「 口腔癌のbucco-mandibular space浸潤形態の新分類を開発 」【釘本琢磨 助教】
公開日:2023.10.23
「 口腔癌のbucco-mandibular space浸潤形態の新分類を開発 」
― 109例の解析により予後不良パターンを発見 ―
― 109例の解析により予後不良パターンを発見 ―
ポイント
- Bucco-mandibular space (頬下顎隙)は下顎骨の外側に存在する間隙です。
- 口腔癌における頬下顎隙への浸潤形態の新たな分類(パターンA:水平型、パターンB:垂直型、パターンC:拡張型)を開発しました。
- パターンBやCに該当する症例は、原発巣進行例が多く、病理組織学的切除断端が陽性もしくは近接する傾向にあり、生存率の低下を示しました。
- 術前MRIで本分類に即した浸潤形態を把握することが可能であり、本分類は予後予測に有用であると考えられます。
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 顎口腔腫瘍外科学分野の原田浩之教授と釘本琢磨助教らの研究グループは、同研究科 口腔顎顔面解剖学分野の岩永譲教授、口腔病理学分野の池田通教授、歯科放射線診断・治療学分野の三浦雅彦教授との共同研究により、口腔癌におけるbucco-mandibular space浸潤症例の解析を行い、その浸潤形態を3つのパターン(パターンA:水平型、パターンB:垂直型、パターンC:拡張型)に分類しました。中でも、パターンBおよびCは予後不良であることが判明しました。この新たな分類法は術前MRIで評価することが可能であり、予後予測に有用であると考えられます。この研究成果は、国際科学誌Frontiers in Oncologyに、2023年10月12日にオンライン版で発表されました。
研究の背景
近年、口腔癌に対する各種治療法は進歩しており、生存率は向上してきました。一方で、頬部に進展する口腔癌は予後不良であることが報告されており、一因として手術後の局所再発率が高いためと考えられています。2017年に岩永譲教授が提唱したbucco-mandibular space(頬下顎隙)※1は下顎骨の外側に存在する間隙で、下顎歯肉癌や頬粘膜癌では容易にこの間隙に進展することがわかっています。研究グループは、この間隙に進展する口腔癌の浸潤形態を分類し、さらに、その浸潤形態によって予後に差があるかどうかを検証しました。
研究成果の概要
下顎区域切除もしくは下顎半側切除を行なった口腔癌109例を対象に解析を行いました。その結果、bucco-mandibular space(頬下顎隙)への浸潤形態は3パターンに分類されました。そのパターンは、パターンA:水平型、パターンB:垂直型、パターンC:拡張型と定義しました。

図1 Bucco-mandibular space(頬下顎隙)のシェーマ

図2 Bucco-mandibular space(頬下顎隙)浸潤症例の口腔内写真
下顎歯肉頬移行部※2に位置する口腔癌

図3 浸潤パターンの概略図
術前MRIによる頬下顎隙浸潤の評価においては、感度:100%、特異度:84.2%、陽性的中率:83.3%、陰性的中率:100%で正診率:91.2%でした。
頬下顎隙浸潤症例は、非浸潤症例に比べると、原発巣が進行した症例が多く、頸部リンパ節転移の頻度が高いことがわかりました。また、病理組織学的切除断端※3が陽性もしくは近接する傾向にありました。さらに、浸潤パターン別に詳細に調べてみると、パターンBおよびパターンCに該当する症例で、垂直断端が陽性もしくは近接する傾向が顕著でした。また、パターンにかかわらず頬下顎隙進展が高度である症例は皮膚浸潤をきたすため、頬下顎隙は皮膚浸潤への進展経路となり得る可能性があります。3年無病生存率では、非浸潤症例:86.7%、浸潤症例:66.0%でした。浸潤パターン別の3年無病生存率はパターンA:82.1%、パターンB:67.4%、パターンC:48.0%でした。
頬下顎隙浸潤症例は、非浸潤症例に比べると、原発巣が進行した症例が多く、頸部リンパ節転移の頻度が高いことがわかりました。また、病理組織学的切除断端※3が陽性もしくは近接する傾向にありました。さらに、浸潤パターン別に詳細に調べてみると、パターンBおよびパターンCに該当する症例で、垂直断端が陽性もしくは近接する傾向が顕著でした。また、パターンにかかわらず頬下顎隙進展が高度である症例は皮膚浸潤をきたすため、頬下顎隙は皮膚浸潤への進展経路となり得る可能性があります。3年無病生存率では、非浸潤症例:86.7%、浸潤症例:66.0%でした。浸潤パターン別の3年無病生存率はパターンA:82.1%、パターンB:67.4%、パターンC:48.0%でした。

図4 浸潤の有無による無病生存曲線

図5 浸潤パターン別の無病生存曲線
研究成果の意義
本研究では、109例という多数例の検討から、頬下顎隙浸潤の浸潤形態を分類することに成功しました。これにより、予後不良な浸潤形態があるということが明らかになりました。また、術前MRIで浸潤形態を判別でき、予後予測が可能になると考えられます。予後不良な浸潤形態と判別された症例では、局所再発の可能性を考慮して治療計画を立案していくことが、治療成績の向上に繋がるものと考えられます。
用語解説
※1Bucco-mandibular space(頬下顎隙)
下顎骨外側で頬筋の深部下方に位置する疎な結合組織で満たされた間隙を指す。
※2下顎歯肉頬移行部
下顎臼歯部口腔前庭で、可動粘膜である頬粘膜が不動粘膜である歯肉粘膜へ移行する部分。
※3病理組織学的切除断端
切除面に腫瘍組織の露出がある場合を「陽性」、切除面から5mm未満を「近接」とする。
粘膜面の断端を「水平断端」、深部組織の断端を「垂直断端」とする。
下顎骨外側で頬筋の深部下方に位置する疎な結合組織で満たされた間隙を指す。
※2下顎歯肉頬移行部
下顎臼歯部口腔前庭で、可動粘膜である頬粘膜が不動粘膜である歯肉粘膜へ移行する部分。
※3病理組織学的切除断端
切除面に腫瘍組織の露出がある場合を「陽性」、切除面から5mm未満を「近接」とする。
粘膜面の断端を「水平断端」、深部組織の断端を「垂直断端」とする。
論文情報
掲載誌:Frontiers in Oncology
論文タイトル:Invasion of the bucco-mandibular space by oral squamous cell carcinoma: histopathological analysis of invasion pattern
DOI:https://doi.org/10.3389/fonc.2023.1168376
研究者プロフィール
原田 浩之 (ハラダ ヒロユキ) Harada Hiroyuki
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
顎口腔腫瘍外科学分野 教授
・研究領域
口腔外科学、口腔腫瘍学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
顎口腔腫瘍外科学分野 教授
・研究領域
口腔外科学、口腔腫瘍学

釘本 琢磨 (クギモト タクマ) Kugimoto Takuma
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
顎口腔腫瘍外科学分野 助教
・研究領域
口腔外科学、口腔腫瘍学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
顎口腔腫瘍外科学分野 助教
・研究領域
口腔外科学、口腔腫瘍学

岩永 譲 (イワナガ ジョウ) Iwanaga Joe
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
口腔顎顔面解剖学分野 教授
・研究領域
口腔解剖学
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
口腔顎顔面解剖学分野 教授
・研究領域
口腔解剖学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
顎口腔腫瘍外科学分野学 原田 浩之 (ハラダ ヒロユキ)
E-mail:hiro-harada.osur[at]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[at]tmd.ac.jp
※E-mailは上記アドレス[at]の部分を@に変えてください。