「 ヒトiPS細胞から腱様組織を作製 」【淺原弘嗣 教授】
― 腱損傷の新たな治療開発へ期待 ―
ポイント
- ヒトiPS細胞※1から間葉系幹細胞を誘導し、さらに腱靱帯特異的な転写因子であるMKX※2を導入して3次元培養を行うことで腱様組織(bio-tendon)を作製しました。
- 作製したbio-tendonをマウスの腱断裂モデルに移植したところ、組織学的、生体力学的に腱修復が改善しました。
- 本研究グループの開発したbio-tendonは、腱損傷治療に対する有望な治療戦略になると考えられます。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科システム発生・再生医学分野の淺原弘嗣教授らは、本学生体材料工学研究所岸田晶夫教授・木村剛准教授らとの共同研究で、人工多能性幹細胞(iPS細胞)より間葉系幹細胞(MSC)へ誘導し、MKXを導入の上で3次元培養を行うことで、bio-tendonの作製に成功しました。この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出(研究開発総括:曽我部正博)」における研究開発課題「腱・靱帯をモデルとした細胞内・外メカノ・シグナルの解明とその応用によるバイオ靱帯の創出」(研究開発代表者:淺原弘嗣)、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI)の支援のもとおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Tissue Engineering(ジャーナル オブ ティシュー エンジニアリング)に、2022年1月21日、オンライン版で発表されました。
研究の背景
そのため、本研究グループは、iPS細胞と腱・靱帯特異的転写因子MKXに着目し、3次元培養と伸展刺激培養を組み合わせ、人工的に腱様組織を作製することで、腱損傷の新たな治療方法を開発することを目指しました。
研究成果の概要
臨床応用に向けて、免疫原性と腫瘍化の危険性を克服するために、作製したbio-tendonに高圧処理による脱細胞化と化学的加橋を加え、引張試験を行いbio-tendonの力学的強度を評価しました。その結果、Mkx-bio-tendonはGFP-bio-tendonと比較して高い張力(MPa)とヤング率(Mpa)などの各項目で力学的に強固な値を示しました(図2)。

図1 新型チャンバーを用いて、iPSC-MSCに伸展刺激を加えながら3D培養することで、bio-tendon作製することができる。
(a) GFP-bio-tendonとMkx-bio-tendonから均一な太さのbio-tenonが作製出来た。
(b) 走査型電子顕微鏡所見では、GFP-bio-tendonと比較してMkx-bio-tendonでは伸展刺激方向に配列している。

図2 bio-tendonの力学的強度の評価
張力(MPa)、ヤング率(Mpa)は、Mkx-bio-tendonの方がGFP-bio-tendonより有意に高値であった。エラーバー:標準誤差、***p < 0.005、**p < 0.01.

図3 マウスアキレス腱へのbio-tendon移植6週後の組織像
Mkx-bio-tendon移植群では配向性のあるコラーゲン線維が確認できたが、Gel移植群とGFP-bio-tendon移植群ではそうした変化はなかった。

図4 移植6週後のアキレス腱の力学的強度評価
張力(MPa)、ヤング率(Mpa)は、Mkx-bio-tendon移植群がGel移植群、GFP-bio-tendon移植群より有意に高値であった。エラーバー:標準誤差、***p < 0.005、*p < 0.05、N.S.: 有意差なし
研究成果の意義
用語解説
繰り返し分裂・増殖することが可能な自己複製能と、様々な細胞へ分化する能力を合わせ持つ人工の多能性幹細胞。
※2 MKX
腱靱帯特異的に発現しており、腱靱帯細胞としての機能維持に関連する遺伝子の発現を活性化することにより、腱靱帯の発生・再生過程に関与している。
論文情報
掲載誌: Journal of Tissue Engineering
論文タイトル: Generation of a tendon-like tissue from human iPS cells
DOI: https://doi.org/10.1177/20417314221074018
研究者プロフィール

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
システム発生・再生医学分野 大学院生

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
システム発生・再生医学分野 教授
・研究領域
分子生物学(遺伝子発現)、発生・再生医学、整形外科学、リウマチ学
問い合わせ先
<研究に関すること>
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
システム発生・再生医学分野 氏名 淺原 弘嗣 (アサハラ ヒロシ)
E-mail:asahara.syst[@]tmd.ac.jp
<報道に関すること>
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
E-mail:kouhou.adm[@]tmd.ac.jp