プレスリリース

「北米地域で確認されているオミクロン系統株の 本邦市中流行、および市中に長期間存続している デルタ系統株への感染事例を確認」

公開日:2022.1.18

「北米地域で確認されているオミクロン系統株の本邦市中流行、および市中に長期間存続しているデルタ系統株への感染事例を確認」
~医科歯科大 新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクト 第10報~

ポイント

  • 2021年12月末~2022年1月11日までのCOVID-19患者5名から検出したオミクロン株は、北米地域で確認されているオミクロン系統株(BA.1系統)に近縁であることがわかりました。
  • オミクロン株感染患者の5名中4名は、レセプター結合領域内にR346K変異を有するBA.1系統株に感染しており、残りの1名はその変異がないBA.1系統株に感染していることを確認しました。
  • 当該患者名に渡航歴および濃厚接触者歴はなく、市中感染事例であることがわかりました。このことは、昨年12月に国内に存在していた複数のオミクロン系統株の中で、R346K変異を有するBA.1系統株による市中感染拡大が現時点において起こっていることを示唆するものと考えます。
  • 上記期間のCOVID-19患者から検出したデルタ株は、国内主流デルタ系統株(AY.29系統)であることを確認しましたが、こちらは2021年8月の第5波から今日に至るまで市中に存続しているAY.29系統株の中で、わずか1%以下の割合で存在しているデルタ系統株(レセプター結合領域内のQ414R変異を有するAY.29系統株)であることを確認しました。
  • 当該AY.29系統株は、昨年8月の第5波以降も本邦において長期間存続しており、また患者が重症化に至ったことから、依然として高い重症化リスクを保持しているものと考えられます。

     東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の武内寛明准教授・東京医科歯科大学病院病院長補佐、難治疾患研究所ゲノム解析室の谷本幸介助教、リサーチコアセンターの田中ゆきえ助教、ウイルス制御学分野の北村春樹大学院生および多賀佳大学院生らによる本学入院患者由来SARS-CoV-2全ゲノム解析プロジェクトチームは、統合臨床感染症学分野の具芳明教授、木村彰方理事・副学長・特任教授および京都府立医科大学大学院分子病態感染制御・検査医学分野の貫井陽子教授(前医学部附属病院感染制御部部長)との共同解析により、2021年12月末~2022年1月11日までのCOVID-19患者北米地域で確認されているオミクロン系統株の市中流行および本邦において長期間存続しているデルタ系統株への感染事例を確認しました。
     

背景

 デルタ系統株(AY.29系統)による第5波の感染収束が見られた2021年9月末から11月下旬まで、本邦におけるCOVID-19患者は極めて少ない状況が維持されていました。ところが、11月初旬に南アフリカ地域で確認された新たな変異系統株(オミクロン株)が世界各地で感染急拡大するのに伴い、11月下旬以降、日本でも空港検疫にてオミクロン株への感染事例が確認されるようになりました。その後、国内に流入したオミクロン株による急激な感染拡大に見舞わられていることから、さらに強固な感染拡大防止対策を講じると同時に社会経済活動維持とのバランスを取る必要に迫られているのが現状です。

概要

 2021年12月末から1月11日までに東京医科歯科大学病院に入院歴のあるCOVID-19患者6人の由来検体を用いて全ゲノム解析を行った結果、6名中5名はオミクロン株(BA.1系統)であることを確認しました。5名中4名は、BA.1系統株の中で追加変異【R346K変異:レセプター結合領域】が存在し、残りの1名はその変異がないBA.1系統株であることを確認しました。このことは、昨年12月に国内に存在していた複数のオミクロン系統株の中で、R346K変異を有するBA.1系統株による市中感染拡大が現時点において起こっていることを示唆するものと考えられます。
 また、本学で確認されたオミクロン株も含め、本邦において確認されているオミクロン株は、海外から流入した可能性が極めて高いことから、世界のどこの地域で確認されたオミクロン株が流入してきたのかを解析するために、当院で確認した2つの異なるオミクロン株の全ゲノム情報をGISAIDに登録した上で、全ゲノム分子系統解析を行いました。その結果、世界各地域(アフリカ地域、ヨーロッパ地域、アジア地域、北米地域の計4大地域)と本学2例のメタデータを用いた全ゲノム分子系統解析の結果、北米地域で確認されたオミクロン株に一番似ている(近縁)ことが判明しました。加えて、本邦で確認されたオミクロン株による系統解析の結果、本学で確認された2例は本邦において特異なオミクロン株ではないことが分かったことから、本邦で確認されているオミクロン株は、北米地域で確認されているオミクロン株と近縁である可能性が極めて高いものと考えられます。
 また、今回全ゲノム解析で確認された1名のデルタ株感染患者については、AY.29系統株への感染事例であることを確認しましたが、当該デルタ株は、2021年8月の第5波から今日に至るまで市中に存在しているAY.29系統株の中で、わずか1%以下の割合で存続しているデルタ系統株(レセプター結合領域内のQ414R変異を有するAY.29系統株)であることを確認しました。この結果は、2021年8月の第5波以降も当該系統株が本邦において長期間残存していることを示しており、また、患者が重症化に至ったことから、依然として高い重症化リスクを保持しているデルタ系統株であると考えられます。

