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「腱・靭帯が骨化する病態を解明」【淺原弘嗣 教授】

― ノックアウトラットの作製による、腱分化機構の新たな発見 ―


淺原 弘嗣(アサハラ ヒロシ)教授 大学院医歯学総合研究科システム発生・再医学分野 (右)
伊藤 義晃(イトウ ヨシアキ)テニュアトラック助教 同上 (左)

遺伝子改変ラットを用いて、病的な腱の骨化を抑制する仕組みを明らかにしました。
遺伝子Mkxが、力学的刺激に応答して、腱・靭帯をより強くする機能を解明しました。
遺伝子Mkxを用いた、腱・靱帯の傷害や疾病の診断・治療の開発や、人工靭帯の作製など再生医療への応用が期待されます。

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科システム発生・再生医学分野の浅原弘嗣教授、伊藤義晃助教、鈴木英嗣大学院生の研究グループは、同大学 大学院医歯学総合研究科 整形外科学分野、生体材料工学研究所 物質医工学分野、医歯学研究支援センター、医学部附属病院 高気圧治療部、及び米国スクリプス研究所との共同研究で、ノックアウトラットを作成するという世界的にも先進的な手法を用いて、Mkxという遺伝子の異常が腱の病的な骨化に至ることを見出しました。この研究は文部科学省科学研究費、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)ならびに米国国立衛生研究所(NIH,NIAMS)などの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌その研究成果は、国際科学誌 Proc Natl Acad Sci U S A に、2016年6月27日午後3時(米国東部時間)にオンライン版で発表されました(文献1)

研究の背景

図1 膝の靭帯の欠損と修復

 腱・靭帯は身体の各組織を繋ぐロープのようなもので、この組織が全身の動きを支え、力を伝えることで、“動く”ことが可能になります。その発生・再生のメカニズムはまだ不明の点が多く、腱・靱帯の損傷や疾病の完全かつ早期の治癒は未だ困難です(図1)。私たちは世界に先駆け、腱・靭帯の再生の要となる遺伝子Mohawk (Mkx)を同定していましたが(文献2)、遺伝子改変マウスではサイズが小さいため、十分な生理学的、分子生物学的、組織学的な研究が行えず、更なる研究においては、マウスより大型の動物での遺伝子改変動物の作製が必須となっていました。

研究成果の概要

 新しい遺伝子編集技術であるCRISPR/Cas9システムを導入することで、ラットの遺伝子を改変することに成功しました(図2)。今まで主に研究されていたマウスに比べ数倍の大きさがあり、マウスでは困難であった研究を進めることができました。Mkxが欠損すると全身の腱が脆弱になっていることがわかりました(図3)。

図2. Mkxノックアウトラット(左)
とノックアウトマウス(右)

図3. Mkxノックアウトラットにおける
腱の低形成(後肢 屈筋腱)

 ノックアウトラットをさらに詳細に解析すると、出生後まもなくアキレス腱が骨化することが明らかになりました。改変された遺伝子はMkxという腱・靭帯の中心的な遺伝子で、その遺伝子の欠損でラットのアキレス腱の骨化を引き起こすことがわかりました(図4)。

図4. アキレス腱の骨化(左、中心の赤い部分と右の➡の部分)

 このメカニズムとして、腱細胞に対する機械的な伸展刺激(メカノ刺激)が、Mkxという遺伝子スイッチを押すことで、腱・靭帯を守り、骨化を妨げることが明らかとなりました(図5)。

図5. Mkxxを欠失したラットのアキレス腱から得られた
間葉系幹細胞は、より骨化する傾向がみられた(右)

図6. Mkxを欠失したラットを用いて腱の遺伝子プログラムの解明に成功

 さらに、このノックアウトラットから得られた十分量の腱細胞を用い、クロマチン免疫沈降と次世代シークエンサーを組み合わせた研究手法によって、世界で初めて、腱を再生し維持する遺伝子のプログラムを詳細に明らかにすることができました(図6)。

研究成果の意義

図7 力学的刺激(メカノ・ストレス)に応答した腱の疾患と再生

 今まで腱・靭帯の研究はラットを用いて行われてきましたが、ラットでの遺伝子の操作は困難であるため、分子レベルでの研究が十分に進んでいませんでした。今回、ノックアウトラット(遺伝子を改変したラット)を作成することで、ノックアウトマウスでは十分解析できなかった、生理学的な検査や組織的な解析、さらには最先端の分子生物学的な手法を用いた研究が可能となりました。ノックアウトラットを作成することで、今まで困難であった生理学的、分子生物学的な詳細な解析を行い、新たな発見に結び付けた研究成果はこれが世界で初めてです。また、本研究は力学的刺激(メカノ刺激)が生体の中でどのように伝わるかという医学・生物学の大きなテーマにも新しい理解を与えます。この発見を応用することで、腱・靭帯にかかわる傷害や疾病の診断や治療が大幅に進むと考えられます(図7)。
 本研究の成功は、今までのマウスを用いた研究の限界を打ち破り、より大型な動物であるラットなどを用いたより生理学的な医学研究への突破口となることも期待されます。

問い合わせ先

研究に関すること

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
システム発生・再生医学分野 浅原弘嗣(アサハラ ヒロシ)
TEL:03-5803- 5015 FAX:03-5803- 5810
E-mail:asahara.syst(ここに@を入れてください)tmd.ac.jp

報道に関すること

東京医科歯科大学 広報部広報課
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail:kouhou.adm(ここに@を入れてください)tmd.ac.jp

文献

1. Suzuki H, et al. (2016) Gene targeting of the transcription factor Mohawk in rats causes heterotopic ossification of Achilles tendon via failed tenogenesis. Proc Natl Acad Sci U S A. On line.

2. Ito Y, et al. (2010) The Mohawk homeobox gene is a critical regulator of tendon
differentiation. Proc Natl Acad Sci U S A 107(23):10538-10542.