膵神経内分泌腫瘍(P-NETS)

NET(神経内分泌腫瘍)とは何ですか?

 具体的にはインスリノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド腫瘍などを含めた神経内分泌腫瘍の総称です。ホルモン症状があるものを機能性、ないものを非機能性と呼びます。進行は比較的穏やかですが、急激に進行するものもあり、注意が必要です。最近ではiPhoneで有名な Apple社のCEO スティーブ・ジョブズ氏が罹患した病気です。膵NETの年間初診数は人口10万人あたり2.7人と稀な疾患です。

NETの専門外来って何ですか?

 2011年7月に開設しました。日本初の専門外来ということで2017年11月にまでに全国から397人の患者様が当院を受診されており、日本一のHigh Volume Centerに成長しました。以下に1997年以降の年別推移と2017 年11月までに当科神経内分泌腫瘍外来を受診した患者様の分布を示します。最近は年間70〜80人が受診されております。

当科初診患者の分布

東京医科歯科大学肝胆膵外科が扱う神経内分泌腫瘍(NET)を教えて下さい

 膵臓、消化管すべての神経内分泌腫瘍(NET)を対象としています。NETは肝転移を起こしやすく、診断、治療が非常に重要です。肝転移をどう治療するかで大きな違いがありますが、未だに日本のコンセンサスは出来ていません。NETは、世界中の国と地域において特徴が異なるため、日本も独自の診断治療方針を決めていかなければなりません。当科は日本初のNET外来を創設し、全国から多くのNET患者が集まり、豊富な経験をもとに独自の診断/治療方針を作り、この稀少な病気と戦っています。

NETは遺伝ですか?

 遺伝のものと遺伝ではないものがあります。遺伝の場合はMEN-I型、VHL(フォンヒッペルリンドウ病)などがあります。診断と治療は遺伝子の種類によって変わって来ますのでさらに専門的な判断が必要になります。当院遺伝子外来とがっちりタッグを組んで腫瘍の悪性度予測や、遺伝病が将来に来すその他の悪性腫瘍の判断などを行っています。

 遺伝ではないと判断されているものも遺伝の可能性が否定できない場合には遺伝子診断を行うことで治療方針が変わることもあります。

NETは癌ですか?

 初診時に転移や浸潤がないNETが癌であるかどうかは極めて専門的な判断が必要です。NETの中で転移のあるものや周囲組織への浸潤があるものを癌と分類していた時代があったように、癌かどうかの診断は非常に困難です。

 潜在的な悪性度を判断するためにWHO2010年分類が提唱され、それを改良したWHO 2017年分類が出ましたが、予後を十分に反映しているとは言えず、まだ改良の余地があると思われます。

WHO 2017分類
  Ki-67 index Mitotic index
Well differentiated NET G1 < 3 % < 2 /10 HPF
Well differentiated NET G2 3-20 % 2-20 /10 HPF
Well differentiated NET G3 >20 % >20 /10HPF
Poorly differentiated NEC G3
Small cell type
Large cell type
Mixed neuroendocrine non-neuroendocrine neoplasm (MiNEN)
HPF: high power field

症状を教えてください。

 インスリノーマはインスリンを産生する機能性腫瘍で主症状は低血糖です。「会社で仕事中に眠ってしまった」など、不運なことに病気だと思われないこともあります。治療しても治らない胃潰瘍はガストリノーマを疑わなければなりませんし、融解性移動性紅斑はガストリノーマの特徴的な症状だと言われています。激しい水様性の下痢はVIPomaを疑います。一日10~50回の下痢を起こすこともあります。皮膚の紅潮、心疾患、気管支収縮はカルチノイド症候群を疑います。非機能性では症状が出づらいため、病気の発見が遅れます。

非機能性NETを見つける方法はあるのですか?

 偶然に見つかることが多いので、腹部造影CT検査や腹部超音波検査をしてみないとわかりません。当科に受診された方で、腫瘍が大きいために胃を圧迫して食事が食べづらくなった人もいますが、肝転移でみつかる例もよくあります。ソマトスタチン受容体シンチで見つかる腫瘍もあります。

小さい非機能性NETは治療しなくてもいいですか?

 NETは原発巣が小さくとも10㎝を超える肝転移を来すこともあります。また2014年の大規模な米国の報告では5mm以下でもしばしばリンパ節転移、肝転移を来すことが知られています。日本のガイドラインでは非機能性はリンパ節郭清を伴う定型切除が推奨されていますし、米国のNCCNのガイドラインでも例外は設定されていますがほぼ同様の方針が推奨されています。経過観察も可能ですが、患者さん一人一人の状況に合わせて専門的に判断する必要があります。

ソマトスタチン受容体シンチ(SRS; Somatostatin Receptor Scintigraphy)とは何ですか?

