著であること(図2)、さらにはIL-6標的療法である抗IL-6受容体抗体療法が間質性肺炎を治療できることを見出しています(表1)。


研究成果の意義
用語解説
※1免疫賦活剤:成体における非特異的な自然免疫活性化を誘導する物質。本研究では、MDA5抗原を免疫するときに完全フロイントアジュバントと百日咳毒素を用い、急性肺炎症を起こすためには、2本鎖RNAウイルスを模したPoly (I:C)の経鼻投与を用いている。
論文情報
掲載誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
論文タイトル: Autoimmunity against melanoma differentiation-associated gene 5 induces interstitial lung disease mimicking dermatomyositis in mice
研究者プロフィール

沖山 奈緒子 (オキヤマ ナオコ) Okiyama Naoko
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 皮膚科学分野 教授
・研究領域
皮膚免疫学、自己免疫

市村 裕輝 (イチムラ ユウキ) Ichimura Yuki
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 皮膚科学分野 非常勤講師
東京女子医科大学 膠原病リウマチ内科学分野 助教
・研究領域
リウマチ学、免疫学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
皮膚科学分野 沖山 奈緒子 (オキヤマ ナオコ)
E-mail:okiy.derm[@]tmd.ac.jp
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 皮膚科学分野
東京女子医科大学 膠原病リウマチ内科学分野
市村 裕輝 (イチムラ ユウキ)
E-mail:ichimura.yuki[@]twmu.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
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