「バセドウ病の再発を高精度に予測する新しいバイオマーカーを発見」【橋本貢士 准教授】
ポイント
● | 臨床上問題となっているバセドウ病の再発を高精度に予測する新しいバイオマーカーSiglec1を発見し、甲状腺専門病院を含む、国内の4施設(東京医科歯科大学、群馬大学、隈病院、伊藤病院)で臨床研究を行い、その臨床応用が可能であることを明らかにしました。 |
● | 難治性バセドウ病の病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます。 |
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 メタボ先制医療講座の橋本貢士寄附講座准教授は、白血球中のSialic acid-binding immunoglobulin-like lectin1: Siglec1(シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン1)遺伝子発現レベルがバセドウ病の再発を高精度の予測する新しいバイオマーカーであることを発見し、同研究科 分子細胞代謝学分野の小川佳宏教授の協力のもと、群馬大学、隈病院(神戸)、伊藤病院(東京)と共同して臨床研究を行い、その臨床応用が可能であることを明らかにしました。この研究は日本甲状腺学会ならびに厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)「ホルモン受容機構異常に関する調査研究」および日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「ホルモン受容機構異常症診療ガイドライン作成ためのエビデンス構築に関する研究」の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、米専門誌Thyroid(サイロイド)に、2017年10月18日午前0時(米国東部時間)にオンライン版で発表されました。
研究の背景
バセドウ病は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)レセプター抗体(TRAb)が体内で産生されることで甲状腺を刺激し、過剰な甲状腺ホルモン分泌を惹起する自己免疫疾患です。我が国では抗甲状腺薬による薬物療法が最も多く選択されていますが、寛解導入後の再発率が高く、臨床上の大きな問題になっています。現在、再発の予測に寛解時の血清TRAb値が主に用いられていますが、精度は不十分で、高率に再発を予測するバイオマーカーの開発が臨床現場で切望されていました。
研究成果の概要
研究グループはバセドウ病の再発を繰り返す患者さんの末梢血白血球において、細胞接着分子であるSialic acid-binding immunoglobulin-like lectin-1(Siglec1)(図1)遺伝子発現が著明に増加していることをDNAマイクロアレイにより見いだしました。本研究では東京医科歯科大学、群馬大学、隈病院、伊藤病院において、Siglec1がバセドウ病の再発を予測する新しいバイオマーカーとなり得るかどうかを検証しました。まず後ろ向き研究として寛解群(non-R)187 名(男性39名、年齢平均48.8±13.1歳。女性148名、年齢平均 52.4±14.0歳)および再発経験群(R) 171名(男性40名、年齢平均47.7±14.7歳。女性131名、年齢平均 47.3±13.6歳)のエントリーを得て解析を行いました。Siglec1遺伝子発現レベルは、non-R群で中央値201.1コピー、R群で368.8コピーとR群で有意に高値を示しました(P < 0.0001, Student’s unpaired t-test)。ROC(Receiver Operating Characteristic)解析により、再発経験のSiglec1 遺伝子発現レベルのカットオフ値は258.9コピーと算出し、その値に基づいた治療終了時のSiglec1 遺伝子発現レベルと再発の有無を、55名のバセドウ病患者に対して120ヶ月間に及び、前向き研究を行ったところ、治療終了時のTRAb値と比較して有意に高精度に再発を予測しました(P = 0.022, the Log-rank test) (図2)。さらにTRAb値がバセドウ病の病勢を反映する一方で、Siglec1 遺伝子発現レベルは病勢に関わらず、ほぼ一定レベルに維持されており、バセドウ病の難治性(治りにくさ)を規定している可能性が示唆されました(図3)。
研究成果の意義
バセドウ病の寛解時にSiglec1遺伝子発現レベルによって再発を高精度に予測することで、再発防止のために患者さんひとりひとりに正確医療(precision medicine)を行うことが可能になり、患者さんの生活の質の向上が期待できます。
さらにSiglec1は難治性バセドウ病の病態解明のてがかりとなることが期待されます。
さらにSiglec1は難治性バセドウ病の病態解明のてがかりとなることが期待されます。
論文情報
掲載誌: Thyroid
論文タイトル:Sialic acid-binding immunoglobulin-like lectin1 as a Novel Predictive Biomarker for Relapse in Graves’ Disease -A multicenter study-
論文タイトル:Sialic acid-binding immunoglobulin-like lectin1 as a Novel Predictive Biomarker for Relapse in Graves’ Disease -A multicenter study-
問い合わせ先
研究に関すること
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
メタボ先制医療講座 寄附講座准教授 氏名 橋本 貢士(ハシモト コウシ)
TEL:03-5803- 5216 FAX:03-5803-0172
E-mail:khashimoto.mem@tmd.ac.jp
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