手術の危険度や合併症

 肝臓は血管の豊富な臓器で、肝臓を切るといっても簡単に切れるものではありません。止血処置を行いながら、また肝内を走る細かい胆管を閉鎖する処置を行いながら肝臓を切っていきます。切除にはそれなりの合併症があります。しかし、ほとんどの合併症は想定の範囲内のもので対処法も確立しておりますので、多少の入院期間は延長しますが最終的には完治していただきますのでご安心下さい。

しばしばある合併症

  • 胆汁漏

     肝臓は胆汁を産生している臓器なので肝臓を切ったところからは胆汁が漏れてきます。もちろん、漏れないような処置を施して手術を行っていますが、それでも手術後に漏れてくることあります。通常はドレーン(排液管)留置を続けることによって自然におさまります。(1〜2ヶ月かかることがあります)

  • 胸水

     横隔膜のすぐ下の肝臓を手術しますので、横隔膜を介して炎症が波及して胸(特に右側)に水が溜まることがあります。胸水の量が多く呼吸に悪影響を及ぼしている場合は、針を刺して胸水を抜く処置を行うこともあります。

  • 腹水

     手術後にお腹の中に水が溜まることがあります。肝機能が低下にともなって腹水は増加します。とくに術前から肝機能不良の方の場合、手術による影響でさらに肝機能が低下しますので、それに伴って大量に腹水が出るときがあります。利尿剤(尿をだす薬)を投与したり、ドレナージ(腹水を抜く)などしたりします。多くの場合は、日数が経つと自然になくなることがほとんどです。

稀な合併症

  • 術中出血

     手術中に予期せぬ出血がある場合があります。肝臓という臓器は内部に複雑に血管が走っている血管の塊のような臓器です。とくに焼灼や塞栓などの治療後の影響がある場合や、大血管に腫瘍が近い場合など出血のリスクは高くなります。もちろん、細心の注意を払って手術に臨みますが、一定の確率で偶発的に出血することがあるのも事実です。その際は輸血などで対処し、出血を最小限に食い止めるように全力を尽くします。

  • 肝不全

     肝硬変などでもともと肝機能が悪い場合や、肝機能が比較的良くても肝臓を大量に切除した結果、肝臓が耐えられなくなって、黄疸、腹水、意識の低下などを伴う肝不全に陥ることがあります。重篤な場合は残念ながら致命的になることもあります。

その他一般的な全身麻酔および開腹術を行うことによる合併症

  • 脳合併症(脳梗塞、脳出血など)

     過去に既往のある方は、より危険性が高くなります。

  • 肺合併症(肺炎、無気肺など)

     特に高齢の方では手術の前から呼吸訓練をすると共に、早期離床に努めていただきます。また肺合併症予防の面からも手術前後の喫煙は厳禁です。

  • 心臓合併症(心不全、心筋梗塞、狭心症など)

     術前には心電図、胸部レントゲン写真などで心臓の病気がないか確認をして手術に臨みますが、予期せず心筋梗塞、心不全、不整脈などが術中・術後に発生することがあります。この場合にも適宜対処させていただきます。

  • 下肢静脈血栓症、肺塞栓症

     手術中・手術後にじっと寝て動かないために、足の静脈内で血がかたまり、足が痛くなったり腫れたりすることがあります(下肢静脈血栓症)。さらに血の固まりが流れて肺の血管がつまると(肺塞栓症)、重い呼吸困難・突然死の原因になることがあります。当院では、術中に下枝を空気圧でマッサージするポンプを装着して、血液のうっ滞を予防しています。また、手術後早期から歩いていただいて血栓の発生を防ぎます。

 以上、考えられる合併症について説明しましたが、手術の場合、まれに予期せぬ事態が発生し重篤な状態となることもありえます。

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