「骨粗鬆症を抑制する新しい分子機能の発見」【野田政樹 教授】

「骨粗鬆症を抑制する新しい分子機能の発見」【野田政樹 教授】

野田 政樹 教授 難治疾患研究所 分子薬理学分野(右)
江面 陽一 准教授 同上(中)
渡辺 千穂 特任助教  大学院医歯学総合研究科 顎顔面矯正学分野(左)


― 加齢性骨量減少とCnot3 ―

ポイント

我国の1200万人以上が罹患する骨粗鬆症の仕組みの新しい側面を明らかにしました。
加齢による骨量減少の病態に主要な役割を果たす遺伝子を特定しました。
高齢者における骨粗鬆症の病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます。
 東京医科歯科大学難治疾患研究所・分子薬理学分野の野田政樹教授、江面陽一准教授、同大大学院顎顔面矯正学分野の森山啓司教授の研究グループは、沖縄科学技術大学院大学、山本雅教授グループとの共同研究で、加齢による骨粗鬆症の病態に重要な役割を果たす遺伝子を特定しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびにグローバルCOE事業の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)に、2014年2月4-10日付オンライン版で発表されました。

研究の背景

 高齢化社会の急激に進む我国では、骨粗鬆症の患者は、1200万人を超えると推定され、薬物治療の導入により欧米で減少しているにもかかわらず、我国ではなお増加している生命予後を悪化させる大腿骨頸部骨折の主因となっています。しかし、加齢に基づく骨量減少がどのようなメカニズムで病態を引き起こすのかについて、未解明な部分が多く残っています。そのため、患者の症状改善や有効な治療法は未だ確立されていませんでした。
 本研究チームは近年、メッセンジャーRNAの分解を促進する分子として報告されているCnot3に着目し、骨量減少のメカニズムにCnot3が関与するのか、またCnot3の候補標的の探索を行いました。その結果重要なメカニズムを見出すに至りました。
※Cnot3とはメッセンジャーRNAの分解を促進する分子の一つです。

研究成果の概要

 本研究チームは骨粗鬆症のしくみを明らかにするために、加齢性の骨粗鬆症へのCnot3の欠失の影響を調査しました。その結果、高齢マウスとし2年令の動物を用いて、これと4か月の若齢動物とを比較すると骨量は3分の1に低下しましたが(図1)、一対が二本の染色体に乗っているCnot3遺伝子の片方のみを欠失した動物をここではKOと示しますが、この動物では、高齢の野生型(WT)に比べさらに骨量が著しく低下しており、重症の骨粗鬆症を示しました。 重要なこととして高齢化に伴い骨における内因性のCnot3の発現量が1/3に減少していることが分かりました (図2)。 
 免疫蛍光顕微鏡観察によって、このCnot3の分子の細胞内の存在を検討した結果、その蛋白は量の減少に重要な役割を果たす破骨細胞の核には存在せず細胞質に存在していることが分かり、Cnot3の働きは転写の制御よりも転写後のmRNAの安定性の制御に関わる可能性が示されました (図3)。
 そこで骨量の減少に重要な役割を果たす破骨細胞の形成と機能を促進する遺伝子としてRANKのメッセンジャーRNAの分解を検討した結果、Cnot3の欠失によりRANK遺伝子のメッセンジャーRNAの分解が抑制されることが判明しました(図4)。 以上のことから、Cnot3はRANK遺伝子の発現を抑制することにより加齢による骨量低下を抑えていることが示され、この遺伝子が加齢に基づく骨量減少を内因性に抑止する機能を持つことを世界で初めて発見しました。

研究成果の意義

 今回、Cnot3は加齢による骨粗鬆症の制御因子であり、内因性の防御に関わる遺伝子であることが解明されました。また、Cnot3の存在により加齢後の骨量維持にも効果があることを示しました。本研究成果は、骨粗鬆症に対する新たな診断法・治療法の開発に寄与することが期待できるものと考えられます。

問い合わせ先

<研究に関すること>
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 分子薬理学分野
氏名 野田政樹(ノダ マサキ), 江面陽一(エヅラ ヨウイチ)
TEL:03-5803-4057 FAX:03-5803-4057
E-mail:noda.mph(ここに@を入れてください)mri.tmd.ac.jp(野田)
    ezura.mph(ここに@を入れてください)mri.tmd.ac.jp(江面)

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 広報部広報課
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
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