膵神経内分泌腫瘍(P-NETS)

カテゴリ
膵臓の病気と治療

NET(神経内分泌腫瘍)とは何ですか?

 具体的にはインスリノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド腫瘍などを含めた神経内分泌腫瘍の総称です。ホルモン症状があるものを機能性、ないものを非機能性と呼びます。進行は比較的穏やかですが、急激に進行するものもあり、注意が必要です。最近ではiPhoneで有名な Apple社のCEO スティーブ・ジョブズ氏が罹患した病気です。膵NETの年間初診数は人口10万人あたり2.7人と稀な疾患です。

NETの専門外来って何ですか?

 2011年7月に開設しました。日本初の専門外来ということで2014年12月までに全国から194人の患者様が当院を受診されており、年々増加傾向にあります。ちなみに2010年の全国集計では膵NETが1273人、消化管NETが2093人と報告されています。以下に年度別の推移と2011〜2014 年に当科神経内分泌腫瘍外来を受診した患者様の分布を示します。2014年は61人が受診されました。

当科初診患者の分布

東京医科歯科大学肝胆膵外科が扱う神経内分泌腫瘍(NET)を教えて下さい

 膵臓、消化管すべての神経内分泌腫瘍(NET)を対象としています。NETは肝転移を起こしやすく、診断、治療が非常に重要です。肝転移をどう治療するかで大きな違いがありますが、未だに日本のコンセンサスは出来ていません。NETは、世界中の国と地域において特徴が異なるため、日本も独自の診断治療方針を決めていかなければなりません。当科は日本初のNET外来を創設し、全国から多くのNET患者が集まり、豊富な経験をもとに独自の診断/治療方針を作り、この稀少な病気と戦っています。

NETは遺伝ですか?

 遺伝のものと遺伝ではないものがあります。遺伝の場合はMEN-I型、VHL(フォンヒッペルリンドウ病)などがあります。診断と治療は遺伝子の種類によって変わって来ますのでさらに専門的な判断が必要になります。当院遺伝子外来とがっちりタッグを組んで腫瘍の悪性度予測や、遺伝病が将来に来すその他の悪性腫瘍の判断などを行っています。

 遺伝ではないと判断されているものも遺伝の可能性が否定できない場合には遺伝子診断を行うことで治療方針が変わることもあります。

NETは癌ですか?

 初診時に転移や浸潤がないNETが癌であるかどうかは極めて専門的な判断が必要です。NETの中で転移のあるものや周囲組織への浸潤があるものを癌と分類していた時代があったように、癌かどうかの診断は非常に困難です。潜在的な悪性度を判断するためにWHO2010年分類が提唱されましたが、必ずしも十分とは言えません。

 下図(上)は米国で提唱された最新のNET分類です。WHO分類との違いは、G3がNEN-G3とNECに区別されたところですが、下図(下)の当施設の生存率においては、G1とG2、NEN-G3とNECにはそれぞれ差がなく、潜在的な悪性度診断の新しい方法を確立する必要があると思います。

WHO2010分類当施設の生存率

症状を教えてください。

 インスリノーマはインスリンを産生する機能性腫瘍で主症状は低血糖です。「会社で仕事中に眠ってしまった」など、不運なことに病気だと思われないこともあります。治療しても治らない胃潰瘍はガストリノーマを疑わなければなりませんし、融解性移動性紅斑はガストリノーマの特徴的な症状だと言われています。激しい水様性の下痢はVIPomaを疑います。一日10~50回の下痢を起こすこともあります。皮膚の紅潮、心疾患、気管支収縮はカルチノイド症候群を疑います。非機能性では症状が出づらいため、病気の発見が遅れます。

非機能性NETを見つける方法はあるのですか?

 偶然に見つかることが多いので、腹部造影CT検査や腹部超音波検査をしてみないとわかりません。当科に受診された方で、腫瘍が大きいために胃を圧迫して食事が食べづらくなった人もいますが、肝転移でみつかる例もよくあります。ソマトスタチン受容体シンチで見つかる腫瘍もあります。

小さい非機能性NETは治療しなくてもいいですか?

 NETは原発巣が小さくとも10㎝を超える肝転移を来すこともあります。また2014年の大規模な米国の報告では5mm以下でもしばしばリンパ節転移、肝転移を来すことが知られています。日本のガイドラインでは非機能性はリンパ節郭清を伴う定型切除が推奨されていますし、米国のNCCNのガイドラインでも例外は設定されていますがほぼ同様の方針が推奨されています。経過観察も可能ですが、患者さん一人一人の状況に合わせて専門的に判断する必要があります。

ソマトスタチン受容体シンチ(SRS; Somatostatin Receptor Scintigraphy)とは何ですか?

 SRSは日本では認可されておりませんが、海外から検査薬を取寄せて施行しています。1cm以上のNETが描出できるので 転移巣を含めた全身検索に極めて有用です。当院ではSRSと手術中のソナゾイド造影超音波検査(CEIOUS)を組み合わせて診断の精度を高めています。これらは世界初の試みですが、従来の検査でわからない腫瘍がわかるようになりました。CEIOUSのparametric imageは特に重要で、CTなどでわからない情報が得ることができます。NETと膵癌の典型像を動画で示します。

NET

膵癌

手術と抗癌剤のどちらを選べばよいでしょうか?

