Ⅰ.部分床義歯が必要な方

Ⅰ.部分床義歯が必要な方

歯科治療における部分床義歯治療の位置づけ,なぜ必要とされているのかに関してご説明いたします.

部分床義歯とは

 部分床義歯は,患者さんが自分で取り外すことのできる義歯です.様々な理由で歯を失った方にとって,最も一般的に使われている義歯でしょう.歯を1本失った方から,ほとんどの歯を失った方まで,あらゆる症例に適用されますが,歯をすべて失った場合に適用される「全部床義歯(総義歯)」とは区別されます.また,自分で取り外すことのできない固定性の補綴(ほてつ)方法は「ブリッジ」,顎骨に埋め込むタイプは「インプラント義歯」として区別されています.
 本学では,全部床義歯は高齢者歯科学分野,ブリッジは摂食機能保存学分野,インプラント義歯はインプラント・口腔再生医学分野が,それぞれ専門の研究と教育を行っています.また同じ補綴学系の専門分野として,顎顔面補綴学分野スポーツ医歯学分野がそれぞれの専門的な治療を行っています.

歯を失うことの問題点

 失った歯がどの歯なのかにもよりますが,歯がないまま放置すると,食事のときよく噛めない「咀嚼障害」を経験します.また奥歯(臼歯)を喪失して咬み合わせることができない「咬合不良」を起こし,顎(あご)の関節や筋肉を痛めてしまうことがあります.前歯を失うと「外観不良」の原因となるので,社会生活にも支障が生じます.これらは退職した高齢者であっても,日常の生活レベルを損なう重大な問題と考えられています.

部分床義歯が必要な方

 図1.義歯の種類別にみた人口の割合

 図1は,義歯の種類別にみた人口の割合です.部分床義歯を装着する人は40代から増え始め,とくに60代後半から70代後半までの「退職直後(ポストリタイアメント)」の年代にとっては,最もよく使われている義歯であることがわかります.

 図2は,一人平均の歯の数と歯をすべて失った人の全人口に対する割合を,20年前と5年前で比較したグラフです.この間に,一人平均の歯の数は増え,85歳以上の超高齢者で歯が1本もない人(多くは全部床義歯を装着します)の割合は60%から40%に激減しています.

 つまり,以前であれば歯が全部なくなって全部床義歯を装着していた方は,う蝕や歯周病の予防の充実,歯の治療技術の進歩などによって,高齢者になっても歯を何本か残せるようになり,部分床義歯を必要とするようになったと考えられます.部分床義歯は今後,最も身近な「入れ歯」として60代以降の多くの人に必要とされるでしょう.

図2.年齢と歯の喪失に関する統計

Ⅰ.部分床義歯が必要な方
Ⅱ.部分床義歯の特徴
Ⅲ.治療の実際