神経機能形態学分野 研究室紹介

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研究内容とその背景

私たちの分野は、1966年7月に萬年 甫 教授によって開設された解剖学第三講座に由来し、1990年5月着任の中村 泰尚 教授のあとを引き継ぐ形で2005年9月に発足しました。数多くの有為な人材を輩出してきた、良き伝統を誇っています。解剖学担当教室の一つとして、神経系のみならず広く形態学的な観点から、新しい分子や現象を見つける、観察法(新規プローブ・新規測光法にもとづく顕微鏡やイメージング手法)を開発する、という姿勢で研究を進めています。研究テーマは可視化による細胞骨格動態や細胞間コミュニケーションの検出・解明を中心としていますが、世界に先駆けて本質的な学問的課題を解決するためには、基盤となる独自の観察技術開発は欠かせません。私たちはさまざまな顕微測光技術とプローブを活用し、形態変化・機能変化を追う新たな“顕微鏡”を開発することにより、特定の領域にとどまらない未知の現象を発見し、その生物学的意義を解明することを目指しています。

現行の主な研究プロジェクトは以下の通りです。

  • A. 細胞骨格動態調節機構の解明
  • B. 細胞間コミュニケーションの検出
  • C. 新規測光法、イメージング手法の開発

細胞の形態はその機能をしばしば反映します。細胞骨格タンパク質は細胞の形態を支える機能素子であり、特に神経細胞など特徴的な形態を呈する細胞において果たす役割は、形態学的な興味の対象となります。しかし代表的な細胞骨格タンパク質について、中間径フィラメントタンパク質はもちろん、比較的解析の進んでいるとされるアクチンやチュブリンでさえ、動態はもちろん正確な細胞内形態についても理解は不十分です。形態観察に汎用される化学固定法は(一般に考えられている以上に)構造に大きく影響を与え、凍結による物理固定法では固定可能な領域が制限されます。更にそもそも固定してしまっては動態を追うことはできません。進展著しい超解像蛍光顕微鏡を利用すれば動態を追うことは可能になりますが、精密に取得可能なのは蛍光分子の点としての位置情報の集合体です。点像変換の合理的なアルゴリズムが存在しない以上、「像」と解釈されている画像データは厳密にいえば想「像」に過ぎません。細胞骨格タンパク質に限らず生体分子の細胞内動態を正確に捉えるためには、光顕、電顕を問わず現在の顕微鏡技術では不十分です。

この状況を打開するために私たちは新規プローブ開発と測光法開発の両面から試行を重ねてきました(プロジェクトA, C)。その過程で開発に成功した蛍光偏光技術が、細胞骨格タンパク質の動態解析に極めて有効な技術であり、イメージングを含む顕微測光法を一新するインパクトを有することがわかってきています。神経疾患の病理過程のさまざまな局面で細胞骨格関連分子の異常が指摘されていますが、神経細胞における細胞骨格蛋白質の輸送メカニズムと動態制御機構は全くわかっていません。話を神経系に限っても、私たちの研究成果は神経疾患のプロセスの理解に直結する可能性があります。

神経系は環境と生体内との間の出・入力処理、および出入力情報間の統合処理を担う仲介役細胞群から構成されています。神経細胞がその代表ですが、神経系を構成する仲介役細胞の最も重要な機能は、細胞間コミュニケーションです。神経細胞でいえば、シナプスから神経伝導路に至る細胞間相互作用の理解が、神経系の理解に直結します。私たちのグループは、細胞間コミュニケーションを可逆的に検出可能な蛍光プローブと、生体内で機能的な神経伝導路を検出する新規手法の開発を進めています(プロジェクトB)。

顕微測光技術は蛍光技術だけではありません。蛍光標識を前提とする計測には限界があり、可能な限り染色や標識を行わず、生きた状態に近い標本を、できる限り高分解能で観察する手法の開発も必要です。ラマン分光法や質量分析法を利用した新規検出手法の開発も進行中です(プロジェクトC)。

研究室で進行中のプロジェクトは上記に留まりませんが、その多くは学内外の研究室、企業との共同研究です。(例えばラマン分光法では、東京農工大学(三沢和彦教授)、ワイヤード株式会社と共同で科学技術振興機構 研究成果展開事業先端計測分析技術・機器開発プログラム「分子構造指標を用いた生体関連分子の細胞内動態観察装置の開発」の支援を受けてきました。) 国内のみならず、国際共同研究も積極的に推進しています。特に米国ウッズホール海洋生物学研究所とは継続的かつ密接な協力関係にあり、定期的な交流があります。(過去には日本学術振興会 オープンパートナーシップ 二国間交流事業(共同研究):「先進的顕微分光法による顕微鏡開発と応用に関する共同研究」から、現在は日本学術振興会国際共同研究加速基金 国際共同研究強化(B):「生命現象に迫るユニバーサルな蛍光偏光顕微観測法開発」から支援を受けています。)

各研究者は、細胞骨格動態・細胞間コミュニケーション解明を中心とする研究テーマや各種顕微鏡技術、バイオセンサー技術などを介して緩やかに連携、重複しつつ、比較的少人数のチームで独自の研究を極めて活発に展開しています。スタッフのみならず、大学院生や学部学生もそれぞれのテーマにおいて中心的な役割を担い、次世代の研究の潮流を創り出す基礎となる、独創性の高い成果を目標にしています。研究室発足後10年を経て医工・企業連携の進展と共に基礎所見も蓄積し、成果が得られつつあります。

面白そうだと思われた方は、是非一度見学にきてください。ウェブページ上だけでは紹介しきれない雰囲気を知り、説明を聞いた上で、興味を深めた場合には参入を歓迎します。

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