 NETは、膵癌や食道癌などと違って腫瘍の成長スピードが遅いので、外科手術が非常に有効です。肝臓や肺への転移も手術で取ることができるかが重要です。現時点で手術と比較できるレベルの抗癌剤はありませんが、血管内治療(肝動脈塞栓療法)や、その他の治療が有効な場合はそちらを優先することもあります。患者さん一人一人の状況に合わせた専門的な判断が必要です。ある特徴をもつNETに有効な薬も使用されるようになり、症状を緩和するだけでなく、新しいオプションとして期待されています。下図は手術を行った2例です。

肝転移の治療法がないと言われたのですが…

  われわれは肝転移の積極的な切除をしています。われわれの経験では積極的な手術や動脈塞栓療法が極めて有効です。上は手術、下は動脈塞栓術の例です。

手術記録 G2原発非切除

最後に東京医科歯科大学肝胆膵外科の特徴を教えてください

 当院は2015年5月現在で222人の神経内分泌腫瘍の患者様が来院されました 。2010年の全国集計では悪性である膵NECは95人、消化管NECは 130人と報告されていますが、当科のNECは40人であり、NECと診断されて来院されるケースが多い傾向にあります。また他院で非切除とされたNEC であっても、積極的な切除を考えます。特に肝転移の治療法は専門的な判断が重要であり、肝転移の切除方針のセカンドオピニオンを求めて当科セカンドオピニオン外来を受診する患者様が急増しています。

これまでに診断、治療方針に関する発表を積極的に行ってきました。

  1. GEP-NET肝転移における原発切除の意義 第2回日本神経内分泌腫瘍研究会学術集会 シンポジウム 2014年9月20日 東京
  2. 膵神経内分泌腫瘍の外科治療をどう行うか Medical Tribune 2014年9月号
  3. 増え続けるGEP-NET 問われる外科医のMissionとは? 招待講演 新潟GIST/p-NET学術講演会 新潟 2014.9.5.
  4. P-NETの新しい悪性度診断と肝転移治療の進歩 招待講演 第21回外科フォーラム 東京 2014.7.26.
  5. 手術が進化する分子標的療法 第12回日本臨床腫瘍学会 招待講演 2014年7月17日 福岡
  6. 膵NETの手術適応決定のための予後決定因子 パネルディスカッション 「PNET診療ガイドライン(案)をめぐって」 第45回日本膵臓学会 2014年7月11日 北九州
  7. 神経内分泌癌肝転移の治療戦略 ワークショップ「P-NETの治療戦略」日本肝胆膵外科学会2014年6月11日 アバローム紀の国 和歌山
  8. 膵神経内分泌腫瘍の治療戦略における切除の重要性 第26回日本内分泌外科学会 シンポジウム 2014年5月23日 名古屋
  9. 「本邦における NET 治療の実態―診療ガイドラインへの展開―」神経内分泌腫瘍の治療方針 肝転移の治療. 第114回日本外科学会 ワークショップ 2014年4月5日 国立京都国際会館 
  10. 工藤 篤、有井滋樹.特集/肝胆膵疾患の「予後」の変遷 II 膵疾患 6.膵内分泌腫瘍の予後. アークメディア 66 (3) 523-532, 2013
  11. ガイドライン策定のための膵神経内分泌腫瘍肝転移の治療方針~ 招待講演 NET EXPERT SEMINAR 横浜2013.11.23.
  12. 膵神経内分泌腫瘍の治療戦略 招待講演 Focus on NET学術講演会 Neuroendocrine tumor〜神経内分泌腫瘍を考える〜長岡 2013.11.25.
  13. 膵神経内分泌腫瘍の治療戦略 招待講演 第6回Tohoku-NET Work,山形,2013.9.23.
  14. 神経内分泌腫瘍の治療戦略 招待講演 第25回日本内分泌外科学会総会,山形,2013.5.23.
  15. Kudo A, Akashi T, Kumagai J, Ban D, Inokuchi M, Kojima K, Kawano T, Tanaka S, Arii S. The Importance of Clinical Information in Patients with Gastroenteropancreatic Neuroendocrine Tumor. Hepato-gastroenterology. 2012 Nov-Dec; 59(120): 2450-3.
  16. Kudo A, Ban D, Akashi T, Kumagai J, Aihara A, Inokuchi M, Kojima K, Kawano T, Tanaka S, Arii S. Prognoses of GEP-NETS with undetermined malignant potentials of their primary sites. Hepato-gastroenterology. 2012 Sep; 59 (118): 1682-1686.
  17. GEP-NETs肝転移に対する肝切除の意義 第7回NET WORK JAPAN ANA インターコンチネンタルホテル東京 治療1  2月18日, 2012年
  18. 膵神経内分泌腫瘍における臨床情報の重要性, 第43回日本膵臓学会大会 主題関連セッション「P-NET(1)」 2012年6月29日(金) ホテルメトロポリタン山形, 2012年
  19. 膵消化管神経内分泌腫瘍のMalignant potential 評価, 第24回日本肝胆膵外科学会学術集会 リサーチワークショップ, 2012年
  20. 工藤 篤、有井滋樹.特集/膵神経内分泌腫瘍-Update 2011 5.治療 3)肝転移に対する治療. 「肝胆膵」63巻2号 アークメディア, 2011 317-326
  21. 肝転移症例の治療方針~示唆に富む2症例 第3回 NET FORUM TOKYO 2011年6月17日(金)東京, 2011年
  22. 膵内分泌腫瘍(GEP-NETs)の診断と外科的展望〜適切な指針決定のために〜 第6回 NET Work Japan 2011年1月22日品川, 2011年
  23. 膵内分泌腫瘍の自験例の統括とWHO 分類の問題点, 第110回日本外科学会定期学術集会 パネルディスカッション(19)「内分泌外科における診断と治療の工夫」 2010年4月 名古屋国際会議場, 2010年
  24. 膵内分泌腫瘍の診断治療指針〜今後の展望〜 第72回日本臨床外科学会総会 シンポジウム 2「甲状腺・内分泌外科の課題と展望」 パシフィコ横浜, 2010年

 今後もNETの患者さんの治療成績向上のために、NETとたたかっていきたいと思います。