転移性肝がん

1.転移性肝がんとは

 転移性肝がんとは、肝臓以外の臓器にできたがん(原発巣)が肝臓に転移したものを意味します。ほぼすべてのがんにおいて、肝臓へ転移する可能性がありますが、実際には消化器系がん(大腸がん、胃がん、膵がんなど)、乳がん、肺がん、頭頸部のがん、婦人科(子宮や卵巣)のがん、腎がんなどが肝臓への転移を認めることが多いとされています。

2.がんの転移とは…

 最初にできたがん(原発巣)が大きくなるにつれて、その周囲の血管やリンパ管などにもがん細胞が浸潤するようになります。血管やリンパ管に浸潤したがん細胞は、血液やリンパ液の流れにのって全身に広がりますが、それらのがん細胞のうち、肝臓にながれたものが新たながん細胞の塊(転移巣)を形成すると、肝転移(転移性肝がん)となります。ちなみに、リンパ管に浸潤したがん細胞がリンパ液の流れにのっていき、関所に相当するリンパ節において塊を形成した場合が、リンパ節転移ということになります。

3.大腸がん肝転移について

 転移性肝がんのなかで最も頻度が多く、手術を行うことも多い大腸がん肝転移について説明します。大腸がんに罹られた患者さんのうち、診断がついた時点ですでに肝転移を認める患者さんは約10%、また大腸がんに対して手術を行った後に肝転移を発症する確率は、切除した時の進行度にもよりますが、5〜30%とされています。そして、大腸がん患者さんの生命予後にこの肝転移が深く関わっています。

4.肝転移に対する治療はどのようなものがありますか?

  1. 肝切除

     最も治療成績が良く、長期生存が期待できる唯一の方法とされているのは肝切除、すなわち外科的に切り取る方法です。肝転移切除後の5年生存率は一般に30-50%です。しかし、がんの広がりが著しいために切除できない患者さんの方が多いのが現状です。ただし、切除か否かの判断には外科チームの手術熟達度も大いに関与しますので、肝切除に実績のある施設を選ぶことが大切です。私たちは年間約100例の肝切除を行っており、全国でもトップクラスの実績を有しております。たとえば、肝臓全域に散在している肝転移に対しても十分な検討を加えたうえで安全に取り切れると判断されることもあります。簡単にあきらめずに専門病院を受診されることをお奨めします。

  2. 薬物治療

     近年、大腸がんに対する薬物治療(抗がん剤治療)の進歩は著しいものがあります。従来ならば肝転移を含めた全ての大腸がんが切除できない患者さんの生存期間は、1年未満とされていましたが、多剤併用療法(FOLFOX療法やFOLFIRI療法など)や、とくにアバスチン、アービタックス、ベクテイビックスなどの分子標的薬を併せて治療を行うことにより、2年近くまで生存期間が延長されてきました。しかし、抗がん剤だけでがんを治療することはほとんど不可能です。そこで当科では大腸肛門外科とも協力し、積極的に手術治療を行っております。

  3. 外科治療と薬物治療との組み合わせ

     B)で述べましたように、薬物治療が進歩したことは外科治療においても福音であり、肝切除と薬物治療の組み合わせが広く行われるようになっています。以下のような方法がありますが、現時点ではこれらのうち、どの方法が最も治療成績が良いかはまだ明らかにはなっていませんので、専門医と十分に相談して選択することが大切です。

    • 肝転移の切除
    • 肝転移の切除→薬物療法
    • 薬物療法→肝転移の切除→薬物療法

5.肝臓の再生能力をいかした治療方針

 肝臓には再生能力があるため、正常な肝臓であれば、手術前の30〜40%程度の肝臓が手術後に残っていれば、数週間で再生しほぼ元の大きさに戻ります。そのため、効果的な抗がん剤治療ができるようになった現在では、小さくはなっても肝臓全体に多発した肝転移を、1回目の手術でできるだけ切除し、残りの肝臓が再生した後の2回目の手術で取り残したものを全て切除できることがあります。また、肝臓の再生を待っている肝切除と肝切除のあいだに、抗がん剤治療を行うこともあります。

6.おわりに

 われわれは、転移性肝がんの患者さんにメスだけで治療しようと考えているわけではなく、手術と抗がん剤という2種の治療方法を有効に用いることにより、従来ならば手術の適応外と考えられていた患者さんに対して、積極的に手術を行っております。また、大腸がん以外にも、膵内分泌がんや乳がんといった、特に近年抗がん剤治療の進歩が著しいがんに対しても大腸がん同様に、従来ならば手術をあきらめざるを得なかった患者さんに対しても手術治療が可能であると考えております。

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