 SRSは日本では認可されておりませんが、海外から検査薬を取寄せて施行しています。1cm以上のNETが描出できるので 転移巣を含めた全身検索に極めて有用です。当院ではSRSと手術中のソナゾイド造影超音波検査(CEIOUS)を組み合わせて診断の精度を高めています。これらは世界初の試みですが、従来の検査でわからない腫瘍がわかるようになりました。CEIOUSのparametric imageは特に重要で、CTなどでわからない情報が得ることができます。NETと膵癌の典型像を動画で示します。

NET

膵癌

手術と抗癌剤のどちらを選べばよいでしょうか?

 NETは、膵癌や食道癌などと違って腫瘍の成長スピードが遅いので、外科手術が非常に有効です。肝臓や肺への転移も手術で取ることができるかが重要です。現時点で手術と比較できるレベルの抗癌剤はありませんが、血管内治療(肝動脈塞栓療法)や、その他の治療が有効な場合はそちらを優先することもあります。患者さん一人一人の状況に合わせた専門的な判断が必要です。ある特徴をもつNETに有効な薬も使用されるようになり、症状を緩和するだけでなく、新しいオプションとして期待されています。下図は手術を行った2例です。

肝転移の治療法がないと言われたのですが…

 われわれは肝転移の積極的な切除をしています。最近は他院で切除不能と言われた患者様が集まり、薬物療法後に縮小効果を得て切除可能となるケースもしばしば経験するようになりました。積極的な手術や動脈塞栓療法が極めて有効です。上は手術、下は動脈塞栓術の例です。

手術記録 G2原発非切除

最後に東京医科歯科大学肝胆膵外科の特徴を教えてください

 当院は2017年11月現在で累積397人の神経内分泌腫瘍の患者様が来院され、日本を代表するNETの診療数となっています。2010年の全国集計で膵NECは95人、消化管NECは 130人と報告されていますが、当科は膵NECが44人、消化管NECが46人と全国一の経験数があります。また他院で非切除とされたNEC であっても、積極的な切除を考えます。特に肝転移の治療法は専門的な判断が重要であり、肝転移の切除方針のセカンドオピニオンを求めて当科セカンドオピニオン外来を受診する患者様が急増しています。

英語論文

  1. Oba A, Kudo A, Akahoshi K, Kishino M, Akashi T, Katsuta E, Iwao Y, Ono H, Mitsunori Y, Ban D, Tanaka S, Eishi Y, Tateishi U, Tanabe M. A simple morphological classification to estimate the malignant potential of pancreatic neuroendocrine tumors. J Gastroenterol. 2017 May 9.
  2. Ito T, Honma Y, Hijioka S, Kudo A, Fukutomi A, Nozaki A, Kimura Y, Motoi F, Isayama H, Komoto I, Hisamatsu S, Nakajima A, Shimatsu A. Phase II study of lanreotide autogel in Japanese patients with unresectable or metastatic well-differentiated neuroendocrine tumors. Invest New Drugs. 2017 May 3.
  3. Katsuta E, Kudo A, Akashi T, Mitsunori Y, Matsumura S, Aihara A, Ban D, Ochiai T, Tanaka S, Eishi Y, Tanabe M. Macroscopic Morphology for Estimation of Malignant Potential in Pancreatic Neuroendocrine Neoplasm. J Cancer Res Clin Oncol. 2016 Jun;142(6):1299-306.
  4. Katsuta E, Tanaka S, Mogushi K, Shimada S, Akiyama Y, Aihara A, Matsumura S, Mitsunori Y, Ban D, Ochiai T, Kudo A, Fukamachi H, Tanaka H, Nakayama K, Arii S, Tanabe M. CD73 as a therapeutic target for pancreatic neuroendocrine tumor stem cells. Int J Oncol. 2016 Feb;48(2):657-69.
  5. Kano Y, Kakinuma S, Goto F, Azuma S, Nishimura-Sakurai Y, Itsui Y, Nakagawa M, Kudo A, Tanabe M, Kirimura S, Amano T, Ito T, Akashi T, Asahina Y, Watanabe M. Primary hepatic neuroendocrine carcinoma with a cholangiocellular carcinoma component in one nodule. Clin J Gastroenterol 7:449-454, 2014.
  6. Kudo A, Akashi T, Kumagai J, Ban D, Inokuchi M, Kojima K, Kawano T, Tanaka S, Arii S. The Importance of Clinical Information in Patients with Gastroenteropancreatic Neuroendocrine Tumor. Hepato-gastroenterology. 2012 Nov-Dec; 59(120): 2450-3.
  7. Kudo A, Ban D, Akashi T, Kumagai J, Aihara A, Inokuchi M, Kojima K, Kawano T, Tanaka S, Arii S. Prognoses of GEP-NETS with undetermined malignant potentials of their primary sites. Hepato-gastroenterology. 2012 Sep; 59 (118): 1682-1686.

