「腸呼吸の応用により、呼吸不全の治療に成功!」【武部貴則 教授 】
公開日:2021.05.15
― 腸換気技術を用いた新たな呼吸管理法の開発へ光 ―

武部貴則(タケベ タカノリ)教授 創生医学コンソーシアム(右)
岡部 亮(オカベ リョウ)非常勤講師 同上(左)
ポイント
・EVA法は、呼吸不全モデル動物の生命予後を改善できることを明らかにしました。
・EVA法は、モデル動物の検討において明らかな有害事象は認められないことを示しました。
・上記の成果は、呼吸不全に対する新しい呼吸管理法の開発に貢献すると考えられます。
研究の背景
研究成果の概要
まず、マウスに対して腸管内に純酸素ガスもしくは酸素が豊富に溶けたパーフルオロカーボン※4を注入する2つの方法(EVA法、図2A、2D)を開発しました。さらに、マウスⅠ型呼吸不全モデル※1を作成し、EVA法を検証しました(図2B、2C、2E)。次に、ラットを用いて、治療による重篤な有害事象が認められないか安全性試験を行いました。慶応義塾大学医学部・小林英司客員教授協力の下、ブタモデルを用いてEVA法の有効性検証を実施しました(図2F)。

図1. EVA法の概要図
ドジョウが低酸素環境下で腸呼吸をしていることを踏まえ、マウス・ブタなどの哺乳類においてEVA法の有効性を検証。呼吸不全の患者さんに対してもEVA法が有効となる可能性がある。

図2.腸換気法による致死的な低酸素血症の顕著な改善
A 酸素ガス換気(IGV)の概要
B 致死的低酸素換気マウスでの対照群(Control)、酸素ガス換気群(IGVのみ)、粘膜剥離前処置された酸素ガス換気群(IGV+粘膜剥離)の生存率
C 致死的低酸素換気マウスでの粘膜剥離前処置された酸素ガス換気(IGV+粘膜剥離)を伴う心臓左心室(左室)の酸素分圧
D パーフルオロカーボン(PFC)液体換気(ILV)の概要
E 致死的低酸素換気マウスでのPFC投与後60分、120分時点での心臓左心室(左室)の酸素分圧の改善
F 致死的低酸素換気ブタでのPFC投与前後の動脈血酸素飽和度と酸素分圧
用語解説 PaO2:動脈血中の酸素分圧、SpO2:動脈血中の酸素飽和度、Control:治療を行っていない群、PFC:パーフルオロカーボン
研究成果の意義
用語解説
※1呼吸不全・・・呼吸不全とは様々な病気によって呼吸する機能が低下した結果、血液中の酸素濃度が異常に低くなったり、二酸化炭素が異常に高くなったりする病気です。血管(動脈)の血中酸素分圧が60 mmHg以下になることを呼吸不全と定義し、二酸化炭素の増加が伴わない場合(45 mmHg以下の場合)をⅠ型呼吸不全、二酸化炭素の増加を伴う場合(45 mmHgを超える場合)をⅡ型呼吸不全といいます。
※2人工肺(ECMO)・・・ECMOはExtracorporeal membrane oxygenationの略です。人工肺とポンプを用いて体外循環回路によって生命維持することが可能になっています。重症の呼吸不全や循環不全の患者さんに用いられ、新型コロナウイルス感染症の患者さんの一部に対しても用いられています。
※3腸呼吸・・・ドジョウは低酸素環境になると、腸を介して酸素を取り込むことが知られています。酸素を取り込んでいる後腸といわれる領域では腸粘膜が菲薄化し、毛細血管が豊富であることが知られています。
※4パーフルオロカーボン・・・炭素とフッ素のみから構成される化学物質です。酸素が非常によく溶けることが知られています。現在日本では眼科の手術の際に用いられることがあります。
論文情報
掲載誌:Med (オンライン版:2021年5月14日)
論文タイトル:Mammalian Enteral Ventilation Ameliorates Respiratory Failure
著者:Ryo Okabe, Toyofumi F. Chen-Yoshikawa, Yosuke Yoneyama, Yuhei Yokoyama, Satona Tanaka, Akihiko Yoshizawa, Wendy L Thompson, Gokul Kannan, Eiji Kobayashi, Hiroshi Date, Takanori Takebe
研究者プロフィール

東京医科歯科大学 統合研究機構
先端医歯工学創成研究部門 創生医学コンソーシアム 教授
・研究領域
幹細胞生物学、再生医学

東京医科歯科大学 統合研究機構
先端医歯工学創成研究部門 創生医学コンソーシアム 非常勤講師
・研究領域
呼吸器領域全般
問い合わせ先
東京医科歯科大学 統合研究機構
教授 武部貴則
TEL: 03-5803-4157
E-mail: ttakebe.ior@tmd.ac.jp
東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器外科学
教授 芳川豊史
TEL: 052-744-2375
E-mail: tyoshikawa@med.nagoya-u.ac.jp
京都大学 呼吸器外科
教授 伊達洋至
TEL: 075-751-4975
E-mail: hdate@kuhp.kyoto-u.ac.jp
<ブタモデルに関すること>
慶應義塾大学医学部
客員教授 小林英司
TEL: 03-5315-4090
E-mail: organfabri@keio.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
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名古屋大学医学部・医学系研究科総務課総務係
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