「 白血病阻止因子LIFは抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺疾患の新規疾患マーカーとなりうる 」【沖山奈緒子 教授】
「 白血病阻止因子LIFは抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺疾患の
新規疾患マーカーとなりうる 」
― 世界初の皮膚筋炎関連間質性肺炎トランスクリプトーム解析 ―
ポイント
- 膠原病の一つである皮膚筋炎のうち、抗MDA5抗体陽性患者さんでは、時に急速に進行して死に至る間質性肺疾患を発症することが知られていているものの病態解明は進んでいませんでしたが、今回、白血病阻止因子LIFが一つの疾患マーカーになり得ることを見いだしました。
- 本研究では世界で初めて患者肺組織のトランスクリプトーム解析※1を行い、抗原提示関連因子や炎症性サイトカインの高発現を見いだす中で、白血病阻止因子LIFの高発現を新規に同定しています。
- 抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺疾患の患者さんでは血清LIF値も上昇しており、同じ皮膚筋炎関連間質性肺疾患でも抗ARS抗体陽性患者さんでは認められない現象であることより、本疾患特有の疾患マーカーであると示唆され、今後の病態解明の一助となるとともに、治療方針決定への応用が期待できます。
研究の背景
研究成果の概要
トランスクリプトーム解析では、対照群と比べて高発現していた遺伝子が395個、発現低下していた遺伝子が124個同定され、遺伝子オントロジーエンリッチメント解析※2においては、抗原提示関連遺伝子の顕著な高発現が特徴的でした。また、蛋白質相互作用ネットワーク解析※3では、抗原提示関連遺伝子である主要組織適合性複合体(MHC)クラスII関連の遺伝子クラスターが同定され(図1)、これはMHCクラスIIを介して抗原提示を受けるCD4陽性ヘルパーT細胞が病態に関与することをうかがわせる結果です。また、肺組織傷害を反映して、肺サーファクタント物質・細胞骨格に関与する因子や、コラーゲン関連遺伝子のクラスターも認められ、かつサイトカイン・ケモカインのクラスターも認めています(図1)。サイトカインでは、血液検体解析で発現亢進が示唆されてきた、IL-1β、IL-6、IL-8に加え、IL-6スーパーファミリーの一つである白血病阻止因子LIFの発現亢進が新規に同定されました。

図1 剖検肺の蛋白質相互作用ネットワーク解析

図2 患者群ごとの血清LIF値(ELISA)
研究成果の意義
本研究の結果は、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎関連間質性肺疾患の病態解明の一助となるとともに、近年本疾患への治療薬として報告されつつあるJAK阻害薬の有用性を理論的に裏付ける所見でもあり、かつ、疾患マーカー、特に治療方針決定に寄与する重症度判定因子や治療反応性モニター因子としての有用性の検討へ発展していくことが期待されます。
最後に、闘病の末にお亡くなりになりました患者さんのご冥福を心よりお祈りするとともに、剖検と研究解析にご同意下さったご遺族の方々に深謝申し上げます。
用語解説
※2遺伝子オントロジーエンリッチメント解析:遺伝子の生物学的プロセス、細胞の構成要素や分子機能によってグループ分けした遺伝子オントロジーを調べる方法
※3蛋白質相互作用ネットワーク解析:遺伝子により合成される蛋白の相互作用の関係をもとにネットワーク化して可視化する方法
論文情報
掲載誌:Rheumatology (Oxford)
論文タイトル: Relevance of leukemia inhibitory factor to anti-melanoma differentiation-associated gene 5 antibody-positive interstitial lung disease
DOI:https://doi.org/10.1093/rheumatology/keac632
研究者プロフィール

沖山 奈緒子 (オキヤマ ナオコ) Okiyama Naoko
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
皮膚科学分野 教授
・研究領域
皮膚免疫学
自己免疫

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
皮膚科学分野 非常勤講師
・研究領域
膠原病・リウマチ学
自己免疫
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
皮膚科学分野 沖山 奈緒子(オキヤマ ナオコ)
E-mail:okiy.derm[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
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