赤色:デルタ株の特徴変異
青色:アルファ株の特徴変異
赤茶色:感染伝播性の増大に関わると予測されている変異
ピンク色:SARS-CoV-2のヒトへの感染伝播性を規定する最重要変異
緑色:オミクロン株の特徴変異(E484A変異は免疫逃避に関わる可能性あり。R346Kはレセプター結合領域内変異であることから感染性に影響を及ぼす可能性あり。)

本知見の意義

 今回、確認したオミクロン株感染者5名は、ワクチン接種歴があるにも関わらず、基礎疾患が認められている高齢者および基礎疾患が認められていない若年層においても酸素を必要とする中等症Ⅱへの病態進行が認められたことから、従来のワクチン2回接種下でもブレークスルーが容易に起こり得る感染性を保持していることが考えられます。また、市中において長期間残存しているデルタ株は依然として高い重症化リスクを保持していることが示唆されました。このように第6波はオミクロン株とデルタ株とが共存している状態であり、オミクロン株であっても重症化リスクを有すると考えられることから、引き続き強固な感染予防対策を継続すると同時に市中感染株の推移をモニタリングし、ウイルス流行の実態を把握することが公衆衛生上の意思決定に重要であると考えます。

用語解説

・系統とは?
新型コロナウイルスに関して世界共通の系統分類方法であるPangolin(COVID-19 Lineage Assigner Phylogenetic Assignment of Named Global Outbreak LINeages, 
https://cov-lineages.org/lineages.html)による分類系統IDによる分類系統名のことを指します。

・患者由来検体とは?
東京医科歯科大学病院の入院・外来においてCOVID-19患者の鼻咽腔ぬぐい液から採取されたウイルス(SARS-CoV-2)のことを指します。

・全ゲノム解析とは?
コロナ遺伝子検査として幅広く用いられているPCR検査は、ウイルスゲノムの限られた遺伝子領域(200塩基前後)のみ検出するのに対し、全ゲノム配列解析はコロナウイルスゲノム(約30,000塩基)を全て解読し、ウイルス配列全体の特徴を調べる方法のことを指します。

・医科歯科大 新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクトとは?
2020年7月以降に東京医科歯科大学病院に入院歴のあるCOVID-19患者検体に含まれるSARS-CoV-2の全長ゲノム配列を解析し、(1)ウイルス学的特徴、(2)COVID-19疫学データ、および(3)臨床的特徴を紐付けすることによりCOVID-19病態解明および公衆衛生上の意思決定への貢献を目的として解析を進めています。
 

参考資料

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第1報
http://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210129-1.pdf 

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第2報
https://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210218-1.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第3報
https://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20210315-1.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第4報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54630_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第5報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54774_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第6報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/54951_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第7報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55606_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第8報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55788_ext_04_2.pdf

東京医科歯科大学・SARS-CoV-2全ゲノム解析プレスリリース第9報
https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55835_ext_04_2.pdf

問い合わせ先

<内容に関すること>
国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 
ウイルス制御学分野 武内 寛明(たけうち ひろあき)
E-mail:htake.molv[@]tmd.ac.jp
    
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp

プレス通知資料PDF

  • 「北米地域で確認されているオミクロン系統株の本邦市中流行、および市中に長期間存続しているデルタ系統株への感染事例を確認」