高度進行肝がんへの取り組み

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特色のある治療

はじめに

 当科が扱う肝がん、胆嚢がん、胆管がん、膵がんのような非常に進行が速く、悪性度が高いがんの手術は、施設によっては手術しない場合があります。ただし、ある病院で手術ができないと判断されてもあきらめる必要はありません。

 われわれは難しい手術を簡単にあきらめずに、「腕」と「経験」を活かして難易度が高い手術に取り組んでいます。

 高度進行肝がんとは、

  1. 肝臓の大部分を占拠するがん
  2. 下大静脈などの重要な脈管を巻き込むがん
  3. 肝機能や日常生活を著しく障害するがん

を意味します。

 大量肝切除に下大静脈合併切除が加えられた手術は、1980年Starzlによって世界ではじめて報告されましたが、残念なことに術後20日に亡くなりました。それ以来わずか30年で肝切除の技術は急速な進歩を果たしましたが、高度進行肝がんに対する大量肝切除を伴う下大静脈合併切除再建は依然として難易度が高い手術とされています。肝臓を取り過ぎると肝不全になり、取る量が少ないとがんが残ってしまいます。皮肉なことは、高度進行がんが予備力の少ない肝臓にできやすいことです。障害肝(肝臓の予備力が少ない)の手術には工夫が必要です。

 当科でこの10年間に行った下大静脈合併切除は手術死亡も長期にわたる合併症もありません。他院で手術不能とされた場合でも、最近は術後2週間ほどで退院する傾向にあります。

 当科はすべての手術方針が、毎週月曜日の厳密なカンファレンスにおける活発な討論の末に決定されます。平均的な基準に当てはめるだけのレディメイド(既製品)ではなく、ひとりひとりの病状にあわせたオーダーメイド手術の重要性がわかると思います。

 巨大な高度進行肝がんであっても、下大静脈や重要な血管を巻き込んでいる高度進行肝がんであろうと肝機能が極めて制限された巨大肝がんであろうと外科医として大切な心得は
「腕(技術)」と「経験(知識)」と「あきらめない心」
であると言えます。
 これからも外科医の心得を大切にして参ります。

手術の安全性・根治性を確保するための工夫

 当科では、具体的に以下のような点で工夫しています。

  • 術前CTより最新3D合成技術を応用したシミュレーション
  • 術中ソナゾイド造影超音波(病変を明瞭に描出し、微小がんも見落とさない検査)によるナビゲーション

肝切除における3次元画像支援ナビゲーション

 肝臓は動脈、門脈、静脈と3種の血管、肝内を走行する胆管が複雑に絡み合った臓器であり、その中にできた肝腫瘍を切除するためには、それぞれの脈管の立体的な解剖の把握が不可欠です。この3次元画像化した仮想肝は、画像支援ナビゲーションシステム上で各方向から自由自在に観察することができ、術前術中に肝切除を行う際の立体解剖の把握に役立ちます。肝臓の解剖はひとりひとり個人差があり、術前の3次元画像を詳細に検討して切除シミュレーションをします。

画像支援ナビゲーションはコンピュータ断層撮影の画像(CT、MRI)情報から、Synapse Vincent(富士フィルムメディカル)というコンピューターソフトウエアを用い、動脈、門脈、静脈の3種の血管を描出し3次元画像化します。その3次元画像から各血管の支配領域の肝容量を計算し、正確な切除肝容量と予定残存肝容量を推定します。これらの情報を元に、最も安全な術式を選択します。

 患者さんの肝機能(肝臓の状態)によって、切除できる肝臓容量には限界があります。特に肝炎、肝硬変を背景としてできた肝がん(肝細胞癌)の場合は慎重に検討する必要があります。安全にかつ適切な肝切除を行うためには、腫瘍を十分に切除し、なおかつ切除許容量の範囲内にあるように肝離断ラインを設定する必要があります。  われわれは切除シミュレーションを術前に行い、切除予定肝容量を計算し安全に肝切除を行うように努めています。

肝切除における3次元画像支援ナビゲーション
肝内脈管と腫瘍の描出
肝切除における3次元画像支援ナビゲーション
切除範囲と残肝容積のシミュレーション

術中造影超音波検査

 肝臓手術の際には、肝臓の内部にある腫瘍を確認する為に超音波検査を行います。これを術中超音波検査と呼び、安全な肝臓手術を行うために重要な検査です。

 当科では従来の術中超音波検査に加えて、2007年8月から超音波造影剤であるソナゾイド®という薬剤を用いて術中に造影超音波検査を導入しており、その有用性を報告してきております。
具体的には、

  • 明瞭に病変を描出することができる
  • 術前検査や従来の術中超音波検査ではわからなかった小さな病変が検出できる
  • 病変内部の血管構造を描出できる
といった点で、従来の術中超音波検査よりも優れていると考えております。

術中造影超音波検査
従来の術中超音波検査では病変の存在は確認できますが、病変と周囲の肝臓との境界がはっきり分かりません。
術中造影超音波検査
術中造影超音波検査を施行すると、周囲の肝臓が造影される(白く描出される)のに対して、病変は造影されない(黒く描出される)ので、境界がより明瞭に描出されます。