「免疫の司令塔、樹状細胞の源となる細胞を発見」【樗木俊聡 教授】

「免疫の司令塔、樹状細胞の源となる細胞を発見」【樗木俊聡 教授】

樗木 俊聡 教授
難治疾患研究所 生体防御学分野(右)
小内 伸幸 講師
同上(左)

~ワクチン開発や自己免疫病治療に新たな視点~

概要

JST 課題達成型基礎研究の一環として、東京医科歯科大学 難治疾患研究所の樗木 (オオテキ)俊聡 教授らは、免疫システムの司令塔である樹状細胞(DC)注1)だけを生み出す源の細胞を新たに発見しました。

DCは、従来型DC注2)と形質細胞様DC注3)に大別され、どちらのDCも免疫細胞の調節に大切ですが、とりわけ形質細胞様DCはウイルス感染やある種の自己免疫病で大量のI型インターフェロン注4)を産生することを特徴とし、ウイルス感染や自己免疫病に対する医療応用の観点から非常に重要です。DCだけでなくほかの免疫細胞も生み出すDC前駆細胞の存在は知られていましたが、DCのみを生み出す前駆細胞は本研究グループが、スイスの研究グループと共同で、初めて2007年に発見しました。しかし、この前駆細胞から作られるDCの大多数が従来型DCであったため、形質細胞様DCを作り出す能力に優れた「形質細胞様DC多産型」前駆細胞の存在が予測され、その同定が待望されていました。

本研究グループは、今回新たに、形質細胞様DCを作り出す能力に優れた、「形質細胞様DC多産型」前駆細胞を発見しました。そして、以前報告した「従来型DC多産性」前駆細胞と今回発見した「形質細胞様DC多産性」前駆細胞をまとめて、「共通DC前駆細胞」と定義しました。本研究成果は、血球分化経路図に新たにDC分化経路図を追加する、免疫学・血液学分野において重要な発見です。今後、DCだけを生み出す「共通DC前駆細胞」を用いた、感染症・がん・自己免疫病に対する新たな予防法・治療法の開発が進むものと期待されます。

本研究は、JSTの戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として行われました。本研究成果は、2013年4月25日12時(米国東部夏時間)に米国科学誌「Immunity」のオンライン速報版で公開されました。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
  研究領域:「アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」
     (研究総括:菅村 和夫 宮城県立病院機構 理事長)
  研究課題名:「樹状細胞制御に基づく粘膜免疫疾患の克服」
  研究代表者:樗木 俊聡(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 教授)
  研究期間:平成20年10月~平成26年3月
JSTはこの領域で、アレルギー疾患や自己免疫疾患を中心とするヒトの免疫疾患を予防・診断・治療することを目的に、免疫システムを適正に機能させる基盤技術の構築を目指しています。上記研究課題では、主に粘膜組織における樹状細胞群の免疫応答・免疫寛容誘導機構を明らかにすることで、粘膜免疫疾患を予防・治療する技術開発を目指します。

研究の背景と経緯

DCは1973年にラルフ・スタインマン博士により発見され、2011年、博士がその功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞しました。現在では、DCは、感染など緊急時における免疫応答の発動のみならず、定常状態における免疫寛容注5)の誘導維持になくてはならない細胞として理解されています。血液細胞は造血幹細胞を源とし、DCも例外ではありませんが、DCのみに分化の方向性が運命決定された“DC前駆細胞”を発見することは、免疫細胞分化系譜への新たな発見という観点と同時に臨床応用という観点からの興味を包含する重要な研究といえます。本研究グループは、これまでにスイスの研究グループとの共同研究として、DC前駆細胞を同定し報告しましたが、本前駆細胞から分化するDCの大多数が従来型DCであったため、形質細胞様DCへの分化能に優れた「形質細胞様DC多産性」前駆細胞の存在が予測され、その細胞の同定が待たれていました。