日本語論文

  1. 工藤 篤 消化器領域の神経内分泌腫瘍 再発例・転移巣(肝・リンパ節)への治療方針は? 臨床腫瘍プラクティス ヴァン メディカル 2017;13(4):291-295
  2. 工藤 篤 エキスパートオピニオン 超高齢者における病態の特性、治療の適応、治療の実際 膵疾患 膵内分泌腫瘍 肝胆膵 アークメディア 2017;74(3):463-469
  3. 工藤 篤 胆膵腫瘍に対する術前治療と切除前後の効果判定法 膵神経内分泌腫瘍 胆と膵 2017;38(5):519-525
  4. 工藤 篤 神経内分泌腫瘍の肝転移の治療  日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 2016;33(2):105-109 
  5. 工藤 篤 膵神経内分泌腫瘍の切除手術と薬物治療  肝胆膵がん治療2016 膵・消化管NETの診断と治療 2016 May 33(5) 86-94.メビオMebio メジカルレビュー社 
  6. 工藤 篤 膵・消化管NETの診断と治療 日本消化器病学会 第26回教育講演会テキスト  P38-P51. 2015
  7. 工藤 篤、伴 大輔、上田浩樹、千代延記道、水野裕貴、大畠慶映、赤星径一、大庭篤志、伊藤浩光、光法雄介、松村 聡、藍原有弘、落合高徳、田中真二、田邉稔.膵神経内分泌腫瘍に対するneoadjuvant chemotherapy 臨床外科 第70巻第7号866-871.2015
  8. 工藤 篤、田邉 稔.膵内分泌腫瘍の診断・治療の新展開 11.膵内分泌腫瘍における鏡視下手術の現状と適応 胆と膵 第36巻6号 P575-579. 2015
  9. 工藤 篤、田邉 稔.膵・消化管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)のアップデート P-NETの集学的治療における外科治療はどうかわったか 臨床外科 2015;70(4):456-463
  10. 工藤 篤、田邉 稔.P-NETの外科治療および分子標的治療 日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 2014;31(4):290-297
  11. 田中真二, 勝田絵里子, 工藤 篤, 田邉稔, 有井滋樹. 【特集/肝胆膵診療のNew Horizon】膵神経内分泌腫瘍.保険収載されたエベロリムス、スニチニブ、オクトレオチドLAR を如何に使うか? 肝胆膵. 2014; 69(6);1220-1227
  12. 工藤 篤、有井滋樹.特集/肝胆膵疾患の「予後」の変遷 II 膵疾患 6.膵内分泌腫瘍の予後. アークメディア 66 (3) 523-532, 2013
  13. 工藤 篤、伴大輔、藍原有弘、入江工、落合高徳、中村典明、田中真二、有井滋樹. GEP-NET肝転移症例に対する外科切除の意義. NET WORK JAPAN. 2012;第7回:16.
  14. 工藤 篤、有井滋樹.特集/膵神経内分泌腫瘍-Update 2011 5.治療 3)肝転移に対する治療. 「肝胆膵」63巻2号 アークメディア, 2011 317-326

