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大学案内

学長からのメッセージ

学長「大山 喬史」よりご挨拶です。


「 知と癒しの匠を創造する」

 東京医科歯科大学は、医歯学総合研究科、保健衛生学研究科、生命情報科学教育部・疾患生命科学研究部の3つの大学院組織、医学部医学科、医学部保健衛生学科、歯学部歯学科、歯学部口腔保健学科の4つの学部学科組織と医学部附属病院、歯学部附属病院、教養教育を担う教養部、および生体材料工学研究所、難治疾患研究所の2つの附置研究所を擁する日本唯一の医療系総合大学院大学です。

 本学が目指す人材養成にあたって、そこに求める人間像は、未知なるものへのチャレンジ精神を持ち、真理の探究に努力を惜しまぬ科学者像であります。しかも、その「科学」は「人が生きる」上で役に立つものでなければなりません。

 そこで、「知と癒しの匠を創造する」を本学のミッションといたしました。「知」とは知識と技術からなり、「癒し」は教養と感性とからなります。医療における「知」はその機軸であり、「癒し」はその潤滑油であり、これが融合するところに、「匠」への道が拓かれるということを意味します。

 医療とは「知」と「癒し」という縦糸と横糸が織り成すアートであり、本学の目指す医療人養成はこれに依ります。
 本学では三つの教育理念を掲げております。

1. 幅広い教養と 豊かな感性を備えた人間性の涵養を目指す

 論語に『君子は、器ならず』とあります。ここで言う「器」とは特定の目的に使用される道具です。「君子」すなわち学者や聖人は単なる専門家であってはいけない、あらゆる多様性に対応できる幅広い知識と豊かな感性を備えていなければいけない、と言っております。医療人こそ、ここで言う「器」であってはならないのです。

 また『一言にして以て身を終うるまでこれを行うべき者ありや』『それ恕か、己の欲せざる所を人に施すこと勿かれ』との遣り取りがあります。孔子の弟子が、「生涯守るもので一つを挙げるとしたら、それは何でしょうか」と尋ねたところ、「それは恕。自分にして欲しくないことは、人にしてはならない」と答えております。さらに曽子は『夫子の道は、忠恕のみ』と、「老師の人生は忠(まごころ)と恕(思いやり)、それに尽きます」と言い添えております。「忠」とは、自分の良心に忠実なこと。しかし、それだけでは他人に通用しない。そこで「恕」すなわち他人の身になって考える知的な同情、単なる優しさ、憐みではなく、幅広い教養に根づいた同情を併せ持つことが大切だと説明を加えております。

 「忠」と「恕」とが一体となって、はじめて医療人たり得ると言えます。

 医療の現場では、私たちは当然最善を尽くします。しかしそれは、事に当たっての決意を表すものであり、最後に至って「最善を尽くしました」と済ませることはできません。それは単なる自己満足にしか過ぎないからです。医療人の真の達成感とは、患者さんあるいはご家族の方々の「生きる喜び」を取り戻した姿、感動に接してはじめて得られるものです。そうした境地に達するためには、病める人と向き合う私たちは、先ず患者さんの痛みを理解し、尚且つ患者さんを取り巻く様々な状況、家庭環境や仕事、価値観等の情報を共有できるようでなければなりません。

 それには、教養教育を通じて、幅広い知識や思考法などを獲得し、豊かな教養と人間への深い洞察力、高い倫理観と説明能力を磨き上げておく必要があります。

2. 自己問題提起、自己問題解決型の想像力豊かな人材を養成する

 漢方医が薬を入れておく、小引き出しが数多くある箪笥を百味箪笥あるいは薬味箪笥といいます。学生諸君は学生時代に習得した知識や技術を、その都度自ら小引き出しを作って、自ら百味箪笥に詰め込んでゆかなければなりません。そして臨床や研究に当たって、自らの判断で、時にはいくつもの引き出しを開け、知識と技術の組み合わせを展開してゆくことになります。知識を通して技術を体得し、その技術を通してまた新たな知識を得る。そんな繰り返しが生涯続くことになります。

 十分な知識、技術を身につけて、初めて的確な問題発見ができ、そして適切な問題解決が可能となります。「知」と「技」にゆとりを得るには、努力、忍耐が不可欠であり、それに負けない「気力と体力」も必要です。

 『学びて思わざれば則(すなわ)ち罔(くら)く、思いて学ざれば則ち殆(うたが)う』 これは、カントの批判哲学『知識は経験と共にはじまるが、思惟がなければ盲目となる』を連想させる孔子の発想です。知識や情報を沢山得て、どれだけ習っていても自分で考えてみないことには、自分の人生でどう活かせばよいのか分からない。逆に、先人の知識を無視し、個人の思案だけに頼ると独善的になり過ぎ、これまた生きた智慧には繋がらないということです。

 学生諸君には、教養科目、専門科目のいずれにおいても、決して蔑ろにすることなく自ら学んで、自らに問いかける学問をしていただきたい。そして自ら答えを導き出す能力を自ら育む習慣を身につけていく。それを手助けするのが大学であり、そこは自律するための場であることを弁えておく必要があります。

3. 国際感覚と国際競争力に優れる人材を養成する

 本学は、臨床・研究面における国際的リーダーの養成を目標に掲げ、様々な海外研修奨励制度を立ち上げております。

 全学的には学部学科ごとに成績・就学態度の優秀者(10名)を数ヶ月にわたり海外に研修派遣しております。

 別途、医学部医学科では、米国ハーバード大学(8人派遣)における3か月間の臨床実習と、英国インペリアルカレッジ(4人派遣、4人受け入れ)との4ヶ月間の相互教育を実施しています。このプログラムも教育・研究面で高い評価を得ていることから、今年度新入生から本学独自の新しいカリキュラム「医歯学融合教育」を開始しました。

 昨年度から、本学の海外研究拠点、新興・再興感染研究所(ガーナ)、大腸がん研究所(チリ)に研究体験として学生(10名)を派遣しました。

 大学院学生には「大学院学生研究奨励賞(海外研修奨励金)」や、教員・研究者には海外等で自己研鑽のチャンスを与えるサバテイカル制度を創設するなど、海外での研究活動を経験することを奨励しております。難治疾患研究所では「国際研究者海外派遣プログラム」を、生体材料工学研究所では「国外研究機関派遣武者修行プログラム」を推進しております。

自分自身を磨こう

 『学んで時に之を習う、亦説(よろこ)ばしからずや。有朋(とも)、遠きより方(なら)び来る、亦説ばしからずや。人知らずして慍(いか)らず、亦君子ならずや』

 書物や師匠について学び、そして反復練習実践していくと自ずとわが身に体得されていきます。自分で出来ることを知る、あるいは疑問を抱き、そこに新たな真実を見出すこともあります。これこそ学問することの楽しみです。そうやって修養・研鑽を積むと共感者、同志が遠いところからでも慕い尋ねてきてくれます。これこそ感動するほどにうれしいことです。そこでまた議論し、真実を確信したり、時には全く新たらしい真実に気付くこともあるでしょう。これは何と楽しいことか。そこ至って、はじめて『人知らずして慍らず』という境地に到達します。世の中の人が自分の修得したものを認めてくれなくとも、これを怨まず、咎めず、平然として世に処することができるであろうと締め括っております。これこそ卓抜な研究者、医療人といえるのではないでしょうか。他人がどう思おうが、自分の信念を貫くことの大切さを説いています。


参考文献:『論語』貝塚茂樹 訳注/中公文庫