研究の内容

これらの背景に基づき、約5年の歳月をかけて、マウス骨髄細胞を用いて以前報告したDC前駆細胞と近縁の分画を詳しく調べた結果、形質細胞様DCへの分化能に優れた「形質細胞様DC多産性」前駆細胞の同定に世界で初めて成功しました。新たに発見した「形質細胞様DC多産性」前駆細胞は、以前報告されたものに比べ、形質細胞様DCを7-8倍多く作り出すことができました(図1)。また、形質細胞様DCの分化に必須の転写因子E2-2注6)を非常に高く発現していました(図2)。また、DCのみを作り、他の血球細胞をまったく作らないため、以前報告したDC前駆細胞と今回のDC前駆細胞をまとめて「共通DC前駆細胞」と定義しました。さらに、共通DC前駆細胞が、多能性前駆細胞から直接分化する経路の存在も明らかにしました(図3)。本研究成果は、DC分化系譜を書き換え、免疫学・血液学分野に大きなインパクトを与えるものです。

今後の展開

現在、感染症やがんに対するワクチンの標的細胞としてDCの重要性がクローズアップされています。これとは対照的に、なんら感染のない定常状態では、DCはむしろ免疫寛容の誘導・維持を介して自己免疫病を抑制していることも明らかになってきています。1個から500-1,000個のDCを生み出す、かつ他の血液細胞を生み出さないDC前駆細胞の発見は、感染症・がん・自己免疫病に対する、同細胞を用いた新たな予防・治療技術の開発が期待できるものです。

参考図

図1.新たな樹状細胞前駆細胞の発見
新たに発見したDC前駆細胞(「形質細胞様DC多産性」)は従来のDC前駆細胞(「従来型DC多産性」)よりも優れた形質細胞様DCへの分化能を持っていた。

図2.DC前駆細胞におけるE2-2の発現
新たなDC前駆細胞は造血幹細胞や他の前駆細胞よりも形質細胞様DCの分化と維持に重要な転写因子E2-2を高く発現していた。

図3.共通樹状細胞前駆細胞は多能前駆細胞から分化してくる
全ての血液細胞は造血幹細胞から様々な前駆細胞を経由して分化する。本研究により、DC前駆細胞が多能性前駆細胞から直接分化する経路の存在も明らかになった。

用語解説

注1) 樹状細胞(DC:Dendritic Cell)
 白血球の一種。無数の突起を持つ特徴的な形態から名付けられた。全身に分布し、様々なサブセット(仲間)が存在する。免疫システムの維持や反応を制御する重要な細胞。

注2) 従来型DC
 DCサブセットの一種。がんや病原性微生物由来の抗原を捕捉し分解してT細胞に提示する。また生理活性物質サイトカインを産生して免疫反応を誘導する。

注3) 形質細胞様DC
 DCサブセットの一種。病原性微生物由来の分子を認識してウイルス排除に重要な生理活性物質I型インターフェロンを大量に産生する細胞。

注4) Ⅰ型インターフェロン
 ウイルス感染に対して免疫系を調整する働きを持つインターフェロンの総称である。Ⅰ型IFNの働きを強めるⅡ型IFNなどと区別するために「Ⅰ型」の呼称があるが、通常インターフェロンというとⅠ型IFNのことを指す。

注5) 免疫寛容
 ある抗原に対する免疫応答が失われている状態。自己のもつ抗原に対しては免疫寛容の状態が保たれている。

注6) E2-2
 形質細胞様DCの分化や維持に必須な転写因子。

論文タイトル

“A clonogenic progenitor with prominent plasmacytoid dendritic cell developmental potential”
(卓越した形質細胞様樹状細胞分化能を持つ新しい樹状細胞前駆細胞の発見)

お問い合わせ先

研究に関すること

樗木俊聡(オオテキ トシアキ)
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生体防御学分野 教授
小内伸幸(オナイ ノブユキ)
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生体防御学分野 講師
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
Tel:03-5803-4746(樗木)、03-5803-4762(小内) Fax:03-5803-4747
E-mail:ohteki.bre(ここに@を入れてください)mri.tmd.ac.jp

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