高齢者歯科学分野 教授就任にあたって

高齢者歯科学分野 教授就任にあたって

「高齢者歯科学分野 教授就任にあたって」

国立大学法人 東京医科歯科大学(TMDU)
大学院医歯学総合研究科
高齢者歯科学分野
教授 金澤 学(学50)

東京医科歯科大学歯科同窓会の皆様,こんにちは.東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野の教授に,2024年5月1日に着任いたしました金澤 学と申します.東京医科歯科大学病院においては,先端歯科診療センター センター長と歯科技工部部長を,東京医科歯科大学では統合国際機構 副機構長を務めさせて頂いております. 
この高齢者歯科学分野の歴史は古く,昭和35年に歯科補綴学第三講座として,林都志夫先生を教授とし,全部床義歯補綴学を担当する分野として発足しました.林先生のご退職後,昭和59年に長尾正憲教授が就任されました.当時より,日本は世界に例を見ない速さでの高齢化が進んでおり,歯科医学における高齢者に対応する学問体系,臨床体系を確立するために,平成元年に高齢者歯科学講座と改組され,全部床義歯補綴学と高齢者歯科学を担当することとなりました.その後,大学院大学を経て,口腔老化制御学分野と改組され(のちに高齢者歯科学分野に名称変更),植松宏教授が就任されました.平成12年には早川巖先教授が口腔老化制御学分野から摂食機能評価学分野に配置転換され,平成13年に同分野教授に昇任されるとともに,全部床義歯補綴学の教育担当は高齢者歯科学分野から同分野に移動しました.その後,平成18年より摂食機能評価学分野は全部床義歯補綴学分野と名称が改められました.平成20年には水口俊介先生が全部床義歯補綴学分野教授に就任され,平成20年に高齢者歯科学分野と全部床義歯補綴学分野は高齢者歯科学分野として統合され,高齢者歯科学と全部床義歯補綴学を担当する分野となりました.令和2年には戸原玄先生が摂食嚥下リハビリテーション学分野の教授として独立されました.この歯科補綴学第三講座をルーツとするこれらの教室からは多くの教授も輩出されており,芝燁彦先生(昭和大学),松本直之先生(徳島大学),山縣健佑先生(昭和大学)、指宿真澄先生(昭和大学)平井敏博先生(北海道医療大学),鈴木哲也先生(岩手医科大学,東京医科歯科大学),古屋純一先生(東京医科歯科大学,昭和大学),松尾浩一郎先生(松本歯科大学,藤田医科大学,東京医科歯科大学)と多くの先生がご活躍されています.このような優秀な諸先輩方が築いてこられた名門とも言える分野を担当させて頂けることになり,重積を感じております.
私は2002年東京医科歯科大学歯学部を卒業いたしました.大学時代はサッカー部に属しており,よく遊びながらも,かろうじて勉強をし,なんとか試験を切り抜けて参りました.講義は不真面目でしたが,実習はどれも楽しく,特に6年生の臨床実習において全部床義歯の難しさを実感し,その時の指導教員であった平野滋三先生の影響を受けて卒後は全部床義歯補綴学分野の大学院に進学いたしました.この全部床義歯補綴学分野には,早川巖教授と口腔保健工学専攻口腔機能再建工学分野の前教授である鈴木哲也先生が准教授として在籍されており,臨床の研鑽には申し分のない環境でした.この大学院時代には臨床の楽しさを実感し,日々臨床と技工に明け暮れており,本当に楽しく充実した4年間を過ごすことができました.
大学院修了後に全部床義歯補綴学分野から名称変更された高齢者歯科学分野(水口俊介教授)にて,医員,助教,講師を務めました.私は臨床が好きで,また,研究結果の臨床応用が近く理解しやすいことから,高齢者歯科学分野では臨床研究を,特に無歯顎患者や高齢者を対象とした,全部床義歯やインプラントオーバーデンチャー(IOD)を介入とした臨床研究を行なっておりました.2013年にはカナダのモントリオールにあるMcGill大学にVisiting professorとしてJocelyne Feine先生のもとに留学させていただきました.ケベック州では書類と面接で歯科医師免許を取得することができ,1年間補綴医として,インプラントオーバーデンチャーの臨床研究に参加いたしました.ここで世界トップレベルの研究者との交流しながら,切磋琢磨し,研究を進めていくことの楽しさに目覚めました.
臨床においては,私は2015年に先端歯科診療センターが設置されてから外来医長と副センター長を勤め,2024年より水口俊介先生からセンター長を引き継ぎました.先端歯科診療センターは歯科系のフラッグシップとして,保険にとらわれない最高の治療を提供できるように努力しております.近年では歯科ドックや医療ツーリズムなども取り入れ,皆様のご協力もあり稼働も順調に推移しております.
研究においては,デジタルデバイス・ソフトウェアに興味があり,デジタルデンチャーに関する研究を行っていたこともあり,2019年に歯学部 口腔保健衛生学科 口腔保健工学専攻 口腔デジタルプロセス学分野の教授に就任いたしました.この分野はデジタルデンティストリーに関する研究,教育,臨床を行う分野として設立された分野になります.私が初めて独立した分野であったため,立ち上げには本当に苦労をしましたが,高齢者歯科学分野時代に一緒に仕事をしてくれていた岩城麻衣子准教授,宮安杏奈助教,羽田多麻木特別研究員と,前分野から在籍していた圡田優美助教の多大なるサポートを受けながら,デジタルデンティストリーに関する研究,教育,臨床を行って参りました.また,口腔保健工学専攻の口腔基礎工学分野の青木和広教授,口腔医療工学分野の池田正臣教授にもご支援頂きながら,口腔保健工学専攻をより良くするために,デジタル関連の研究の推進,デジタル教育施設「Real Mode Lab」の導入など,様々な改革を行って参りました. 
2024年5月1日に前任の水口俊介教授の定年退職に伴い,高齢者歯科学分野教授に就任しました.現在,高齢者歯科学分野の常勤の医局員は47名おり,猪越正直准教授,駒ヶ嶺友梨子准教授,濵洋平講師を筆頭に,他教員7名,大学院生・大学院研究生32名(うち外国人19名),事務補佐員1名がおります.デジタル技術は目標を達成するための手段であり,最終目標はなるべく多くの人,生命,地球への貢献です.超高齢社会は地球規模の課題であり,人口減少のなか,デジタル技術を駆使してこの問題を解決する必要があります.日本の高齢化率は世界で一番高い29%です.日本の超高齢社会は,世界にとっては明日の我が身でありますので,世界の注目を集める重要なテストケースでもあります.高齢者歯科学分野では,口腔デジタルプロセス学分野で得たデジタルデバイス・ソフトなどの技術を駆使して,東京科学大学歯学部として理工学系とコラボレーションしながら世界の補綴歯科・老年歯科をリードし、この超高齢社会という課題を口腔の健康から解決し、世界の人々の幸福に貢献することを目指して,臨床・研究・教育を行っていくとともに,医局員一丸となって東京科学大学を盛り上げていきたいと思っております!今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします.

2024年5月1日

<略歴>
1977年 神奈川県鎌倉市生まれ
1996年 私立浅野高等学校卒業
2002年 東京医科歯科大学歯学部卒業
2006年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 全部床義歯補綴学分野 修了.
東京医科歯科大学 歯学部附属病院 義歯外来 医員
2008年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野 助教
2013-2014年 マギル大学 Visiting professor
            Oral Health and Society, Faculty of Dentistry, McGill University
2020年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野 講師
2021年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 口腔デジタルプロセス学分野 教授
2024年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野 教授