日本語論文

  1. 招待講演 膵神経内分泌腫瘍の抗体療法時代における外科治療のあり方 第53回多摩核医学技術検討会 東京 2017.11.7.
  2. 特別講演 WHO2017時代の膵神経内分泌腫瘍の集学的治療 宮城pNET講演会 仙台 2017.10.18.
  3. 招待講演 膵神経内分泌腫瘍(Pan-NEN)の診断基準 WHO2017のトピックス 東京NETワークショップ 東京 2017.8.30.
  4. 特別講演 pNETの診断と治療 愛媛pNET/GIST講演会 松山 2017.7.29.
  5. 招待講演 進行pNETの集学的治療 第15回日本膵臓学会モーニングセミナー 京都 2017.7.15.
  6. 招待講演 進行pNETの外科治療をどうするか 第15回神奈川胆膵癌研究会 横浜 2017.7.12.
  7. 招待講演GI-NET肝転移の外科治療、TAE・TACE 消化管神経内分泌腫瘍フォーラム2017 東京 2017.6.15.
  8. 特別講演 神経内分泌腫瘍の肝転移治療の最前線 第6回アジア・太平洋肝胆膵外科学会 横浜 2017.6.8.
  9. 招待講演 神経内分泌腫瘍のこれから 市民公開講座 神経内分泌腫瘍患者会しまうまねっと 東京 2017.4.2.
  10. 特別講演 WHO2017 本邦におけるpNETの診療はどう変わるか? pNET全国Webシンポジウム2017.3.23.
  11. 招待講演 進行NET集学的治療への展望 外科医の立場から NET PROGRESS JAPAN 2017 東京 2017.2.25.
  12. 招待講演 GEP-NETの集学的治療 外科医の立場から NEXT JAPAN 2017 招待講演 東京 2017.2.18.
  13. 特別講演 進行NETに対する外科治療の最前線 新潟NETフォーラム 新潟 2016.11.10.
  14. 特別講演 P-NETの肝転移の治療 最近の話題 広島p NET講演会 広島 2016.10.27.
  15. 招待講演 外科治療の最新情報 市民公開講座 国立がんセンターがん研究振興財団国際会議場 2016.9.25.
  16. 特別講演 膵NETに対するSunitinib 日本神経内分泌腫瘍研究会 東京大学 2016.9.24.
  17. 特別講演 P-NET治療の最新知識 中国四国消化器希少腫瘍講演会 岡山 2016.7.23.
  18. 特別講演 NETの治療戦略について GI-NET講演会 東京 2016.6.24.
  19. 特別講演 P-NETの集学的治療アップデート 京滋北陸希少腫瘍講演会 京都 2016.6.10.
  20. 特別講演 NET肝転移に対する術式の再考 日本肝胆膵外科学会 大阪 2016.6.4.
  21. 特別講演 P-NETの集学的治療アップデート 千葉県PNET治療セミナー 千葉 2016.5.17.
  22. 病理組織学的に鑑別診断が困難であった神経内分泌腫瘍 第89回日本内分泌学会総会 京都 2016.4.21.
  23. 特別講演P-NET集学療法の最前線 第102回日本消化器病学会総会 東京 2016.4.21.
  24. 招待講演 P-NET肝転移の治療最前線 信州GIST/PNET学術講演会 松本 2016.3.25.
  25. 招待講演 神経内分泌腫瘍の薬物療法 文京NET講演会 東京 2015.12.16
  26. 招待講演NETにおける集学的治療における診断上の課題 東京NET WORK 2015 東京 2015.12.8
  27. 招待講演 神経内分泌腫瘍の集学的治療 沖縄NET Forum ラグナガーデンホテル 那覇 2015.11.27
  28. 特別講演 進行NETに対する外科治療の最前線 〜集学的治療の見地から〜 JDDW2015 東京 2015.10.10.
  29. 招待講演 局所進行pNETと肝転移に対する治療戦略 首都圏消化器癌セミナー2015 東京 2015.6.25.
  30. 教育講演 膵・消化管NETの診断と治療 日本消化器病学会 第26回教育講演会 東京 2015.6.21.
  31. 招待講演 分子標的療法は進行pNETの切除基準を変えるか? 東海GIST/pNET講演会 静岡 2015.5.21.
  32. 招待講演 進行pNETの治療戦略〜ボーダーラインp-NETを巡る議論〜 埼玉pNETセミナー 2015.5.12. 埼玉
  33. 特別講演 pNETの治療戦略と分子標的治療薬の役割 pNET Webシンポジウム 2015.2.24. 東京 
  34. 特別講演 いつ治療をするか?分子標的薬選択のポイント pNET Expert Meeting 2014 東京 2014.10.18.
  35. 特別講演 増え続けるGEP-NET 外科医のMissionとは? 新潟GIST/p-NET学術講演会 新潟 2014.9.5.
  36. 特別講演 P-NETの新しい悪性度診断と肝転移治療の進歩 第21回外科フォーラム 東京 2014.7.26.
  37. 特別講演 手術が進化する分子標的療法 第12回日本臨床腫瘍学会 福岡 2014年7月17日
  38. 特別講演 ガイドライン策定のためのP-NET肝転移の治療方針~ NET EXPERT SEMINAR 横浜2013.11.23.
  39. 招待講演 P-NETの治療戦略 Focus on NET学術講演会 長岡 2013.11.25.
  40. 招待講演 膵神経内分泌腫瘍の治療戦略 第6回Tohoku-NET Work,東京,2013.9.23.
  41. 特別講演 神経内分泌腫瘍の治療戦略 第25回日本内分泌外科学会総会,山形,2013.5.23.
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